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25話:ダンジョンへ


「今からダンジョンに潜るが事前に説明した通り、隊列を崩すなよ。全員気を引き締めていけ」


「「はいっ!」」


今日、潜るダンジョンはあのまわしい研究員がいる研究棟にある訓練用のダンジョンだ。

幸いにも研究員達は今、学生達から接収した魔導具の解析で忙しいらしく、姿を見せることはないと聞いて肩に力が入っていた俺と姫川は安堵した。


さて今日のダンジョンは訓練用とはいえ、祝福の時のようにスライムだけなんてことはない。

ダンジョンランクは同じFランクらしいが出てくるモンスターはゴブリンのみ。

ゴブリンといえば、ファンタジーなんかでは定番の雑魚モンスターだが正直、人型モンスターと聞いて俺は心情的に少しハードではないかと思っている。


コロシアムで戦闘科の生徒を2人も光にしておいて、何言ってんだよ等の苦情は受け付けない。


話が少し飛んだがこの訓練用ダンジョンに出るゴブリンは倒しても素材も魔石も落とさない。

落とすのは経験値のみ。当然、宝箱も出ない。


そういったこともあり、学生の訓練用ダンジョンなのだ。


「行くぞ!ついて来い」


東雲先生を先頭に前は柴田と山口、その後ろに俺、姫川と続く。

黒いもやの中に柴田、山口の姿が消えていく。


「俺が先に行こうか?」

「好きにすれば」

「じゃあ、お先に」


レディファーストという言葉が一瞬頭をよぎったがもう返事をしてしまったので先に行く。

黒い靄を抜けた先は外だった。

部屋からいきなり草原へと移動した俺は頭が混乱を起こし、足が止まる。


ドン!


「ちょっと!入り口で立ち止…まらな…いで…よ」


「ああ、悪い…」


姫川も驚いているのか語尾が弱かった。


「全員、揃ったな。これから探索を開始するからいつまでもほうけているなよ」


先に話は聞いていたが実際に自分の目で確認すると驚きは大きかった。

これが本当にダンジョンの中なのか、空の景色とか本物としか思えないが見渡しても太陽がない。

このダンジョンの光源はいったいどこから来ているのか、疑問は尽きないが先生から遅れる訳にはいかないので歩き出す。

靴の裏から伝わる土の感触、ズボン越しに当たる草の質感。

全てが本物としか思えない。


ダンジョンについて研究している人が調べたがこのダンジョンに存在する物はモンスターからドロップした素材や魔石、アイテム素材と言われる薬草類や鉱石、宝箱から出たアイテム以外は持ち出そうとしてもダンジョンから一歩でも出ると消えてしまうという。


