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23話:スキルとは


俺と姫川の武器選びを終えて、時刻は午後3時。

第4グランドではクラスの全員が集まっていた。


「全員の武器が決まったから改めて、明日からの予定を言う」


神妙な面持ちの俺と姫川の腰には剣が携えられていた。

俺は最後に見たサーベルを選び、姫川もレイピアを選んだようだ。


「午前中は武器を携帯したまま、走り込みを行う」


全員が顔をしかめたのを見て、東雲先生は一喝する。


「御堂と姫川は目標を達成しているからともかく、山口!柴田!お前らはまだ達成出来てないんだぞ!気を引き締めろ!」


指摘された2人は気不味さからか下を向く。


「さっきも言ったが武器を携帯したまま走り込みだ。これまでの走り込みと何が違うか分かるか?御堂」


いきなりの問いに驚くが考えてみる。そこでつい最近、コロシアムで対戦した素人剣士君を思い出した。

姫川に喉を突かれて光になった奴だ。


「武器を持って走る分、走りにくいとか?」


「そうだ。慣れないとまともに戦えないぞ」


そこで先生が懇懇と説明を始めた。

曰く、武器一つと言ってもそれだけで慣れない者は重心がズレて走り辛くなるし、無意識にバランスを取ろうとして無駄な体力を使って疲れやすくなる。

対人戦ならば走りながら戦うことはあまりないが俺達がこれから相手をするのはモンスターだ。

これから先、ブレイバーである以上は常に付き纏う問題らしい。


そんな中、話を聞いてほくそ笑む奴がいた。

それは山口だった。

山口は祝福の際に[拳術]のスキルを授かっていた。

なので選んだ武器はグローブ。

ただし、御堂がコロシアムで使用したグローブよりもスパイクがついており攻撃的なデザインになっているが走るには影響が少ないはずだと考えていた。

ここで御堂を見返してやると…。


「そういう訳でまた午前中は走り込みだ。それに加えて午後は素振りと俺との稽古だ」


これが朝8時から夕方の17時までときた。

普通に会社勤めと変わらない拘束時間なのに毎月5万円。かなりブラックだぜ…。


「じゃあ、定時まで後2時間、各自素振り開始!」


柴田と山口の2人は合図と同時に離れていく。

彼奴等はすでに素振りのやり方を知っているからな。


「御堂、姫川、お前達は今から簡単な振り方を教える。ついて来い」


先生に言われるまま、グランドの中央へとついていく。


「さてと、今から基本を教える。二人ともサーベルとレイピアの違いはあるが基本の振り方は同じだ。見ていろ」


それだけ言うとさり気なく、腰から吊り下げた鞘から剣を抜く。

ただ剣を抜くだけの動作なのに様式美を感じた。


「しっかり見ていろ」


抜いた剣をゆっくり掲げると振り下ろす。

剣を寝かせて構えると真一文字に横に振る。

腕を引き絞り一気に剣を突き出す。


その一つ一つの洗練された所作に俺と姫川は見惚れていた。


「まずはこの3つの型を覚えろ」


感銘が抜け切らず無言で頷く。


「剣を振る際は必ず周りに人がいないか確認してからやるようにそれから自分の足は斬るなよ?」


姫川とお互いに距離を取ると先生のさっきの動きを頭の中でイメージする。

そのイメージを自分の身体にダウンロードするように反映させる。


ビュッ!


「上半身だけで振ろうとするな、もっと下半身を意識しろ」


アドバイスを受け入れ、下半身を意識しながらもう一度振り下ろす。


ビュッ!


下半身を意識したおかげかさっきよりも上半身が安定した気がする。


「まずは身体に教え込む為にも一つ一つの動きをゆっくりと確認しながら行え、慣れてきたら少しずつ動きを早くしていけ」


言われたことを噛み締め、ゆっくり動作を確認しながら行うが難しい。

下半身を意識すると上半身がおろそかになる。

振り降ろしから横振りに変えるだけで重心の取り方が変わってくる。

突きなんて全然違う動きだ。

これで基本なんだから実戦になったら袈裟斬けさぎり(斜め振り降ろし)とか逆袈裟斬ぎゃくけさぎり(斜め振り上げ)とかも加わるわけで俺は本当に戦えるようになるのか疑いたくなってくる。


