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イヤイヤからノリノリでダンジョン攻略  作者: くろのわーる
ダンジョン編

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35/64

34話:推し≒愛



 序列(ランキング)戦の観戦を終えて、グランドに戻る途中、先の戦いについて1人考察している。


 序盤から終始、中条先輩の猛攻を佐藤先輩が徐々に捌き切ることが出来なくなり、周囲の予想通り大番狂わせは起きず、中条先輩の完勝で幕を閉じる形となった。


 みんなは「流石は中条先輩」とか、「やっぱり中条先輩には誰も勝てない」と口々にしているが俺は佐藤先輩の防御技術に注視していた。


 結果は負けてしまったが、中条先輩の目にも止まらぬ猛攻を何度も防いだ、あの技量は純粋に凄いと思ったのだ。


 傍から見た俺の中条先輩に対する感想は所謂、天才気質。


 独特のリズムや体捌きで相手を翻弄する戦闘スタイルには華があり、見る者を魅了して離さない。


 まさに蝶のように舞、蜂のように刺すを体現していた。


 それに比べて、佐藤先輩は秀才気質。


 派手な動きはなかったが堅実で隙のないスタイルは安定感があった。


 負けたのは単純に相性の差だったのではと、勝手に思っている。


 考えているうちにグランドに到着する。


 そこには今回の審判を務めた東雲先生が笑顔で既に待っていた。


「よし!来たなお前ら」


 何だか嫌な予感がする。


「今日は時間が中途半端だからな、残りの時間は俺との模擬戦をする」


 先輩方の試合に充(あ)てられ、気分が高揚している姫川、山口、柴田は嬉しそうな顔をしているが東雲の笑顔を見て、俺の嫌な予感は深まるばかりだ。


「じゃあ、御堂から来い!」


 明らかに乗り気じゃない俺から指名するとか、やっぱ良い性格してるよと内心で愚痴を吐き捨てて、前に出る。


 まあ、俺もあの試合を見て、色々と試してみたいと思ってたけどさ。


「俺はコレを使うがお前は腰の武器を使え」


 そういう東雲先生の手には木刀が握られている。


 それに対して俺は愛用のサーベル。


 刃がついていようが実力差を考えれば、ハンデでもなんでもない。


「構えたら何時でも掛かって来い」


 言われるまま、サーベルを鞘から抜き相手を見据える。


 少し離れた場所から息を呑むのが聞こえた。


 今日は久しぶりに回復科と被って、グランドを使っている。息を呑んだのは保奈美か……。


 周りを意識して見てないのに見えたことに自分が想像以上に落ち着いていることに気付く。


「どうした?掛かって来い」


 東雲先生はだらりと木刀を下げたまま、立っている。


 俺が攻めやすいようにわざと隙を晒しているのだ。


 [正眼の構え]から[突きの構え]に変える。


 相手は微動だにしない。


 どうやらそれなりに相手をしてくれる模擬戦のようだ。


(偶に模擬戦と言いつつ一撃で沈めにくる時がある︰御堂談)


 迷いが消えた時には身体が動いていた。


「シッ!」


 俺が今出来る最速の攻撃。


 相手の胴体の中央に向かって突きを放つ。


 カン!


 造作もなく、俺の突きは木刀によって剣の腹を叩かれて上方向へと逸(そ)らされる。


 弾かれた力に逆らうことなく、左右の足を入れ替えて振り下ろしに切り替える。


「おっ!」


 振り幅は不十分で威力はないが、次撃としては悪くない気がする。


 この攻撃は上半身を反らして避けられる。


 問題はここからだ!


 と思った瞬間、俺の直感が相手の攻撃を知らせる。


 急ぎ反射的にバックステップを踏みつつ、振り下ろしたサーベルを振り上げる。


 カン!


「おっ!!」


 ほぼ勘ではあったが俺の手首を狙った攻撃を防ぐことに成功し、僅かに胴が空いた気がした。


 バックステップした後からの前進だったが、最近の訓練のおかげかスムーズに身体が前に動く。


 今度は散々練習したダッシュからの振り下ろしだ。


「おっ!!!」


 また、身体を半身にして避けられるがサーベルを切り返して、振り上げる。


「ははっ!いいぞ!!」


「(来る!)」


 そう直感した瞬間、サイドステップを踏む。


 顔の真横を木刀が通り過ぎ、背筋が寒くなる。


 ここで怖じ気づいたり引いたりしたら東雲は嬉々としてボコりにくる。


 これはクラスメイト達も俺自身も経験済みだ。


 歯を食いしばり、足を前に動かす。


 踏み込んでからの横薙ぎ、攻撃と攻撃の繋ぎを意識した振り下ろし、やや変則的ではあるが下からの突き上げ、俺の今持てる技を出し切るが全て避けられるか剣で弾かれる。


「少し速くするぞ」


 囁(ささや)くように言われた言葉と迫りくる木刀は同時だった。


 直感が働き、防御の為に剣を立てた時には既に木刀はサーベルの内側に入り込んでおり、左腕を強打が襲う。


 バキッ!


