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1話 酒カス剣士と灰色

「可哀想に、可哀想に」


…沈黙が続いた。


「何か言いなさいな」


灰猫は少しビクッとした、


灰色の長い髪をした和服姿に狐のお面着けている女が灰猫の目前にいた。

不思議と嫌悪感はなかった、


「初めましてではないはず、あなたの住んでいた狐山神社の神様よ」

「ナイフを探しても無駄、ここにはないわ」


逃げ場のない木の壁、狭い畳の部屋に二人っきり、この謎の空間と久々に人と話す緊張感に灰猫は焦っていた。

だがいろいろと確認したいことの方が重要だった。


「私は生きてるのか?」

「いえ、残念ながらお亡くなりよ」

「ここが死後の世界なのか?犯罪も山程したし私は地獄行きだな」


灰猫は思った。こんな自分を死んだ両親に見せるぐらいなら地獄で詫びたほうがマシだと。


「違う、不正解!あなたは地獄には行けません!私の最後の力を使って異世界にぶっ飛ばします。本当は生き返らせたいのだけれど、異世界の方が上手く生きられそうだしあんた」

「意味がわからない」


異世界、こことは違う世界というのは理解できるがなぜ飛ばすのかもう人と関わるのはこりごりなのだと心の底から灰猫は思った。地獄と同じくらい地獄かもしれない。


「そうね、ここに住まわせた神様からのお願いってことで」

「余計に分からない」

「あなたの生活見てて楽しかったわよそのお礼、もう私も長くはないそれなら余生を楽しませてくれた些細な御礼として受け取りなさい」

「私からすればありがた迷惑だ!」


灰猫はやっとあの生活を抜け出せたのにまた他の場所でもあの生活をしないといけないのかと本気で嫌だと思った。


「あなた、ここに留まらせるだけで神力消費するからもったいないわ!さっさと転移させるわね」


「そんなの願ってない!神様なら神様らしく私を地獄に連れて行ったらどうだ!」


「ならそこが地獄よ!そこでやり直しなさいな! 『―――』 !」


「えっ?」


「なんでその名前」


その名はもう亡くなった母がよく呼んでいた灰猫のあだ名だった。

この生活をして完全に捨てた名前でもあった。


「あっちでの名前考えときなよ!灰猫ちゃん!」 


手を振って見送られる。


「困ったら私が直接脳内に名前語ってあげるわよ!」

そんな神力は残されていないことを知りながら灰猫に冗談を言った。


光の粒子となっていく世界とともに、灰猫は眠るようにまた意識を失った。







「おっちゃん酒追加」

「ゴッチェ飲み過ぎじゃねぇか?金あんのか?」

「前払いで金貨1枚払っといてやる」

「ならいい、好きに飲みなぁ」


今行きつけの酒場で酒を浴びるほど飲んでいるのは、ゴッチェ・インペリアルと言う男だ。 

腰には一本の長い剣を差していた。

筋肉隆々がまさしく似合う赤髪の青年であり、180センチぐらいの身長はあるだろう。

宝石のような綺麗な緑の目をしているのだが今は黒く淀んでいた。


ゴッチェがここまで酔っているのは純粋にお酒が好きなのと冒険するためのパーティーメンバーが集まらなく、やるせない気分をお酒で忘れるためだ。

酔うのが好きなのにお酒を飲んでも酔いにくい体質なので人よりも多く飲むことになる。


どんどんお酒を流しこんでいく。


だが、そんな彼も限界はある今はもう自分自身の髪と同じぐらいの赤色の顔をしておりかなり出来上がっていた。


「明日こそぉ!集めるぞぉ!ガハハハ」


先程まで暗い色をしていた目が今は綺麗な緑の目をしている。

こんな悪酔いばかりしているゴッチェが店から出禁にならないのは太客というのもあるが、ある噂によるのにも起因する。


「なぁ、あいつが噂の皇帝の子ってやつか?」

「あんな酒カスがそんなわけねぇだろ馬鹿だなお前は」

二人の男が、ヒソヒソと話していた。


「所詮、噂話だしな」


噂というのは、この国の皇帝の血を持つ者は赤色の髪と緑色の瞳を持っていると。

ただ、人によると赤色の髪に青色の瞳だとか、青髪に赤い瞳など噂に噂を重ねて原型がなくなっているのであくまでもゴッチェ、皇帝子供説というのは噂でしかない、

だがその噂が原因で普通の仲間が寄り付かなくなったのも事実、寄り付いてくるのは金目当てのやつだけだった。

実際にお金だけならかなりある、


「ゴッチェ今日も野宿なのか?」

「たまには宿でも借りていけよ」

「いや、いいんだ冒険すると野宿も増えるだろ?仲間のいない今のうちに慣れておきたいからな」

「だいぶ酔ってるな、まぁ死ぬなようちの稼ぎが減るからな」

「ガハ、そうだな!」



宿屋に泊まらない冒険者なんてそれこそ大きいダンジョンに挑んでいる時か、森の中道に迷ったときぐらいしかしないだろう。

獣の魔物達がうろつくことが多い夜に野宿しようとは思えない、この辺の街外れが他の街よりも魔物が少ないとしてもだ。


「あいつ何を目指してるんだ本当に」

酒場のおっちゃんは珍妙な物を見る目で言った。


デカい門の隣にある、小さな扉に入り外へ出る。

少し空洞を通り、いつもの平原にゴッチェは向かった。

場所を決めたら慣れた手つきで火をつける。

その火を頼りに軽く寝床とテントも作る。

テントに火の光が反射して少し明るくなっていた。


近くに広大な山が広がっており、たびたび動物やら魔物やらの声が響いている。

その声を聞き、星を見ながらまた酒を飲む。


するとガサッと誰かがいる音が聞こえた。

ゴッチェは酒の入った木のコップを置き、剣の柄に手をつけ、ゆっくりと音のした方に向かう。

夜風にあたり酒場にいたときより酒は抜けていて、いつもより感覚が鋭くなっている、

目標までの距離は10メートルぐらいだろうか、

そんなことを思いながら剣を抜く。


するとゴソッと言う音と人の「ん〜」という音が聞こえた。


「まさかこんなところに人がいるのか」


わざわざ安い宿屋が多い街なのに使わない馬鹿はゴッチェぐらいだ。

しかも魔物が少ないからといい火も焚かず、テントもはらずに寝るなんてゴッチェですら考えられなかった。


そんなやつを見て思わず笑みをこぼして口に出してしまった。

嬉しかったのだ自分と同じような考えを持ち行動を起こすやつが。


「お前馬鹿だろ!」

「どんなやつか見てやる」

気になり、覗き込むと。

「えっ」


ゴッチェは驚いた。どんな屈強なバカが寝てるのかと思ったら、猫みたいに丸くなっている灰色髪の子供がいたからだ、

屈強な馬鹿だったら仲間にしようと思ったゴッチェだったが、

相手は子供だったため、とりあえず安全のために自分のテントまで、運ぶことにした。

流石にこんなところに子供が1人でいることにゴッチェでも異常に思えたからである。

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