そこで俺達よりも早くに素振りを始めた柴田と山口を見てみる。


柴田は相変わらず木製の槍、いやこの間までなかった金属製の矛がついた槍をぎこちなく回したり、突いたりいだりしているが身体が流れており完全に振り回されている。


山口はシャドーボクシングをしているところを見るに獲得したスキルは拳術か?武器もスパイクが付いたグローブだし。

蹴り技を使わないところを見るに格闘術や体術ではないと思う。詳しくは知らないが…。

あれで対人なら兎も角、モンスターを倒せるのだろうか。

相当に筋力値を上げないと仕留めるのは厳しいのでは?そんなことを考えていると先生が近寄ってきた。


「アイツらが気になるのか?」


「アイツらは気にならないけど、スキルは気になるかな」


「お前もなかなかに辛辣だよな。くっくっく」


俺の迷いなき本音だ。


「それで何のスキルを貰ったのか気になってるのか?」


「いえ、それは見れば大体わかるんで」


「ならスキルの何を気にしてるんだ?」


「そもそもスキルを持ってると何が変わるんですか?」


俺が疑問に思ったことを聞いてみた。

柴田と山口を見ていて思ったのは本当にスキルを持っているのかという疑問。それ程に2人の動きはぎこちなかった。


「あ〜、そういうことか」


どうやら俺が何を思っているのか解ったようだ。


「折角だ、姫川もこっちに来い!」


真剣に素振りをしていたのに理由も分からず呼ばれた姫川は明らかに不機嫌だった。


「今から武術系のスキルについて教えてやる」


そして、急に始まった講義。

柴田と山口には既に教えてあるらしいので俺達2人だけだ。

聞く準備ができると先生は語り出す。


ブレイバーで最も多く、所持しているスキルは剣術スキルであり、俺達も今回サーベルとレイピアの違いはあるが剣を選択した為、剣術を例に上げて説明が始まる。


まず勘違いしてる奴が多くいるが剣術スキルを授かっただけでは強くならないということ。

剣術スキルは飽くまで剣の腕前を少し補助してくれるだけで急激に強くはなれないし、使いこなすにはそれなりの時間を要する。

効果はその人の腕前にもよるが振った際の剣先のブレを小さくしたり、動きを補助して剣速を僅かに速めたりする程度だという。

しかし、「上に行けば行く程、その差は大きく感じるんだけどな」としみじみと言う。


「スキルがあるからってすぐには上手くなる訳じゃない。お前達はスポーツや色々な競技で上手くなる近道を知ってるか?姫川どうだ」


少し考える素振そぶりを見せた後、そんなのある訳ないと言った表情で答える。


「練習、誰よりも多く練習すること」


模範的な解答に満足なのか東雲先生は笑顔で否定する。


「練習も大事だが答えは模倣することだ」


「「模倣?」」


「そう!上手い奴の真似をするんだ」


そんなことで上手くなるのだろうか?半信半疑の俺達に説得力を出す為に説明してくれる。


「大概、スポーツをやってる奴らは憧れの選手がいる。自分が成りたい理想像と言ってもいい」


確かに俺もテレビで戦うブレイバーを見て、憧れて将来は自分もあんな風になりたいと思った時期がある。


「上手くなる奴らっていうのは憧れの選手を真似して動きや技を自身に取り込んでいく。それは既に成功している動きだったりする訳だからな意外と通用するんだ。一流選手の動きや技は最高のお手本でもあるからな」


確かに聞いたことがあるような…誰しも最初は真似から入るだったか。


「御堂、お前が俺に聞きたかったのはあの2人はスキルを持っているのに全然上達してないのはなんでだ?ってことだろ」


そうなのだ。まさに俺が気になったのはそこだ。


「アイツらはイメージ力が弱い。どういう自分になりたいのかっていう想像力がな」


「先生、もう一度さっきの型見せてもらえませんか」


普段からあまり喋らない姫川が珍しく、いや初めて要望を口にする。


「いいぞ」


先生は笑顔でひと言だけ告げると型を披露してくれる。


俺も負けてられないな。

東雲先生の動きをその目に焼き付けるべく、真剣な眼差しを向けるのであった。



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