20話:東雲龍也の語り
この話、難産だったわりに…。
俺は今、教え子の戦いを見ている。
ブレイバーとして選別に受かり、悩み苦しみその末に辿り着きつつあるブレイバーの高みへと向かう俺の人生はいつも苦悩と憤慨に満ちていた。
俺の家は3代続くブレイバーの家系。ちなみに俺の弟が3代目を継ぐみたいだ。
正直、3代如きでブレイバーの家系とか名乗るのもそれを誇りに思っている両親には片腹が痛いが世界的に見ても3代続けている家は稀有と言える。
挙げ句の果てには周りから持て囃され自分達の事をブレイバーの名家などと名乗り出す始末…。
ホントに勘弁してくれ…。
そんな自称名家で生まれ育った俺は順風満帆だったわけじゃない。
子供の頃は祖父からブレイバー時代の武勇伝を子守唄替わりに聞かされ、父の活躍をテレビで見て育った。
こんな環境でブレイバーを目指さない奴なんているのか。
少なくとも男だったら誰でも目指すんじゃないか。
俺は類に漏れることなく目指した。
家族の後押しもあり、ブレイバー選別に受かる為と言われ効果があったのかどうかもわからない英才教育を施された。
そのためか俺は選別に絶対に受かると信じて疑うことはなかった。
まあ、実際になったんだが問題は俺に授けられた職業だった。
そう俺が授かった職業は「なし」。
最初にも言ったが家は代々続く、ブレイバーを家業にしようとしている家柄だ。
祖父は戦士の職業につき、激動の時代を生き抜いた誇りを胸にしまっている。
祖母は魔法士として、祖父と共に戦場を駆け抜けた日々の記憶に浸り。
父はそんな両親を尊敬し、自分も剣士として誇れる結果を出しクランを創設。現在も現役クランマスターだ。
母も公私共に父を支え、クランの経営を任されている。
そんな自尊心の塊のような家族の中で俺はブレイバーのサラブレッドだからと俺達の子供だからと必ず将来は大成すると家族からも周りからも期待されて俺自身も疑っていなかった。
しかし、俺の授かった職業はなしだ。
期待が大きかった分、家族からの失望も大きく、周りからは落ちこぼれと揶揄される毎日。
家での行き場を失くした俺はブレイバー学校に縋る思いで入った。
だが現実は無情だ。
クラス分けされたのは今年からで俺の時代は戦闘科、魔法科、斥候科、補助科の4クラスしかなかった。
そんな中、俺は戦闘科に入れられた。
まだ、職業なしがクラスアップする例が海外でしか確認されておらず、日本では模索していた段階だった為、職業なしの生徒を実験的に各科に配属していた。
戦闘科のクラスは最悪だった。
教師からは初日に無能の烙印を押された。
おかげでクラスメイトからは格下扱いされ、喧嘩の毎日。
それでも屈することなく、努力を続ける日々。
しかし、勝てていたのは最初の1ヶ月のみ。
日を追う毎にステータスとスキルの差が広がり、段々と勝てなくなるとクラスでの扱いは酷さを増していった。
苦悩する日々の中でひたすらに藻掻き、抗うように続ける厳しい訓練。
どれだけ身体を苛め抜いて努力しても差が開くばかりで縮まることはなかった。
最悪なことは続く。
幾ら努力しようと結果の出ない俺に担任の評価は変わらず戦闘系スキルを持たない奴は役に立たない無能との最低評価を下し、それを聞いた父親が一族の恥さらしとして俺を勘当した。
疎まれ蔑まれても家族だと思ってた。
だが信じていた者達に裏切られ、絶望感に平伏したまま、モンスターパレードを迎える。
この年、例年にない規模と脅威度のモンスターパレードが発生していたことを後から知らされた。
中部ギルド上層部は例年通りだと高を括り、自分達の名誉と名声、地位を盤石にする為に指揮に割り込み防衛ラインから出撃しての迎撃を命令。
出撃したブレイバーは囲まれ孤立無援状態となり、人員が薄くなった防衛ラインは耐え切れず一部が突破され、防衛基地内は阿鼻叫喚の光景が広がっていた。
後方任務のはずの1年生ですら戦闘を強いられる結果となり、あれだけ威張り散らかしていたクラスメイトも何人も命を落とした。
俺自身も復帰に時間が掛かる程の怪我を負った。
〜〜〜
この大損害を受けて、ギルドの上層部は責任をとる形で入れ替わりが行われている。
この時の上層部は戦闘系職業こそが至高と掲げる至上主義派で占められていたがこの問題が原因で現ギルドマスターである西園寺率いる改革派が入れ替わることになった。
