3話 『ヤニカス』魔法使い
「なんだお前面白いな、魔法発動するときそんな変な呪文唱えてるのか」
少女は体にそぐわぬ大きなローブをまとっていた、
いかにも自分は凄い魔法使いであるみたいな感じで、
腰にまで届きそうな紫色の髪をなびかせながら、
紫色の瞳を鋭くして、少女は、訴えかける。
「我の呪文は変じゃない!」
「変なのはうぬらで、あってだな」
「はいはい、まぁ、ハイネコを治してくれてありがとな」
普通この世界の魔法は、名だけを唱えれば発動するのだが、
この少女は、発動前にわざわざ自分の考えた呪文を唱えるのだ。
「これだからロマンの分からん若者は」
ローブの懐から一本の葉巻を取り出し、吸っている。
「葉巻吸ってるのか」
「かっこいいからな」
この世界で葉巻は珍しくはない、ただ安くはない、
少なくとも高級嗜好品として貴族に嗜まれるぐらいだからだ。
一般人でも買えないことはないが、流通も少なくなく存在を知らない人も多い。
「ぬしは葉巻の存在を知っているのか?」
「あぁ」
「これ作ったのは我じゃ」
「まじかよ!すげぇな!」
実は龍族で流行っていたものをパクって作ったと公言するのは、自分のプライドが許さず少女は何があっても言わないと決めている。いずれバレる時が来ると、分かっていてもだ。
龍族にバレる怖さよりも、こうやって褒められることのご満悦で気分を上げる方が恐怖より勝ってしまったのだ。
「仲間を治してくれてありがとな、俺の名前はゴッチェ・インペリアルよろしく」
「我の名はビアー・アルタウス、でそこの娘は?」
ハイネコは正直話たくなかった。これ以上変なのと関わりたくないためだ、そっぽ向いて逃げようかと思った矢先にゴッチェが肩を掴んでくる。
「こいつはハイネコって言うんだちょっと人見知りが激しくてな、それにそいつは自称男だ」
「うそじゃ!こんな可愛い娘が男なわけなかろう」
「まぁなんじゃハイネコとやらよろしく頼む」
ふわっとビアーから出てくる煙が灰猫を襲った。
灰猫は葉巻の匂い自体は嫌いではなかった、生前たくさんその匂いにまとわれていたからである。
灰猫の父はよくタバコを吸っており、いたずらでタバコの煙を灰猫の顔にめがけてかけられていたのだ。あの時は嫌だったのだが、今はむしろ懐かしさが湧き出てくる。
ただ様子見を含めて無言を貫く、変なのはゴッチェだけで充分だと思っていたからだ。
「一本吸うてみるか?ハイネコ?」
これ以上関わるのは嫌であった灰猫だが、あんまり素っ気ない態度をとるのもどうかと思いしょうがなく葉巻を一本受けとる。
「火もつけてやる」
小さな魔道具で火をつけるビアー、
「魔道具まで持ってるのか、凄いなビアー」
「馴れ馴れしく呼び捨てで呼ぶな、ビアーさんだ」
「まぁ、いいじゃねぇか!」
「よくなぁ〜い!」
灰猫は葉巻思いっきり吸った。
「ゲホッ」
咳が数回止まらなく出る、涙目になってはいたが、
味は嫌いではなかった。甘い薬草みたいな感じで、
生前に食べた野草を思い出した。
「どうだ?」
灰猫の目を紫色の瞳で見つめてビアーは言ってくる。
「不味くはない」
「なんだそれは?ふざけておるのか?」
「美味いといえ、美味いと」
「美味い」
「そうじゃろ!」
灰猫は適当に答えるが、ビアーは嬉しそうに返事をしていた。
「今から酒場でハイネコの冒険者カードを見ようと思うんだが一緒にどうだ?」
「まぁ、我も今日は依頼の確認だけしにきて暇だから付き合おうぞ」
「よしきた!」
「もちろんうぬら持ちじゃが」
「なんでだよ」
いつもの酒場に着き、
「おっちゃんいつもの3つ」
「あいよ」
「なんで勝手に頼むんじゃ!」
「まぁまぁここで1番美味いやつだからさ」
「ふむ、ならゆるそう」
もう灰猫は帰りたかった、いつもの草原で寝てゆっくりしていたいと心の底から思った。
「お前ここでも吸うのか」
「当たり前じゃ、ずっと吸うてても飽きんむしろないと弊害が出る」
「もうそれ呪いだろ」
お酒がテーブルに着くまで2本吸いきっていた。
「じゃ、お楽しみの冒険者カードだ、ハイネコ指をここに置け」
言われたまま緑の枠に指を置くと、カードから文字が浮き出てくる。
名前 ハイ ネコ
パーティー 無所属
パーティーランク E
役職 無職
個人ランク E
魔力量 200
適正魔法
火 5
水 4
岩 2
風 9
闇 2
光 1
「お前、名前ネコなのかよ!」
「無職ネコじゃ!」
ゴッチェとビアーは笑う
「私シーフじゃねぇの?」
「すまん、後でまた行くことになりそうだ冒険者協同組合」
「嫌だ!めんどくさい!」
「まぁ、そう言うなよ、肉頼んでやるからさ」
灰猫は不貞腐れても、肉だけで簡単に了承するから扱いやすいとゴッチェはそう思った。
