2話:中部本部ギルド
適性が認められてしまった俺は学年主任の後についていき、神社の裏手へと回るとそこには黒塗りのワンボックスカーが1台止まっていた。
そのドアの近くにはピシッとスーツを着こなした20代と思しき笑顔の男性が佇んでいる。
「恐らくこの子で今年は最後だと思います」
学年主任が男性に声を掛けると会釈をして、ドアを開けて乗るように促される。
「お疲れ様でした、中でお待ちください」
まだ、心の準備も出来ていない俺は正直に言えば、乗りたくないがその選択肢はない。
ここで逃げることは可能だ。しかし、逃げたところですぐに捕まるのは目に見えているし、同級生達から思春期でデリケートな俺がビビリだと思われるのは看過できない。
なけなしの勇気で意を決して、乗り込めば最初に適性が認められた2組の女子、確か名前は近藤保奈美さんが不安そうな顔で俯いており、後部座席では先程の浜口が誰にも見せたことがないであろう気持ち悪い笑顔で外を眺めていた。
俺の存在に気付いた浜口が気軽に声を掛けてくる。
「御堂も選ばれたのか、でも残念だったなこれからは俺の時代だからな!ははは!」
「あ、あ〜」
今まで俺のことは御堂くんと呼んでいたのにキャラが変わり過ぎてドン引きだ。
ひとまず生返事を返し、浜口の隣には絶対に座りたくないので通路を挟んだ近藤さんの隣に座る。そんな俺を近藤さんはチラチラと見てくるが話したこともない相手、ましてや俺は女子と気軽に話せる男子ではない。
居心地の最悪な車内での時間は永遠とも感じられるものだったが終わりを告げるように学年主任と車の前で佇んでいた男性が乗り込んでくる。スーツの男性は運転席に学年主任は助手席に座る。
「今年の選別は終わったぞ。選ばれたのはお前達3人だけだ」
ぶっきらぼうにそれだけ告げると学年主任が「出してください」と言い、車は走り出す。普段はもう少し気さくな学年主任なのだが浜口にうんざりしているのだろう、兎にも角にも今の俺の精神状態ではどうでもいいことだ。
今から連れて行かれる場所は授業で事前に習った東海地方のギルドを統べる中部本部ギルドだ。
そこで個々人の大まかな能力鑑定を受ける。
能力鑑定が大まかな理由としては魔導技術が未成熟な為、大まかにしか解らないらしい。
ちなみに能力を鑑定するには特殊な魔導装置が必要らしく、魔導技術後進の日本ではまだ製造されておらず、輸入に頼るしかなく必然的に高価になってしまうとのことだ。その為、各地域の本部ギルドにしか今のところ置かれていないとのことだ。
その特殊な装置で自身の職業と先天性の技能を知ることで自分に対する理解を深め、やっとステータスを呼び出すことが可能となる。
ステータスとは自身の能力を数字で表したものでまさにゲームのようなものらしい。
当然だがジョブやスキルには希少なものから地雷と言われるものまで様々だ。少しでも有用性の高いものを引き当てれなければ、自身の生存率に直結する。どれだけ弱いジョブを引こうが選別に受かってしまった以上、ブレイバーの任期は無くならない。考えただけでため息しか出てこない。
俺の気持ちとは裏腹に夢見る気持ちが逸るのだろう後部座席からは時折、気持ち悪い笑い声が聞こえてくる。
すみません運転手さん、急いでください。
〜〜〜
車で約20分、名古屋市の中心部にあるギルド本部ビル。広いエントランスには何台もの黒塗りの車が止まっており、学生が降りてはビルの中へと吸い込まれていく。
学年主任に促され、俺達3人も車から降りてビルの中へと向かう。当然のように浜口は先頭を歩いている。
ここにいる人間は大きく分けて、2種類。
ブレイバー選別に受かり希望を持って、自信満々な表情の者。
これとは対照的にすぐ先の将来に不安を覚える表情の者。俺と近藤さんは後者かな。
案内に従いエレベーターで上階に向かうと広い会議室へと辿り着く。まだ、席は半分も埋まっていないが各学校毎に机にはプレートが用意されており、皆ソワソワとした雰囲気だ。
俺も落ち着かないせいかやたらと周りの声が気になる。
「(お前、どこ中?)」
「(◯☓中、お前は?)」
お前ら昭和の不良かよ…。
「・・・御堂くんで合ってるよね」
「っ!?」
不意に隣から自分の名前が呼ばれ、ビクッとしてしまった。俺の名前を呼んだのは2組の近藤さんだ。
「そ、そうだけど、近藤さんだよね?」
「うん」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
なぜ、話しかけてきたぁー!こんどぉー!
俺が悪いのか!俺の返しが悪いのか!
ここでも気不味い時間をやり過ごし、席が粗方埋まったところでスーツ姿の男達が3人入ってきた。
雰囲気のある姿に自然と目は追いかけ、最後に入ってきた男が壇上に上がるなり、それまでのソワソワした空気は一瞬で吹き飛び、全員の背筋が伸びた。
その男はまるでゴリラに無理矢理スーツを着せたかのような服の上からでも解るほどの隆起した筋肉を持ち。全てを射貫くような鋭い隻眼に何と戦ったらつくのかわからない3本線の大きな傷跡が顔の半分を埋める。
まだ、モンスターと対峙した方がましだと思える威圧感。
この人、絶対偉い人だ。