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プロローグ

「おい待て!」

「お前許さねぇかんな」

 

今、二人の茶髪と金髪のチンピラが追っている子は、ちまたで灰猫と呼ばれている盗人だ。

灰猫は綺麗な顔立ちをしており、肩あたりまで伸び切った灰色の髪に小さな体をしている。


いつもは空き巣をしたりしてご飯やお金を盗んでいるが、最近は女の格好を活かして弱そうな男を騙し、ナイフで脅し現金を盗むことをしている。

 

今回は茶髪の弱そうな男を騙そうとしたらホテルの部屋にもう1人仲間の金髪がおり、襲おうとしてきたのでいつも身につけているナイフを使って、金髪の目を斬り裂いたら追いかけられてしまった。


灰猫はその小さな体を器用に使い人混みをかき分け、狭い路地裏も風のように走っていた。

毎日盗みを働き誰かに追われているので体力と足の速さ逃げる能力は天才的であった。


「クソが!この目の借りは必ず返す」

 

そんな子に何年も運動していないような大人2人が追いつけるはずもなくいつも通り逃げきり、向かった先は山の頂上にある小さな小屋だ。

 

もともと神社の社務所だったところだが、その小さな小屋の窓ガラスは割れて、小屋の外見は木やツタでおおわれており、到底人の住処とは思えない場所なのだが、そんなところが灰猫の住処になっていた。それともう一匹も、


「くせぇよ」

ワンワンと吠えながら灰猫の顔を舐めている犬。

狐色が特徴の中型の野良犬だ。

捨てられていたところを興味本位で拾って今はこうして1人と一匹で暮らしている。

 

「今日、私はいろいろ大変だったんだぞ」

「あいつら二人がかりで襲いやがって」

 

ワンと一吠えしてご飯をねだるようにお手をしていた。

 

「はいはい、ご飯だろ」


 ワンと返事する。早く飯をくれと催促してるようで、いつも通り自分のご飯の残飯に近い物をあげる。

こんな生活も、もう3年は続こうとしていた。

 

「16の私を襲うなんてグレーゾーンまっしぐらなことよくできるよな」

 

「まぁ、そのおかげで警察にはお世話されなくなったけど」


こんな生活を強いられるようになったのは5年前に父と母が事故に合って死亡したからだ。

5年前まではこんな泥棒も温かい家庭の一員だったのだ。

 

すぐ親戚に拾われたのだが、その親戚は灰猫を道具のように扱うようになる。

道具として、家事全般をすることに凄く不満を覚えてはいる。しかしそれ以外に、生きる道が見つからずしょうがなく道具として働くことにした。


そんな生活を2年してるうちに親戚にいる義父に性的に見られるようになってきた。

初めは太ももや肩をさすってくるだけだったのだが、そこからエスカレートしていき、寝込みを襲われた。

 

我慢の限界がきていた灰猫はベッドの横に置いていたライトスタンドで義父を殴った。


「死ねクソじじぃ」

 

「俺に育てられた恩を忘れやがって」


そんな恩なんて初日だけで、もう怨みになるほど酷い目に会わされていた灰猫は、今さら何を言ってるんだと思い、金目の物と一本の包丁を盗み家を出て行った。


そこから無賃乗車やヒッチハイクを駆使して今の小屋を見つけることになる。

生き残るためには善良を捨てるしかなかった。


 

