30話:保奈美バリアー
誤字報告ありがとうございます。
休みが明けた月曜日、午前中は相変わらず基礎トレーニングに費やしているがその甲斐もなく走りながらの素振りは依然として、上達していない。
始めた当初は我武者羅に全力で走っては剣を振るを繰り返していたが2日目に変な癖が付くからやめろと言われた。
全力で行うことで無駄な力が入り、動きが硬くなりそのせいで動作もスムーズに出来ていないと東雲先生からのアドバイスを受けて現在は動きを矯正している。
とはいえ、言うのは簡単だが実際に動くのは難しい。
「御堂!また無駄に力が入ってるぞ!背中に力が入り過ぎてるから体が強張って振りが小さくなるんだ!気をつけろ!」
「はい!」
これが本当に難しい。力を入れるのは簡単だが力を抜くというのは人の防衛本能に逆らうということ。
誰しも危機や緊張に陥れば、身体を強張らせてしまうように剣を速く振ろうと意識すれば、どうしても力んでしまい地から足が離れがちになる。
結果、力が上手く剣に伝わらず威力が落ちるし、剣先もブレブレだ。
頭で解っていてもまだ身体のコントロールが出来ていない。
特に身体が疲れてきた時には顕著にそれが現れる。
これが素人と玄人の差と言われてしまえば、それまでだがこれがとにかく難しい。
「出来ないなら棍棒に持ち替えた方が良いんじゃないか!」
「くそっ!」
「姫川!お前の一撃は軽過ぎる!威力を補う為にも正確性を高めろ!」
「っ!」
「御堂!姫川!素振りからやり直せ!山口!柴田!誰が休憩していいって言った!走り終わったなら筋トレだ!」
唇を噛み締めて、グッと悔しさを堪らえる。
上手く出来ないのは自分のせいだと。
東雲先生からはちゃんと理論は教わっている。
深呼吸をすると全身の関節を意識しつつ、一つ一つの動作を確認しながらゆっくりと素振りをする。
ゆっくりとなら先生のいう関節を連動させるという理論も理解出来なくもないのだ。
それなのに少しずつ速度を上げるにつれて、身体の連動が呆気なく崩れていく。
想像通りに動かせない身体に悔しさを覚えながらも額に玉の汗を浮かばせ素振りは続いていくのであった。
〜〜〜
想像通りの素振りが一回も出来ないまま、午前中の授業は終わり昼休みを迎えていた。
今日も保奈美と一緒にご飯を食べているがひとつ違うのは窓辺に近い席で2人だけで食べていることか。
というのもここにきて姫川人気が爆発したのだ。
どういうことかと言うと俺にもよくわからないのだがとにかく姫川を中心に戦闘科の女子から魔法科、斥候科、魔技科、補助科の女子が群がっているのだ。
そのせいで俺と保奈美は追いやられる形で窓辺の席へと避難した。
ついでにその他の男子も巻き添えをくらう形で食堂内は完全に女子と男子で別れる構図となっている。
「姫川さん凄い人気だよね」
「う、うん、そうだね」
まだ、状況が飲み込めていない俺は曖昧な返事をする。
「もう!久遠くんわかってないでしょ!」
どうやら保奈美は事情を知っているようだ。
「今日の授業でね。来月から全クラス混合(回復科は除く)で本格的にパーティーを組んでダンジョンでレベル上げをするって告知があったんだよ」
「へぇ〜、そうなんだ」
東雲の奴、そんなこと俺達には一言も言わなかったぞ。
それが姫川人気とどう関係するのかよくわからないが…。
「みんな少しでも優位にダンジョン探索をしたいから強い人と組みたいって必死なんだよ」
「あ〜、なるほどね」
確かに姫川にはコロシアムで戦闘科の男子を瞬殺した実績があるが何も聞かされていない姫川はさぞかし困惑してるだろうな。
それにしても戦闘科の男子共は女子達に見限られたのか?原因は俺じゃないよな?背中にすげぇ視線を感じるが…。
「ひょっとして久遠くん、他人事だと思ってる?」
「えっ!?思ってるけど…違うの?」
「女子の方、見てみたら」
と言われ、周りを見渡せば何人かの女子と目が合う。
こ、これは!?むしろ俺に目線を合わせにきている!?
「浮気したら口きかないからね」
「するわけないじゃん!俺は保奈美一筋だ!」
「もう!そんな大きな声で言わないでよ!」
恥ずかしがる保奈美もめっちゃ可愛いぜ。
それにしても現状でみんなが俺に声を掛けてこないのは保奈美バリアで守られているからなのか。
「お、お話し中のところ、悪いんだけど、ちょ、ちょっとだけ御堂くんと話してもいいかな?近藤さん…」
保奈美バリア破れたり。
声を掛けられ振り返れば小柄な女子が2人並んでいた。バッジの色を確認すれば黄色と紫色。
ということは魔技科(黄色)と補助科(紫色)の生徒のようだ。
「「(しまった!先を越された!)」」
「(あんなにイチャイチャされたら声掛けづらいよ)」
「(バカップルがぁ!爆発しろ!)」
それと同時に周りの女子がガタガタと椅子の音を立てて立ち上がり、俺の前に列を作りだす。
何なんだこれは!?
「ちょっとだけならいいよ、久遠くんもいいよね?」
「う、うん」
「近藤さん、ありがとう」
なぜにこの2人はわざわざ保奈美に許可を取るのか、いや考えないようにしよう。
「初めまして、私は魔技科の片桐です」
「初めまして、私は補助科の島袋です」
「初めまして、職業なしの御堂です」
なんだろ…この職業なしって自分で言っちゃう俺の悲壮感は…。
「えっと、知ってると思うんだけど来月からレベルアップの為にダンジョンに潜るんだけど、よかったら一緒にパーティー組んでもらえないかな?」
「・・・」
ですよね〜分かってたよ。300%解ってた。
「ど、どうかな?」
ヤバイ、俺が何も言わないから相手不安になってるじゃん。
でも、この子達の後ろに出来てる列を見ると気が引けるというか、断れ!みたいな圧が凄いんよ。
「…やっぱり、私達みたいな非戦闘科は駄目かな?」
ガスッ!
「いや、全然大丈夫だよ。寧ろよろしく!」
「「ホントに!ありがとう!!」」
2人とも嬉しそうに席へと戻っていく。
それにしても保奈美が椅子を蹴らなければ、気圧されていた俺はまったく喋れなかった。
保奈美サンキューと言いたいが残念なことにそんな時間はなさそうだ。
「初めまして、近藤さん。ちょっと、御堂くんと話をさせてもらいたいんだけど良いかな?」
こんなことになるなら姫川がどんな対応してるのか見ておけば良かった。




