28話:姫川 美麗の思い
誤字報告ありがとうございます。
私の名前は姫川 美麗。
少し前まではアイドルグループのメンバーとして活動していた。
アイドルになろうと思ったきっかけはお父さんを応援したかったから。
お父さんは私にとっても家族にとっても自慢のブレイバーだった。
定期的に起こるモンスターパレードが発生すると防衛の為にブレイバーは戦場へと送られる。
私のお父さんも例に漏れずブレイバーとして私達、家族を守る為と言って戦いに赴いていた。
そして、戦いが終わるとどんなに傷だらけでも必ず笑顔で帰ってくる。
私はそんなお父さんが格好良くて大好きだ。
小学校に上がった時、モンスターパレードの発生が近いということでお父さんはまた戦いへと向かい、家には私とお母さんと生まれたばかりの弟が残っていた。
お母さんと一緒にテレビを見ていると緊急速報が流れて画面が切り替わり、お父さんが戦っている映像が流れてきたのだ。
私はお父さんだと判った途端、画面越しというのも忘れて、お母さんの静止も聞かず力一杯の声でお父さんを応援していた。
そのせいで寝ていた弟が起きてしまい、お母さんにちょっとだけ叱られたがお父さんが一生懸命に戦っている姿を見てますます大好きになった。
無事にお父さんが帰ってきた時、画面越しに応援したことを伝えると笑顔で美麗が応援してくれたおかげで頑張れたと言ってくれた。
それが嬉しくて今まで以上にお父さんを応援するようになった。
そんな時、アイドルグループがブレイバーを応援する歌を出して大ヒットする。
テレビの歌番組で初めて見た時、これだと思った。
すぐにお母さんに私もアイドルになってお父さんを応援したいと伝えると「美麗なら絶対になれるわよ」と言ってくれた。
そこからはお母さんの協力もあり、大手の芸能事務所が行っているオーディションを受けてなんとか合格を貰い練習生となった。
まだ幼かった私はオーディションに受かった時点でアイドルになれるものだと思っていたのは懐かしい思い出だ。
練習生となり、レッスンが始まると私は挫けそうになった。
月に2回ずつ、歌とダンスのレッスンがあったが私はどちらも上手くないのだと周りの練習生達から思い知らされた。
落ち込む私を必死にお母さんは励ましてくれて、お父さんは「美麗なら出来る頑張れ」と言う。
ホントは私がお父さんを応援したいのに逆に応援されてしまったことが私の心に火をつける。
そこからはがむしゃらに頑張った。
他人の倍の努力は当たり前。時には練習のし過ぎで倒れたこともあった。
何度もお母さんが心配して私を止めようとしたけど、私は頑なに拒んだ。
その甲斐もあってか中学2年生に上がった時、審査に受かり念願のデビューが決まった。
両親とも心から喜んでくれたことに自身の努力が実ったことに涙が溢れ出た。
最初のライブは30人規模の小さなスタジオで観客は半分にも満たなかった。
その観客もほぼメンバーの保護者で占められており、先輩アイドルの歌をカバーしただけだったがそれでも自分の夢が歩み始めたことを強く実感した。
時代背景の影響もあり、その後の活動はネットを中心としたものばかりだったがメンバーと話し合って企画を考えたりするのは楽しかった。
結成から3ヶ月が過ぎた頃、登録者数がついに1万人を超えて事務所からついにオリジナルの楽曲が渡される。
メンバー同士で抱き合って喜びを分かち合ったことは今でも忘れない。
そして、ネットに上げた新曲のMVは大人気アイドルとまではいかなかったがバズり、SNSを中心にちょっとした話題となって知名度や仕事が徐々に増えていく日々に充実感を覚えていた。
また知名度が上がり新たな楽曲がいくつも提供され、歌番組にも度々出演できるようになって人気も高まり、メンバー同士でトップアイドルの座が見えてきたなどと冗談混じりに話し合うようになっていた頃、私をドン底に打ちのめす出来事が起こる。
そう、ブレイバー選別だ。
5人グループの中で私と同い年だった子は2人。残りの2人は一つ歳上と2つ歳上の後輩。
もうすぐ夏休みということで学生でもある私達にテレビ出演のオファーが増え始めた矢先に私はブレイバー選別に選ばれてしまったのだ。
ブレイバーをしながらアイドル活動は原則出来ないことになっている。
ブレイバーの訓練生とはいえ、今の国の法律では5年の任期を終えるまでは公務員の端くれとして扱われ、収入が発生するアイドル業は副業に当たる為に禁止されている。
ブレイバーの任期を終えた後ならアイドルに復帰することは可能だけど、ブレイバー学校での就学期間3年と任期で5年、合わせて8年もアイドルから遠ざかるなど長過ぎる。
芸能界にはブレイバー上がりの俳優やミュージシャン、配信者などがいるがアイドルはいない。
正確にはアイドル系ブレイバーやアイドル系配信者みたいなアイドル系◯◯と言われる人達しかいない。
私がもし芸能界に戻れたとしてもアイドル系ブレイバーと言われるのがオチだろう。
売れないアイドルの平均的な引退時期は20前後と言われている。遅くても25歳くらい。
裏を返せば、それまでに確固たる地位を築けなければアイドルとは呼ばれないのだ。
なので人気が出始めたばかりの新人、ましてや復帰しても僅かな活動期間しか残っていないし、ブレイバーとして一般人とは経験がかけ離れてしまっているかもしれない私を待っていてくれるだろうか…。
事務所もメンバーもそんな私を待ってくれないと思う…。
不安を隠し切れない私の見込は事務所から掛かってきた電話で的中したことを知る。
事務所から言い渡されたのは今年いっぱいでの退所。
夢を掴んだと思ったのにこんな結末なんて、あんまりだよ・・・。
その夜、気弱になった自分を誰にも見せたくなくて布団の中で隠れて、すすり泣いた。
それでもアイドルとして、お父さんや今も戦地で戦っているブレイバー、私のファンの為に最後まで一生懸命に頑張ろうと臨んでいたものの、選別に選ばれてしまい今年いっぱいで退所することが決まって以降、今まで仲が良かったのが嘘のようにメンバーとはギクシャクしている。
そんな状態で活動が上手くいく筈もなく、年末を待つことなく退所となった。
追い打ちをかけるように私の職業は「なし」なんていう理由の解らないジョブだった。
お父さんに聞いてみれば、物凄く困った顔をしながら役に立つには難しい職業だと教えてくれた。
名前:姫川 美麗
職業:なし
レベル:1 0P
筋力:9
体力:16
魔力:5
精神:13+15
耐性:10
器用:12
敏捷:12
魅力:20
幸運:10
技能
不屈(精神+15)
アイドル業を奪われ、ジョブは役立たず私に残ったのは家族と不屈スキルのみ。
小さい時からアイドルになる為にレッスンばかり頑張っていた私に友達と呼べる友人はいなかった。
それでもスキルとして具象化した私の不屈の心は折れない。
アイドルは駄目になってしまったがお父さんと同じブレイバーになれたのだ。
役に立たない職業だとしても戦場で今まで以上に近くでお父さんを応援することは出来るはず。
それにブレイバー学校から送られてきたパンフレットには職業なしからクラスアップした講師が就くと書いてある。
私だって夢を奪われたままでは終われない!
絶対にブレイバーとして大成してみんなを見返してやるんだから!