15話:回復魔法
入学式から次の日、第4グランド。
第1、第2、第3グランドは戦闘科と魔法科とか斥候科とか、とにかく職業なしと回復科以外が使用しており俺達は端に追いやられる形で第4グランドを使っていた。
第4とか聞くと他よりも小さなグランドを想像するかもしれないがその通りだ。
ただ小さいとはいえ、普通に野球が出来るくらいの広さはある。
「サボらず走れ!そんなんじゃ日が暮れちまうぞ!」
午前中はひたすらに走り込み。
その後の予定は聞かされていない。
正確には入学したての学生ではこの走り込みはぼぼこなせないメニューらしく、予定を立てても無駄になるとかでその後のメニューは教えてもらえなかった。
密かに俺は考えていないだけではと思っていた。
命じられたのは一周が約800メートルのグランドを25周、約20キロの距離を3時間切れるまで続けるという。
東雲先生、講師と呼んでいたが本人が先生と呼ばれた方が教え甲斐があるとかで正直どっちでも良いのだが先生と言うことになった。
そいつが言うには体力の能力値が18になれば、この走り込みは余裕で3時間切れるとか。
今の俺の体力値は15です。
「最初の威勢はどうした山口!足動いてないぞ!」
遅れ出している山口、柴田を横目に今はブレイバー学校に入ると決まって、身体を鍛え始めた自分を褒めてやりたいぜ。ホント
「久遠くん!頑張ってぇ〜!」
「おう!」
「御堂ぉ!授業中にいちゃつくな!」
保奈美にカッコ悪いところは見せたくない一心で俺は走る。
当然だが回復科は俺らとは別メニューだ。
間違いなく1日で走った量としては最長距離だったが俺はやり切った。
ただタイムは3時間を切ることが出来ず、目標にはほど遠かった。
それでもクラス内では1位。4人しかいないじゃんみたいな苦情は受け付けない。
予想外だったのが姫川だ。
彼女は俺に一回も周回遅れにされることもなく、走り切った。
お互いの健闘を讃えようと近寄ったら睨まれたけど。
山口は昼休みギリギリでゴール。
柴田は動いていない。屍のようだ。
「生きてるよ!」
昼休みまでに余裕を残して、走り終わった俺達はその後、東雲先生と俺は組み手を姫川は護身術の指導を受ける。
ここで「あっ、先生なんだな」と関心させられたのが俺と組み手をしながら山口、柴田に激を飛ばしていたので隙ありなんて思って死角から突っ込んだらボコられたね。
わざと隙を見せて誘われたのか気になって聞いてみれば、能力値が違い過ぎて俺の動きを見てからでも対応できると言われた。
単純に俺との能力値の差は約30倍だからな。
そして、組み手なんてモンスターとの戦いで役に立つのかと思った奴がいるかもしれないが俺の直感スキルを鍛える為にやっている。
担任ということで俺達の先天性技能のことは把握しているらしく、それぞれにあった指導を行うようだ。
ちなみに俺対する指導方法はこうだ。
俺の直感スキルは相手の表情や目線、性格、仕草、体格など色々なことを無意識に加味した上で脳が計算を行い、相手が取るであろう次の結果を教えてくれているらしい。
これは俺の経験に大きく左右されているらしく、知らない人よりも知ってる人と対峙した方が当然より精度の高い答えが出やすいらしい。
教室で山口と殴り合った時は山口の性格や動きが単純だったから読みやすかったんだろうと言われた。
逆に相手が達人とかになると俺の経験不足から直感は働かないと言われた。
達人になると表情、目線、足の向き、仕草、体格、筋肉、呼吸などあらゆる事象を読み取り計算して動くらしい。
俺の直感はそういったものを自動で計算している分、結果を出すのがわずかに速いが精度が悪く経験に左右されるらしい。
つまり、経験を補う為の組み手だ。
「ぐわぁ!?」
「ちゃんと俺の目線も気にしろ」
「がはっ!?」
「ほらほら、今のはつま先の向きを見てればわかっただろ?」
「ぐふっ?!」
「拳を見るんじゃ遅い、肩の筋肉で判断しろ」
「服着てて見えないんだけど」
「なら服の上からでも分かるようになれ」
「へぶぅ!?」
「今日はここまで。次、姫川」
組み手が終わり、倒れるようにグランドの上に寝転がる。
腕で顔を擦れば、鼻血が出ているのか血の跡を引く。
鼻血なんて何年ぶりだ。
「久遠くん、大丈夫?」
寝たまま見上げる先には俺の天使。
太陽を遮るようにこちらを見ている様はまさに後光が差したようで天使じゃなくて女神だったと気付く。
「大丈夫、保奈美は授業いいのか?」
「う、うん、先生が回復魔法を使う良い機会だって」
「回復魔法使ってくれるの?!てゆーか、いつの間に使えるようになったの?」
回復士は職業技能で回復魔法のスキルを得ているがすぐに使えるわけではない。
魔法はイメージが全て、回復魔法を使いこなすには医者に等しい知識が必要と言われている。
「つ、使えるかはわかんないけど、でも先生が使えるかもって…」
「ん?」
どういうことだろうか?それにやけに吶っていたが。
「愛の力よ。回復魔法は愛する人には発動しやすいんですって」
代わりに説明してくれたのは真由ちゃんだった。
パンツが見えないようにちょっと離れて立っている。
その脇にはハラハラ・ドキドキしている女子2人と笑顔の女性。回復魔法科の担任の姿が見える。
「「近藤さん、頑張って!」」
「久遠くん、やってみてもいいかな?」
保奈美は照れくさそうな顔で聞いてくる。
答えはもちろん、イエス!
「こちらこそ、お願いしてもいいかな?」
「うん、じゃあやるね」
保奈美は両手の手の平を俺に向けたまま、集中しているのか目を閉じている。
「ヒール!」
掛け声とともに俺の身体は淡い緑色の光に包まれた。
魔法科の担任やクラスメイトが息を飲むのがわかった。
俺を包んでいた光は3秒ほどで消える。
「「きゃー!」」
「愛ね、愛の力ね!」
回復科の女性陣が沸いていた。
「どうかな?」
俺は起き上がり、手を閉じたり開いたり、屈伸をしてみる。
走り込みの疲れと組み手で受けた傷の痛みもなくなっていた。
「効かなかったかな?」
驚きで何も言わない俺に不安になったのか泣きそうな顔をしていた。
「いや、回復魔法ってめちゃくちゃすげぇな…痛みも疲れもなくなっちゃったよ」
「よかった〜」
そういうと初めての回復魔法が成功して、嬉しかったのか俺に抱きついてきた。
当然、俺は受け止める。
「「きゃー!」」
グランドには女性陣の黄色い悲鳴が響き渡っていた。
「回復魔法使ってもらえるなら御堂だけ明日からかなりハードにできるな」
東雲先生の独り言を聞いていた姫川は憐れな視線を俺に向けていた。