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1話:選別


俺の名前は御堂(みどう) 久遠(くお)


来年の春から何事もなければ、普通の高校生になる予定の中学3年生だ。

何事もとは本日、国が施策する魔物を狩る者(ブレイバー)の適性選別があるからだ。


ブレイバーとはその名の通り、50年前に突如発生した危険生物(モンスター)を狩り、未知なる領域(ダンジョン)から貴重な鉱石や不思議な魔物素材を回収するのが主な仕事だ。緊急時には準国家公務員として、国の非常勤防衛戦力としてモンスターの進行を防ぐ為に壁とされ、しかも適性者の少なさから5年のダンジョン探索という任期が課せられる辛い職業。


現実を知るまでは同級生の男子達には憧れる者も多く、国や自治体が発表した小中学生の将来なりたい職業[男子]では常に1位だ。


俺にも憧れがなかった理由(わけ)ではない。


約半年の頻度で発生する魔物の大量発生(モンスターパレード)ではテレビやネットで中継が行われ、その度に勇敢なブレイバー達の戦いを見てはいずれは自分もと夢見ていた。

画面越しに映るヒーローのような存在に憧れない男子は少数派だろう。ただ現実が解るようになってきた年頃の自分が戦うとなると冷静に考えて厳しいものがある。

俺はただの中学生なのだから。


そう今日の適性選別を受けるまでは…。


中学3年生の夏休み前、人生の進路がほぼ決まってしまうと言われるブレイバーに適性があるかどうかの選別が全国の中学校で一斉に行われる。

場所は各地域で異なるが神聖なる場所と決まっている。つまりは神社や仏閣、教会等だ。

これはモンスター発生当初、為す術がなかった人々が神頼みをした際に一部の人々が覚醒したことからこの方法が今でもとられている。

数十年続く毎年のことであり、今では社会的にも一種のイベントと捉えられている節があり、国民の関心も高く、テレビカメラも来ている。

ただ選別を受ける学生達にとっては人生を左右する一大行事であり、各々の顔には不安や期待に満ちた顔が見受けられる。


一学年4クラス約120人。一昔前に比べたら少ない人数だがここは都市部ということもあり、全国的には多い部類である。


「それでは適性選別を始めます」


学年主任の教師が声をあげるとそれまでザワザワとしていた学生達は押し黙り、ヒリついた空気が境内を支配する。


「1組から始めてください」


担任の後を追うように出席簿の順番で歩いていく。それを緊張した面持ちで他クラスの生徒達は眺めていた。

授業で習った通りの礼儀作法で祈りを捧げていくが残念と言うべきか1組からは適性がある者は出なかった。

安堵したように笑顔を見せる生徒や自分で願った通りにならなかった生徒は怒りや悲しみを(あらわ)(わめ)き、担任によって(なだ)められている。


そして、2組へと移行し、今回初の適性者が出た。


女子生徒が祈りを捧げるように両手を合わせると淡い光に包まれる。一瞬で境内にいる人間全てが息を飲むのが分かった。

本人は目を閉じているので気付いていないのだろう。祈りを終え、立ち去ろうと振り返り全員の視線が自分に集まっていることに驚愕するもすぐに学年主任によって、何処かへと連れて行かれる。


その後ろ姿を見る生徒達の視線もまた様々だった。


「後が詰まってます。皆さん、続けてください」


静まり返った場を動かしたのは2組の担任だった。思春期真っ只中の生徒達に動揺がない訳がない。先程よりもザワザワとうるさくなる中、2組3組と終わっていく。

そして、俺が在席する4組が始まった。


俺の名字は御堂、出席順は後ろから数えた方が早い。それでも何事もなく前の奴らは終わっていく。このまま、今年は一人だけかな?などと思った矢先、2つ前の浜口亨(はまぐちとおる)が光った。


「「おおぉ〜!」」


やっと出た二人目に外野が色めき立つ。浜口もその声で自身が光っていることに気付き、喜びを爆発させる。


「やったー!俺は選ばれた人間だっ!お前らとは違うんだ!はははっ!」


普段、大人しいイメージのポッチャリ体型浜口の豹変ぶりにクラスのみならず、全員が引くのがわかった。


「浜口、黙ってついて来い!」

「うるせぇ!凡人がぁ!俺に指図してんじゃねーよ!」


浜口の悪態は止まらず、結局は選別を終えた1組の担任「体育教師」と学年主任に腕を掴まれて連行されて行った。

まさに人が変わってしまった瞬間を目撃し、みんな言葉がないとはこのことだった。俺は心から自身に適性がないことを祈る。


止まっていた時間が動き出したのは4組の担任が声を掛けてからだった。

そして、ついに俺の番がくる。恐る恐る授業で習った通りにこなす。

周りから声は上がらない。なんとか乗り越えたと安心して祈りを終えると学年主任が近寄ってきて、ゆっくりと俺の肩に手を置く。


「御堂、ついてきなさい」


俺は思わず、空を見上げる。雲一つない澄んだ空がなんだか(うら)めしかった。






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