32話:|序列(ランキング)戦前
待ちに待った序列戦の当日。
朝から俺は浮ついていた。
いや、俺だけではない。1年生の暮らす寮全体が浮ついた雰囲気を漂わせている。
それは朝食で食堂に集まった時から専ら話題は今日の午後に行われる序列戦の話でもちきりだったのが良い証拠だ。
この様子ではみんな、午前中の訓練に身が入らないのではないだろうか。
そんな俺の予想は自らも体現する形で現れる。
「お前ら!もっと集中して訓練をやれよ!じゃないと怪我するぞ!」
東雲先生も口では注意しているが視線はずっと、タブレットを見ている。
類に漏れず、先生も集中できていないのだ。
だがこれはある意味で毎年の既定路線なのだろうとも思っている。
というのもこんなにもタイムリーに最上位に位置する生徒が序列戦をやるのか。
これは1、2年生を鼓舞し目標を持たせるために学校が意図的に仕組んでいるのではないか。
そうでなければ、「今日は昼休みまで走り続けろ」などという雑な指示が出るはずがない。
(東雲は急遽、審判を務めることになり、試合に出る生徒の情報を確認しているが御堂の考えもあながち間違ってはいない)
そんな午前の訓練は緩い感じで終わる。
昼休み、俺と姫川フィーバーはすでに終結しているのでいつも通りのメンバーで食事とはいかなかった…。
ダンジョン探索に向けて、親睦を深める為と俺と姫川が了承したメンバーも合流し、グループが出来上がっていた。
当然だが男は俺1人。
ますます男子からの視線が突き刺さるように痛い。
もし視線に物理的な効果があったら背中はすでに血だらけだろう。
ここでも話題はこの後に行われる序列戦がメインだった。
「第1位の中条先輩が戦うところが見れるなんてホント感激!」
「わかる〜中条先輩ってブレイバーの中では並ぶ者がいない麗人だよね〜」
「憧れちゃうよね」
「(第1位は中条先輩というのか、それにしても麗人とは?)」
同じ長テーブルに座っている以上、女子の会話が自然と耳に入ってきてしまう。
正直、俺は知らないが女子の間では相当に有名なのは解った。
「なあなあ、保奈美」
「何?久遠くん」
「第1位の中条先輩ってそんなに有名なのか?」
俺の本当にちょっとした質問に反応したのは保奈美以外だった。
同じテーブルについている女子が一斉に俺を見る。
その女子達の目は「知らないなんてマジ、信じらんない」と語っていた。姫川お前もなのか…。
流石の保奈美もこれだけ視線が集中するとタジタジになって教えてくれる。
「あ〜あのね、中条先輩は女性ブレイバーにとってはまさに憧れの存在というか…」
「近藤さん、話の途中で悪いんだけど説明代わるわ!」
「え、、うん。お願い」
保奈美が折れるところを初めて見たよ。
俺達の話に入って来たのは同じパーティーになる剣士の松下さん。
「いい?御堂くん」
ヤバイ!松下さんの目がめっちゃ怖い!
「は、はい!」
「中條先輩は唯一無二のブレイバーなの!」
「はい!」
「まさに神によって地上に遣わされた麗人!」
「・・・」
「「「うんうん」」」
ほとんどの女子が同意しているがみんな目が異常だ。完全にキマっている。
「その容姿や振る舞いはブレイバーの鑑と言っても過言じゃないわ!勿論、ブレイバーとしての実力もね!」
「「「うんうん」」」
「・・・」
この有無を言わせずに周りからの同調圧力で同志を増やすやり方は世に聞く、マルチ商法のやり方と同じなのではなかろうか。
松下さんの語りは終わらない。それどころか周りの女子を巻き込みヒートアップしていく。
その隙をついて、保奈美が助け出してくれる。
「久遠くん、もうすぐ休憩も終わるから移動しよ!」
「ああ、そうだな」
振り返れば、松下さんを中心に輪ができていた。
保奈美が声を掛けてくれるのが後少しでも遅かったら抜け出せなくなっていたな。
「みんな試合に間に合うといいね」
「そうだな、ところで第3位の人はどんな人か知ってるか?」
「3年生で有名なのは中条先輩ともう1人くらいで第3位の人は聞いたことないかな」
「そうなんだ」
みんな知っていることに少し驚きだ。
俺って興味がないことにはとことん興味がないからな。
食堂での盛り上がりを他所に俺と保奈美はコロシアムに向かうのであった。