「寝ようか」

 ワンと犬が返事をし、お腹に犬の温もりを感じつつ薄く硬い、ところどころ綿が抜けている布団の上に転がりボロボロの割れた窓から少し雨が入ってくる中寝ることにした。


あれから2週間が経ち、

雨が降っている早朝、太陽がまだ顔を出していないぐらいの時間でありいつも通りの暗い道、人がいない家を探しに行く。

縫い直した黒色のレインコートを着ていつもの住宅街に入る。


誰も住んでなさそうなボロボロの家を見つけ漁る。

こういう家は鍵すら掛かっていないのだ。


これを毎日繰り返して生活をしている。

ほとんど家には家具ぐらいしか残されていないが、

たまに瓶にお金が入っていたり、賞味期限が切れていない食べ物を見つけたりして一喜一憂している。

灰猫の生きがいなのかもしれない。


バイトと言う手があったが、住所、身分不明の人は誰も受け付けなかった。

児童養護施設という手もあるのだが、もう人を信じるのを辞めた灰猫は行く気にはなれない。


そんな灰猫は今先程のボロボロの家で何かを見つけたようだ、タンスの引き出しの裏に封筒が貼ってあるのに気づいた。

中身を開けると20000円ぐらい入っており、今月1多いへそくりを見つかることに成功。


最近、失敗続きの男騙しで収入がなかったのでこれは嬉しい臨時収入だ。


「くぅぅう!!やったぁ!」


あまりの嬉しさに声が漏れ出てしまっている。

このお金で何を買うか早速迷いだした。

灰猫は考えごとや迷ったときは少し歩いてしまう癖がある。

そのため今、机の周りを歩いて真剣に悩んでいた。

6周したあたりで一回落ち着いた。


「新しいナイフを買おう」


ナイフに決まったらしい、今使っているナイフは2代目初代の包丁は刃こぼれが酷くすぐに買い替えた。

もうこのナイフも3年は使っているのでなかなか酷くなっていたのだ。


早速アウトドアの専門店に行きナイフを買う。

2代目は5000円それの4倍の3代目、

灰猫は喜びで少し手が震えていた。

灰猫のキラキラした目が刃に映り込む。

  

夜になり、新しいナイフとともに男騙しにでかける。

今日は二人を引っ掛けることに成功した。

当分はできないなと灰猫は思った。

ネットというものを知らない灰猫でも悪い噂が広がる速さのことは知っている。

前にそれで痛い目をみたから次に引っ掛けるのは2週間後にしようと誓った。


そんな灰猫は気づいていないフードの被った眼帯の男に、

 

「みいつけた」

フードの男が小さくつぶやく。

 

いつも通り山に帰る、

 

「ただいま」

ワンと人吠えして返事をする。


「今日は贅沢に肉を食べよう!」

 

犬は凄い尻尾を振って喜んでいる。

いつもは鶏肉が多いが今日は牛肉だ。

鶏肉と言っても鶏ではない、山にいる野鳥を罠をしかけてとっているのだ。たまに兎もかかる。

こんな牛を食べれる日は滅多にない。


七輪で焼いていく。


「美味しいなぁ…」


ワンと返事をして、犬にも牛肉を分ける。


少し食べ終わり犬と遊ぶ。

今日はかなり多くの収入が入ったので犬ために骨とボールも買ってきたのだ。

ボールを投げたら反射して窓から外に飛んでいった。

それを追いかけ外に犬が出ていく。


土でドロドロになった犬が帰ってくる。


「最悪だぁ!」

反省を生かして晴れの日しかボール遊びはしないと誓う。

水の出ない洗面台に犬を連れていきドロドロの体を流す。

「泥に汚れる前より綺麗にしてやろう」

 

クゥゥンと叫び声に近い声が小さな小屋に響く。

そんな情けない犬の姿をみたことがなく、灰猫は久々に大笑いした。

 

「あははは!情けないなぁ!」

笑いながら泥と汚れを落とす。

「よし、これで完璧」

犬はブルブルと体を揺らす。


布団をひき、犬と寝る。

寝始めて2時間ぐらいだろうか。

  

夜扉の前で犬が唸っているのに、気づく。

 

 

灰猫は窓から逃げる準備をした。

熊でも出たかと灰猫は思った。

瞬間扉を蹴り破り入ってきたのは金髪の男だ。

眼帯をしており、フードをかぶっていた。


ワンワンと犬が吠え、噛みつきに行った。

 

「うるせぇ!」

金属バットのコーンという音と犬のヒュッという音で完全に目が冴える。

 

割れた窓から灰猫は逃げて行った。


「待てよ灰猫、ぶっ殺してやるからよ」

 

灰猫はあまり焦っていなかった、こうゆうことをしていると必ず訪れると覚悟していたからだ犬には申し訳ないと思いながら走る。


夜の山、奥にただひたすらに突き進む、雨や風なんてお構いなしに無我夢中で山を走り抜ける。


「あぁ…」


夜の目が他人よりも優れていても見落とししまうところがある。

 

それに雨の日の地面はよく滑る。

止まりきることができず落ちていく。

崖の高さ20mは軽くあっただろう。

 

雨粒が止まっているように見えた。

一緒に落ちていく。

世界が少しずつ離れていくことに気づく。

風が心地よく感じる。


灰猫の夢は笑いながら死ぬことである。

楽しかったと思いながら眠るように死にたかった。

少しでも近づけるように灰猫は笑う。

にこっと最高の笑顔をして落ちていく。

もう少し犬と遊んでおけばと後悔しながら、


(可哀想に可哀想に)


(助けてあげる)


聞いたことのない女性の声に笑顔を崩してしまった。


灰猫は一瞬の衝撃と共に意識を失う。

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