その後、東雲龍也は3年生になると西園寺派閥に入り、学校卒業後は派閥の広告塔の役目を担う活動を前線でするようになる。
〜〜〜
怪我から復帰後、自分の無力さを実感したが一つの希望の光が俺を照らした。
モンスターパレードの中、ついにクラスアップしたのだ。
だがその事実を俺は誰にも告げなかった。いや、病院のベッドで静養している時に一度だけネットに書き込んだかな。
そこからは俺を馬鹿にした奴らに追いつき、追い越すのを目標に死にもの狂いでレベルを上げた。
幸いだったのは憂晴らしのために俺に喧嘩を売ってきた奴らが勝てなくなるや黙って大人しくなったことか。
おかげで俺はレベルアップに専念できた。
3年になった時には学内ランキングは1位を獲得。
誰も俺を馬鹿にする奴はいなくなっていた。
そんな折、勘当した父親から手紙が届く。
よくやった。家に戻ってこいと。
呆れて物が言えないとはこのことだ。
自分が勘当しておきながら結果を出せば、手の平を返したようにすり寄ってくる。
父親のクランは生存圏奪還をメインにする討伐クラン。
当然のように実力で持ってモンスターを狩るため、戦闘力を優先する至上主義派を支持している。
しかし、2年前の至上主義派の大失態により補助金が減額となり経営に苦しんでいたところ、勘当した息子が頭角を現してきた為、起爆剤として起用しようと考えていたみたいだ。
そんな時、今の理事長に声を掛けられる。
「一緒にブレイバー組織の改革をしないか、どん底から這い上がってきた君ならわかるだろ」
戦闘職業の生徒は補助職業の生徒にデカい顔をし、補助職業の生徒は戦闘職業の生徒にへこへこしているのを散々見せられ、ブレイバーという職業にうんざりしていた俺は改革という言葉に興味を引かれて話だけは聞くことにした。
理事長は中部ギルドマスターの秘書も兼任している。
その伝で俺は中部ギルド本部でギルドマスターの西園寺と直接会うことになった。
今でも忘れない。ギルドマスターが理想を熱く語る姿を。
幾度も死地に赴き、友を失い、この身に傷を負ったと。
悲劇は繰り返してはいけない。
綺麗事なのは百も承知だが願わくば、私がギルドマスターのうちに止めたいと。
俺の境遇を知り弱い奴らの気持ちが解る俺が必要だと言ってくれたことを。
他人から必要だと言われたのは正直、生まれて初めてだった。
気付けば固く握手を交わしていた。
前線では未だに至上主義派の戦闘職が幅を利かせており、補助職は辛酸を舐めさせられているという。
あまつさえ、先に犠牲になるのは補助職の者達だという。
俺が任された改革は卒業後の前線で改革派の補助職と仲良くしつつ戦闘職の奴らよりも成果を出すこと。
要は至上主義派の切り崩しだ。
前線の補助職の人達の協力もあり、俺は飛ぶ鳥を落とす勢いで存在感を示していった。
次第に改心して改革派に鞍替えする戦闘職の奴が増えていく。
当然か、その頃には至上主義派の連中は一切のサポートを受けられず、全て自分達でなんとかしなければならなくなっていたのだから…。
前線の職務について5年目に入ろうかという時、理事長から特別な任務に誘われた。
その任務の内容は学校の講師をしてくれという。しかも、担当は職業なしのクラスだという。
そこで5次職を発現した者が現れたことも知らされた。
その者は[職業なし]だったという。
俺は前線で活躍し、いつしかクラス4に最も近い男と呼ばれていた。
ただレベルはカンストして既に半年。
クラス4に上がる為の条件が解らずに足踏みが続いている。
〜〜〜
クラス4に上がるためにはきっかけが必要だと言われており、努力では超えられないとも言われている。
〜〜〜
理事長からこの任務について聞いた時、不思議な運命を感じていた。
もしかしたらクラス4に上がるきっかけがあるのではと…。
そして、教師になり教え子の戦いを見ている。
結局、何が言いたいかというと。
今、俺の目の前で戦っているこいつ、御堂久遠はブレイバー界の台風の目になるかもしれない。
超一流のブレイバーだけが纏う風格を匂わせる御堂の戦い。
誰も職業なしだなんて今は思っていないだろう。
そこにいるのは勝算もわずかしかないのに自分の勝利を疑わず無謀にも戦いに赴かんとする英雄。
それを見て忘れていた戦いの高揚感に心の臓を掴みとられ、脳髄が熱を持つのが解る。
やはり、この誘いを受けて良かった。
ここでまた俺はクラス3の壁をぶち壊し、クラス4に上がる。