そういうところが灰猫の好きなところでもあった。
「無職ネコおぬし、風魔法の適正高いな」
「そうだな10段階中9もあるそれに魔力量も高いな」
「あっそ」
「ほんと悪かったて」
「まぁ、我はオール10じゃが」
「嘘つけそんな化け物がこんな街にいるわけねぇだろ」
ドンと机の上に冒険者カードを置く
名前 ビアー・アルタウス
パーティー 無所属
パーティーランク E
役職 魔術師、武闘家
個人ランク A
魔力量 2000
適正魔法
火 10
水 10
岩 10
風 10
闇 10
光 10
「マジもんの化け物じゃねぇか」
「いや、それほどじゃないが?」
「てか武闘家ってなんだよ!」
「いや、知らんな〜我」
「知らんな〜って…」
照れているビアーだが、古代の英雄と遜色なしの能力を持っている。
英雄と同じステータスを表示してるのに食いついているのはゴッチェだけだ、
灰猫は先程きた、お肉と真剣に戦っていた。
「それになんで無所属なんだそんな強いのに」
「なんでそんなこときく?」
「マジでなんでだ?」
「そんなの1人の方がかっこいいからじゃ!パーティー?仲間?そんなのいらんわぁ!!」
少し酔ってきていたビアーは大きく葉巻を吸い、煙を出して言う。
その顔はどこかヤケクソ感があり、別に仲間はいつでも集められますよと言いたげだ。
「なら俺らの仲間にならないか?お前と旅をするのは楽しそうだ!」
「は?話聞いていたのか?しかもおぬしは我以下であろうに」
ビアーの中では強さとランクが正義なのだ。
それ故、弱いやつとは組まないと心から決めている。
スッとゴッチェは自分のカードを見せる、
名前 ゴッチェ・『 』・インペリアル
パーティー フォルテス
パーティーランク A
メンバー ゴッチェ・『 』・インペリアル
アルプ・アルフヘイム
役職 剣士
個人ランク S
魔力量 0
適正魔法
火 0
水 0
風 0
岩 0
闇 0
光 0
「適正魔法!!えっ?えっ?!」
ビアーは初めて見た魔力0適正魔法0の人間を、ランクSの人間をどちらも凄いことだ。
魔力0いわば、筋肉を持たない人間と一緒ぐらい脆い存在、そんなやつが剣一本で個人Sランクをとっているのだ本当の化け物はどっちかとビアーは思った。
「お前こそ相当な化け物じゃないか!なぜ強い仲間を集めない?なぜそんな無職ネコを引き連れているんだ?」
ビアーは自分のかっこいいと思っているキャラが崩れるほど驚いてしまった。
馬鹿にされた灰猫は一瞬ムッとしたが、目の前のお酒とお肉の方が大事なのでそんなことに時間を割く余裕はないと思い、また食べ始める。
そしてゴッチェは語った、
「俺の馬鹿げた夢にみんな去ってしまったんだ」
「馬鹿げた夢?」
ビアーは思う夢なんて馬鹿げてるほど面白いと、
「ビアー、ハイネコ、俺は英雄になりたい生きた英雄になって、皇帝陛下に認めてもらいたい、そして世界に存在を示したいんだ」
「それによ、そっちの方が美味い酒が飲めそうだろ?
仲間といろんな国を旅してその国の酒場で、危なかったこと楽しかったことを話す、どんな酒のつまみよりも美味いと思わないか?」
普通は思うだろう英雄になんかなれっこないって、
だからエルフと組む前に結成したパーティーのやつらは全員抜けていってしまった。
しかしゴッチェは本気でなろうと思った。
Sランクになればこの世界で英雄になれると思っていたが、なにも成し遂げられなかった、これだけでは英雄には程遠いと思ったのだ。
それとゴッチェが英雄になりたいと思ったのはもう一つある。
「ハハ!」
ビアーは思ったそれは最高にかっこいいのではないかと、仲間となにかを成し遂げ酒を飲み話す、
理想のカッコいいとは違うがそういうカッコいい生き方もあるとお祖父ちゃんの話を思い出した。
「なに人の夢笑ってんだよ」
「いや、我もその方が美味い葉巻を吸えそうだと思ったからじゃな、だがなんでその無職ネコは仲間なんじゃ?」
「こいつは、久々に美味い酒を飲ましてくれたからな英雄の仲間に1人ぐらいポンコツなやついてもいいだろ?それにこいつは光るものがあると思う」
「私のどこがポンコツなんだ」
灰猫はギロッとゴッチェを睨む。
「いや、すまん言葉の綾であってだな、別にハイネコのことをポンコツだと思ってはいないぞ…」
ゴッチェは初めてあったときから灰猫のことをポンコツだと思っている。だが光るものもあると本気で思っている。
「たしかにそっちの方が我のかっこよさが映えるな、分かったいいだろう我も仲間になってやろう」
灰猫はなんだコイツはと思ったが喧嘩をするのも面倒なので極力関わらないようにしようと決意した。
冒険者協同組合のランクは
E、D、C、B、A、S、SS
の順に高いです。