「お前達、早速お客さんが来たぞ。誰からいく?」


このひと言で俺の緊張は最高潮に高まる。


「私がやる!」


誰より早く答えたのは姫川だった。


「事前に教えた通り、油断するなよ」


コクリと頷くと静かに腰の鞘からレイピアを抜く。

俺から見えた横顔に緊張の色は見えなかった。


前方50メートル程の距離を小学生と変わらぬ身長、約120cmくらいの深緑の肌をした人型モンスターが走ってくる。

テレビやネット等で見たことがその姿は間違いなくゴブリンだった。

相手との距離が徐々に近付いてくるが姫川は全く動揺する事なく、ゆっくりと俺達の前に出る。


見ているこっちが先に焦り出しそうな程の落ち着きだ。


そして、しっかりと相手を見据えて構える。

半身の姿勢で手に持つレイピアを脇の位置で構える様は初心者とは思えない程、格好良かった。


「グギャグギャ!」


ゴブリンは姫川を獲物と認識したのかイメージ通りなダミ声を発し、顔の割合からいって大き過ぎる口を開いて迫ってくる。


「やあっ!」


間合いに入った瞬間、気合い一閃。

姫川の長い髪が波を打ち、後方へ流れる。

レイピアはゴブリンの顔のど真ん中を半ばまで捉えていた。

恐らくゴブリンは即死だろう。

姫川はゴブリンが黒い霧となり、消滅するまで残心を解かなかった。


パチパチ


「初めてにしては上出来だ」


姫川は一度だけ不思議そうに剣を眺めると鞘へとしまう。

御堂は分からなかったが姫川は初めてモンスターを倒したことに達成感を得ていた。


「さて、どんどん来るぞ。次は誰だ?」


「「俺だ!」」

「俺が行く!」

「じゃあ、次は柴田行け」

「よし!」


出遅れた俺は選ばれなかった。

柴田は担いでいた槍を両手に持ち替え、腰を落としてゴブリンが来るのを待つ。


姫川の時と同様、ゴブリンが奇声を上げながら近付いてきたところで槍を突き出す。


「グギャー!?」


槍はゴブリンの胴体に深く突き刺さり、槍の勢いで倒されたゴブリンは地面に縫い付けられる。


「ギャッギャッ!」


即死には至らず、刺さった槍から逃げようとするゴブリンを柴田は必死に押さえつける。

小さい体なのに力は柴田と互角。

姫川が一撃で倒していたので俺達は勝手に弱いと思い込んでいたようだ。

今の俺達にとってはゴブリンの生命力は強く、油断して勝てる相手ではないのだ。

柴田の頑張りでも黒い霧になるまで3分以上も掛かった。


「次、山口は右側、御堂は左側の奴の相手をしろ」


ついに俺の番が来たか。

柴田が手古摺てこずり、ゴブリンが騒いだせいで周りにいたゴブリン達が集まりつつあるみたいだ。


俺は自身を落ち着かせるように姫川の真似をして、ゆっくりとサーベルを抜く。

初めてということで自分の実力を確認する為にも今回は称号の効果は使わずに挑もうと思う。

俺がやるべきことは姫川同様に突きでゴブリンの急所を狙い、一撃で速やかに倒すこと。

自分を鼓舞しろ。

素振りを思い出せ。俺なら出来る!


相手をしっかりと観察して狙いを定める。

距離が近付き、間合いに入るか入らないかのところであの感覚が来る!


「(今だっ!)」

「はぁっ!」


弓なりのように飛び出すと同時に引き絞っていた剣を持つ腕を前に出す。


「ッ!?」


俺のサーベルは狙い通り、ゴブリンの眉間を貫いていた。

ゴブリンは白目を剥くように目玉がぐるんとひっくり返ると黒い霧へと変わっていった。


「ふぅ」


呼吸することすら忘れる程、緊張していたようだ。

サーベルに異常がないか確認して鞘に戻す。

俺は無事に倒せたことを示そうと振り返れば、全員が山口の方を見ていた。


「くそっ!」

「グギャッ!」

「この野郎ぉ!」

「グギャッ!グギャッ!」

「ぐぅっ!」


山口はゴブリンと拳で接戦していた。


「山口!熱くなるな!間合いを取れ!」

「わかってる!」

「一撃で決めようとするな!ボディがガラ空きになってるぞ!」

「くそっ!!ぐぅ!?」


やはり、素人に毛が生えたようなボクシングでは決定打に欠けるようだ。

そもそも、頭に血が上ってフットワークもせず、完全に足が止まっている。


「姫川!柴田!御堂!次のゴブリンが来た!それぞれ対応しろ!」


「えっ!?」

「了解!」

「ふん!私1人で充分よ」


「危ないと思ったら迷わず俺の所に来い!山口回り込め!」


戸惑う柴田を他所に姫川は真っ先に1番近いゴブリンへと向かう。

俺も負けてられないと姫川とは別のゴブリンに向かう。

姫川の態度から言って一匹だけ倒して終わりなんてことはないはずだ。

今、視界に映るゴブリンの数は4匹。

姫川よりも先に俺が2匹倒してやるぜ!


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