6話 半端な血の英雄と夢
ビアーは目を輝かせて言う。
「ここが我の暁の酒場じゃ!」
「お前のではないけどな」
『暁の酒場』
凄く陽気な雰囲気をしており、
若者の冒険者が多くいた。
いつもの酒場とは正反対である。
この国で一番と断言していいほど、
酒が豊富に揃えられており、
木製の棚に大量の酒瓶が並べられていた、
三人は、適当なテーブルを選び席に着き、ゴッチェが乾杯の音頭を取った。
「では!ハイネコの単独ゴブリン討伐に乾杯!」
グビっと酒を飲む3人。
「美味いのじゃ、酒と葉巻止められんのじゃ」
「流石高いだけあって質が良いな」
「私は暗くどんよりしたいつもの酒場の方が落ち着く」
「それ、遠回しに馬鹿にしてないか?」
1杯目の酒がなくなったぐらいでビアーが口開く、
「ではハイネコおぬしから何か語るのじゃ」
灰猫は思う語りたくも語る必要もない、お前に話すことになんの意味があると、
「ない」
「俺はまず、ビアーについて知りたいぞ」
淡白な返事をする灰猫にすかさずフォローを入れる。
この短い間灰猫と関わってゴッチェが分かったことは、機嫌が悪い時は適当に返事するのだが、酒が回り始めるとけっこうお喋りになるということ。
だから、まずは灰猫のお喋りボルテージをあげるために飯と酒を食べさせるのだ。
今の雰囲気的に10%ぐらいとゴッチェは見立てている。
ビアーを先に語らせることにより、時間を作る、
自分ながら完璧な作戦だとゴッチェは思った。
「嫌じゃが、先に我の酒の肴になる話をしろ興が乗らんのじゃ」
ゴッチェの完璧な作戦は無情にも意地悪な魔女に止めらてしまった。
最初からこうすれば良かったと…
睨み合う両者に耐えきれずゴッチェは申し出る。
「先に俺が話をさせてもらおうかな、俺の夢についてだな」
「それは前も聞いた話じゃ英雄になる話じゃろ?」
「そうだなもう少し深く話をしようと思う」
灰猫も耳だけは傾けていた。
空っぽの人生に注がれるのは酒のみであるゴッチェのもう一つの夢は、
自分の生きる意義を見つけることだ。
ゴッチェ・『 』・インペリアル
皇帝陛下と辺境の村娘とできた子供である。
皇帝陛下の若気の至りとしてできたゴッチェは一応血のつながりとして、15歳まで城で暮らすことを許可されていたのだが、
扱いは質素なものだった。毎日部屋に閉じ込められ人と会えるのは、飯の時間と教育の時間だけである。
皇帝陛下の血を半端に受け継いだゴッチェは、強大な肉体のみを得た。
本来の血筋ならこの筋力に、豊富な魔力を持って産まれてこれていたのだ。
英雄になれないと判断され、名を剥奪されてしまった、
ゴッチェは殺されても仕方がない存在だった。隠し子のうえに半端ものだからだ、だが皇帝陛下の戯れで生かされたのだ。
数年は暮らせるお金を渡され、城から追い出された。
半端でも英雄の血の持ち主、15という若さで個人Sランクまで上り詰めることになるのだが、
一人で英雄は、無理と感じフォルテスというパーティーをつくることになったのだ。
「だからお主の名に空白があったんじゃな」
ずっと貴族当たりだと思っていたビアーだったが、
実は皇帝の隠し子であり心の中は大騒ぎである、
え、え、我本物の英雄の血筋と冒険できるのか!
