27話:ライバル宣言
初めてのダンジョン探索から次の日。
相変わらずの走り込みが東雲先生から言い渡された。
特にダンジョン内で体力が尽きた2名には午後の走り込みが追加された。
意外だったのは2人とも文句を言わず受け入れていたことだ。
実戦を経験して自身の足りないものに気付いたのだろう。目つきも気持ち変わった気がする。
走り込みが始まり、俺は昨日の反省点を考えながら走っていた。
初戦としては無傷で3匹のゴブリンを倒せたのは評価に値すると思う。
しかし、満足かと言われればそうではない。
走りながらの切りつけでは結果的にゴブリンの頭部を両断することが出来たが狙いは外れていた。
その後も胴体に突きを入れてからの捻りで倒したがもし頭だったら捻る必要はなかっただろう。
走りながら上手く剣を振れていれば、首を両断できたのではないか。
もし、ゴブリンを複数匹相手にしていたら。
俺の戦い方は最適だったのか。
もし、たら、れば、と仮定の話をしても意味がないのかもしれないが疑問が尽きない。
走りながら鞘から剣を抜き放ち真横に振る。
「ちょっとっ!危ないでしょ!」
しまった!考え込んでいたら姫川が近くにいることを失念してしまった。
「ごめん、考え事してたらつい剣を振っていた」
「ごめんで済んだら警察はいらないのよ!」
「お前ら!何やってんだ!こっちに来い!」
あちゃ〜、これはお叱りコース確定だな…。
物凄い剣幕で睨みつけてくる姫川に謝りながら足早に先生の元に向かう。
「とりあえず、御堂なぜ急に剣を振ったのか説明しろ」
「え〜と、昨日の戦いの反省点を考えていたら走りながらでも上手く剣を振れないかなと思って気付いたら剣を振っていました」
「なるほどな、自分で考えて練習するのはいいが周りに人がいないかどうか確認しないとな、今回はたまたま怪我人が出なかったがもし姫川に怪我をさせていたら懲罰ものだったぞ」
「はい、すみませんでした。姫川さん、申し訳ありませんでした」
「ふん、次やったら突き殺すから」
「はい、気をつけます」
姫川はつかつかと離れていくとまた走り込みへと向かっていった。
「それにしても痴情の縺れとかやめてくれよな、ははは」
笑顔で俺の肩をバンバン叩いてくるがその冗談はつまんねーよ。
後、たぶん聞こえたんだろう。姫川こっちをすんごい睨んでるじゃん!まあ、睨んでるのは俺じゃなくて先生だから別にいいけど。
「さっきも言ったがお前の考えは悪くないぞ。実戦でしか得られない気付きっていうのは大事だからな」
そうなのだ。ひたすらに素振りしているだけでは解らなかったことが沢山あったし、自分に足りないものを再確認した。
「それでどうする?走りながら剣を振ってみるか?」
「やります!」
「なら周りを巻き込まないようにトラックの内側を走れよ」
この問いかけに俺は勿論イエスと答え、後に地獄を見ることになる。
〜〜〜
「どうした御堂!全然、剣が振れてないぞ!お前も口先だけの奴か!」
「くそっ!」
4人の中で自分が1番体力があるから大丈夫だと過信していた。
走っては剣を振り、また走っては剣を振る。
言葉にしてしまえばこれだけだが正直、甘く考えていた。
やっていることは全力の短距離ダッシュから遭遇したモンスターを想定した切りつけ。
インターバルは当然ない。足が止まれば激が飛んでくる。
走り込みだったら一定のペースを保ち、時間内に走りきれば良かった。
だがこれは強弱、いや全力のダッシュに全力の素振りを繰り返す強・強・強と続く動きを切り替える度に身体中に疲労が蓄積するのが身に染みてわかる。
「姫川!誰が休んでいいって言った!」
競争路が一つしかないので半分に別けて使っている。
隣では姫川が膝に手をついて激しく呼吸を繰り返している。
当初、普段通りの走り込みをしていた姫川だが俺が別メニューを開始すると東雲先生に直訴して俺と同じメニューを始めた。
結果は見ての通りだが俺も他人の事は言えない。
「どうした!自分達がやりたいと言ったことだろうが!最後までやり通せ!腑抜けども!」
「「っ!」」
結局、俺と姫川は昼休みまで立っていることが出来なかった。
膝の笑いが止まらず、腕も上がらず、握力はもはや皆無。
最後の方はまともに剣が握れず、素振りなんて出来なくなっていた。
昼休みに入り、全く食事に手をつけない俺に見兼ねた保奈美が回復魔法を使おうとしたが俺はそれを固辞した。
保奈美はまだ俺にしか回復魔法が発動しない。
つまり、姫川は回復魔法を受けることが出来ない。
なのに俺だけ回復してもらうのはなんだかフェアじゃない気がしたのだ。
昼休みが終わっても素振りが出来る程の回復はせず、午後の授業では素振りの予定だったが使いものにならない俺達2人は明日の疲れを少しでも和らげろと東雲先生にストレッチを命じられた。
途中、ペアで行うペアストレッチをしていると初めて姫川が話し掛けてきた。
「あんたには絶対に負けないから」
初めて話し掛けてきたかと思えば、いきなりのライバル宣言。
今まで俺を睨んだりと意識されているのは解っていたがここまでハッキリとライバル意識を向けられるとは思っていなかったので意外だ。
「何か言いなさいよ!」
「いてててっ!股が裂ける!」
「あんたが何にも言わないからでしょうが!」
「ちょっ!まじで裂けるぅ〜!」
日が傾き始めたグランドには御堂の悲痛な叫びが木霊していた。