「ぐぅっ!?」


 俺の腕を折った木刀の勢いは止まらず、体ごと横に倒される。


「久遠くん!!」


 痛みで頭がいっぱいになりかけたが保奈美の声で我を取り戻し、追撃に備えて立とうとするが左腕がだらりとしたまま、動かないことに気付く。


 実は生まれて始めての骨折に気が動揺するも模擬戦でここまでするのかと肩に木刀を担ぐ様に立つ東雲を睨む。


「うん、野々村先生!負傷者出たんでお願いします!」


 うんじゃねーよ!


 なに普通に木刀を振り抜いてるんだよ!


 ステータス差を考えろよ!


「ちょっと!東雲先生!生徒にやり過ぎじゃないですか!」


「先生!私がヒールかけてもいいですか!」


 あっ!ビビッときたわ。


 東雲の奴、回復科の野々村先生がいるから遠慮なく骨を折やがったな!


「・・・ええ、構いませんよ」


 野々村先生の返事を聞くなり、保奈美が駆けつけてくる。


「久遠くん、大丈夫?」


「ごめん、保奈美。腕の骨折られた」


「ええっ!?」


 保奈美とのやり取りの中でも、俺は東雲から目を外さず睨み続ける。


「良かったな、回復科がいて。次、柴田掛かってこい!」


 コイツやっぱり故意犯だ。


「とりあえず、ヒールかけるから動かないでね」


「保奈美、もう折れないように愛の力で補強しといてくれ」


「もう!ヒール!」


 淡い光が俺の左腕を包み込む。


「どうかな?久遠くん」


「見せてちょうだい」


 間に入ってきたのは野々村先生。


 俺の腕をとるとマジマジと見つめる。


「何とか骨が接がってるといったところかしら、もう一度ヒールをかけて」


「はい!ヒール!」


「ぐぁっ!!」


「野々村先生!2人目もよろしくお願いします!次!山口来い!」


「ちょっと!東雲先生!魔力もヒールによる回復力も有限なんですよ!」


「わかってますって!」


「もう!本当にわかってるんですか!」


 コイツは絶対にわかった上でやってるんですよ。


 それにしてもヒールによる回復力は有限とはいったい?


「保奈美、魔法による回復力って限りがあるのか?」


「う、うん」


「それって、どれくらいなの?」


「多少の個人差はあるらしいんだけど、1日で回復出来るのは大体、瀕死の重症2回分って先生が言ってた。それ以上は魔力障害を起こして回復魔法が効かなくなるって…」


「ん?一生じゃなくて1日?」


「うん」


 なら、心配することでもないか。


「ちょっと久遠くん!まだやる気なの!?」


「……」


 頬をポリポリと掻きながら黙り込む。


「ぶべぇっ!」


「次!姫川来い!」


 俺も出来れば、怪我なんてしたくはないが東雲の扱(しご)きが一周で終わるわけがない。


 それにやられたままでは終わりたくはない。


「どうした!姫川!そんなんじゃ御堂の方が強いぞ!」


「くっ!」


「出直してこい!」


「きゃ!」


 東雲の奴、興が乗ってきたんじゃないのか?


 負傷者の回転が早くて、野々村先生の顔が険(けわ)しくなってきてるぞ。


「ごめん、保奈美。行ってくる」


「・・・いいよ・・・怪我したら私が治してあげる・・・だから全力で戦ってきて!」


「おう!」


 ヤバイ!俺の彼女、最高だわ。


「さっきよりも楽しませてくれるんだよな?」


 ダメだ!東雲の奴、自分が教師だってこと忘れてやがるぜ。


 これは荒れた訓練になりそうだ……。


 野々村先生は柴田、山口の怪我を治して姫川の治療に取り掛かろうとしていた。


「姫川さん!怪我を見せて!」


 姫川は痛さに堪えながらも折られた手首を野々村先生に預けるように見せる。


「(まったくもう!私がいるからって、模擬戦でこんなにも小枝を折るように次から次へと!絶対に今度奢らせてやるんだから!)」


 余計な仕事を増やされ、内心で愚痴を言っていた野々村先生に茅ヶ崎真由が声を掛ける。


「せ、先生!」


「ん?茅ヶ崎さんどうしたの?」


「姫川さんの治療、私にやらせてください!」


 茅ヶ崎の要望は同じ回復士(ヒーラー)として、嬉しく思う行動ではあったがまだ魔法が使えないことを思い出す。


「え!でもあなたはまだ回復魔法が……」


「姫川さんになら出来る気がするんです!お願いします!」


「え、ええ……でも」


「お願いします!絶対成功させてみせます!」


 逡巡する思考の中、茅ヶ崎の熱意に圧(お)される。


「それだけのやる気があるのなら……姫川さんもいいかしら?」


「いいからやるなら早くやって!」


 痛さを我慢している姫川としては早くしてほしいと一心に思うばかりだった。


 姫川の傍に寄り、優しく腕を取ると気合いを入れる為に一度だけ深呼吸をする。


「任して、れいれい!これが私の推しの力(ヒール)よ!」




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