もう人生の大きな分岐点だった。
「そうだ」
灰猫は皇帝の隠し子というものに興味はなく、
目の前の肉と酒を一心不乱に食べていた。
ただ凄い有名人位の感覚ほどにしか思えていなかったのだ、
「この国の英雄と言われる者はすべて皇帝の一族の者だ。5つの国に認められ、英雄として皇帝に謁見できる、英雄として民に称えられることによって、初めて皇帝になれる権利を与えられる」
「おぬし、それ聞かされた我は死刑にならんじゃろうな…」
初めて聞く重要な情報にビアーはゾッとした。
灰猫も肉を食べる手を止め、真剣にゴッチェの言葉を聞く。
「多分大丈夫だ、別れ際に誰にも告げ口してはいけないと言われなかったからな。だが、これを知ってるのも皇帝の血の入った者しかしらないから広める真似は辞めてくれ」
「我は死にたくないから言わないのじゃ、ただお主の話を聞いている限り、英雄はむりなんじゃないか?もう皇帝の一族ではなかろう?」
「いや、なれないのは皇帝の座につくことだけで、英雄にはなれる。この国含めて認めさせればいい」
半端者でも英雄になれるということを父である、皇帝陛下に証明したかったのだ。
例え英雄になれなくても、証明ができないとしても、何もない灰色の人生に夢という色を付けれるのだ、
それだけでも英雄を目指す価値はあるとゴッチェは思い挑戦することにした。
「追い出されたのに、どうやって戻る気なんだ?」
灰猫は純粋な疑問をゴッチェにぶつける。
「追い出される前に皇帝陛下に言われたんだ、一度だけ謁見してやると」
「なんじゃと?なら皇帝になる可能性はあるのか?」
「あるとは言い切れない、しかも俺は半端者だし」
オークの時はゴッチェを怖いと感じていた灰猫だったが、弱ったゴッチェを見ると不思議と応援したくなったのだ。こいつも私と同じで脆い人間なんだと通じ合うものがあったのかもしれない、
「ゴッチェ!どうせなら皇帝の座も奪ってやろう、私は盗人だから全部奪いたい」
「だいぶ酔っとるなおぬし!飲み過ぎじゃ」
そりゃ不味いだろうと、だが考え方は嫌いじゃなかったビアーだった。むしろ自分と同じことを考えていて親近感を持てた。
「ガハハハ!行けるとこまで行ってみるか!」
「そうじゃな!我も賛成じゃ!」
「私も、うっ、吐きそう!」
顔を赤く染めて元気よく吐く宣言をした灰猫に2人はドン引きであった。
「とりあえずハイネコ動けるか?」
「少しだけなら行ける」
「ゴッチェその馬鹿を外に連れていくのじゃ」
手を繋いで出ていく2人は身長差もあり、親子みたいであった。
「ちょっとそこの路地裏行ってくる」
「ここらへん治安は悪くないけど気をつけろよ」
「大丈夫!ダガーがある!」
2本のダガーを両手で持ち見せびらかす灰猫に、苦笑するゴッチェだった。
「なんか路地裏歩いてたら収まってきたかも」
「ん?」
吐き気が収まってきた直後のことであった。
何かグニョっと変なものを踏んでしまった灰猫。
瞬間足を掴まれた。
「可愛い少女ちゃん、ボクを助けてくれないか?」
暗闇でも分かる、黄色の瞳を輝かせて、そう言ってきたのは金髪の男だった、編み込まれた長い後ろ髪が特徴的であった。
人間よりも長い耳をもっており、腕には無数の傷がついている。
「離せ」
掴んできた腕を踏むが離さないので、ダガーで浅く斬りつける。
「あぁ!情熱的だ!」
「君みたいな少女にボクは会いたかったんだよ!」
瞬間、助けを求める変人から変態に早変わりした。
灰猫は本当に、金髪のやつとの出会いに良いものがなく、むしろ最悪の象徴であった。
「ゴッチェ!助けてくれ!」
「なんだ、服にゲロでもかけたか」
「変な金髪の男に絡まれた」
灰猫を襲った金髪の男に見覚えがあり、ゴッチェは驚愕した。
「久しぶりだねゴッチェ、仲間が増えてたからボクは戻ってきたよ」
「俺はもう正直戻って来ないと思ってたよアルプ、また治安局に捕まったのかと」
「抜け出してきたよもちろんお金払って、それと君がハイネコちゃんなんだ。これからよろしくね」
ゴッチェの後ろに隠れる灰猫、
「近寄るなしね」
「また治安局に追いかけられたいのかアルプ」
「可愛かったからつい」
「妖精も元気なのか?」
「いやぁ、それがさ…」
パーティーメンバーであるアルプ・アルフヘイムとの再会であった。
治安局…警察的な立ち位置ただ買収可能。