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邂逅  作者: 久保園順子
2/2

透明ドーム

 今度の日曜日、西側二階の子供服屋さんに連れて行ってもらう事になった。

服も嬉しいけど、一階に降りたらドームの端っこが見られるという事の方が楽しみだ。私は今7歳。

巨大透明ドームの東側の13階に住んでいる。

パパとママは、25階の会社で働いている。

小学校は13階に有る。

居住区はドームの東側に張り付くように作られている。太陽の光を取り入れるためだ。

上部は作物を作るためのスペースになっている。

雨が降った時にはまずその上部の畑に流れ、次にその下の浄水場に流れてきれいになった水は居住区や小学校などに供給されている。

それでも多い時は、外壁に流している。


 日曜日が来た!

朝起きてすぐ身支度をして出掛けた。

エレベーターで二階迄降りた後、西の端まで走って行こうとしたらママに叱られた。

「走るなっていつも言っているでしょう。」

「ごめんなさい。」

 洋服を買ってもらった後、約束通り一階に連れて行ってもらった。

雨がドームの壁を流れていくのが見える。

それをいつまでも見てると、ママが

「早く行こう。」と言って、私を引っ張った。

大人ってどうしてわかってくれないんだろう。

服を選んだり食事をしている時より雨を見ている時の方が楽しいのに。

三階の食堂街に行きながら私はパパとママに聞いた。

「ドームの外ってずっと土が有るだけなの?」

「そうだよ。

だいぶ離れた所に別のドームが有るけど。」

「へえ、本当?行ってみたい。」

「偉い人が会議の時に行ったりするそうだけど、こことあんまり変わんないらしいよ。

このドームは日本ドームと言うの。」

「別のドームにはどうやっていくの?」

「地下鉄で行くんだよ。」

「へえ、凄い!私も乗ってみたい。」

「会議の時くらいしか使えないよ。」

「ふうん。じゃあ空は?

空はどうなっているの。」

「雲があってそこから雨が降るのよ。」

「へえそうだったの。雲の上は?」

「やっぱり空が有って、星が有るのよ。」

「夜見えるあの星?」「そうそう。」

「その上は?」「星が有るのよ。」「ずっと?」

「そう、ずーっと。」

私は何だか納得出来なかったけど、それ以上どう質問していいかわからなかった。

 次の日、放課後に14階の図書館に行った。

パソコンで『空』とか『星』とか『地面』とか引いてみたけど、それに関する本は無かった。

 部屋に帰ってママにそう言ったら嫌な顔をされた。

そういう事に興味を持つ事が悪い事みたいだったので、それ以後誰にもその話はしなかったけど、ずっと心の中には残っていた。


 小学校を卒業して、12階の中学に進学した。

入学式の後、教室の自分の席に座ったら隣は高木外務大臣の息子さんだった。

「私、南原望と言います。のんちゃんと呼んで下さい。

高木君のお父さんは外務大臣でしょ?」

「そうだよ。」

偉い人は会議で他のドームに行って会議するんでしょ?」

「うん、行った事有るって父さん。」

「どんな感じだったって?」

「こことあんまり変わんないらしいよ。

それでも一応お土産屋さんは有って中米ドームに行った時、メキシカンハットを買って来てもらったよ。

日本からは上等なお箸や千代紙を持って行ったらしいよ。」

「と言うことはドームによって文化が違うって事?」「そうなるね。」

「中米ドームではみんなその帽子を被っているの?」

「そんな事ないよ。

あくまでもお土産用みたい。」

「うーん、何で中米でその帽子がお土産なのかなあ。」「さあ。」

「…。他のドームに行ってみたいな。」

「なら通訳になったら。

大臣について、他のドームに行けるよ。」

「通訳って何?」

「ドームによって使われている言葉が違うんだ。

例えば北米ドームでは『英語』っていう言語が使われているよ。

英語を習得して偉い人が他のドームで仕事をする時に言葉を訳す仕事の事を『通訳』と言うんだよ。」

「へえ、高木君ってなんでも知っているね。

それと、何でドームによってお土産が違うのかを知りたいからそれぞれのドームの昔の事を調べてみるね。」

高木君は顔を顰めて言った。

「そんな事に興味持たない方がいいと思うよ。」「何で。」

「そんな事に興味持つ人いないし。」

「えっ、何でいないんだろう。」

「そんな事に興味持っても意味ないし。」

「まあそうだけど。

何でみんな好奇心が無いのかなあ。

高木君も。

例えばこの前亡くなった一郎ちゃんのひいお婆さんのご両親はどんな人だったとか興味ない?」

「無いよ。ひいお婆さんには可愛いがってもらったけど会った事無い人に興味無いな。」

「うーん。」


 放課後17階に有る図書館に行った。

入口に有る検索機で「昔の事」と入力してボタンを押したら「◯◯の歴史」という題名が大量に出てきた。歴史って何だろう。

昔の事を歴史って言うのかな。

その中で「ドームの歴史」という題名の本が有った。

何だ、私がおかしいんじゃなくてやっぱりそういう事に興味を持つ人もいるのね。

それをクリックしたら、R-Dと出てきてそこの地図が出てきたのでそこに行ってみた。

しかし、R-Dのコーナーは無かった。

職員に聞いてみた。

「すみません、さっき入口で歴史の本の場所を調べたのですが、無いんですけど。」

「れきしって何ですか?」

「昔の事をそう言うみたいです。」

「そうですか。

こちらのパソコンで検索してみます。」

………。

「そのれきしという物に関する本は無いです。」

「そんな筈は無いです。さっき検索機に出てきました。」「そう言われても。」

「なら『昔』たいう言葉で検索して下さい。」

………。「それもないです。」

「えっ、昔の事に関する本って無いんですか?」「はい。」

私は諦めて自分の家に帰ったが、納得出来なかった。

確かに関する入口の検索機には『歴史』の本の題名が幾つか出てきていた。

全部とは言わないが、まるで私が興味の有る事をこの世界が教えたがらないように感じる。


 中学を卒業した後、私は11階に有る高校の英語科に進んだ。

高木君は情報処理科に進んだ。

 入学式で告白されて、私達は正式に付き合う事になった。


 三年の時、高木君はとうとう自分でゲームを作った。

ゲーム会社に見せる前に一緒にやってみてと言われて放課後高木君の部屋に行った。

 高木君がゲームを作動して、ゲームの中の登場人物に私と高木君を設定してくれた。

高木君と私はゲームの中でこのドームの中を移動して、買物をしたり、仕事をしてお金を増やしたりした。

「面白いね。」「ありがとう。」

ゲームを続けていたら、高木君が面白い冗談を言った。私達はゲラゲラ笑った。

すると、中のキャラクターの一つが一緒に笑った。「あっ。」「何?」

「今ゲームの中のキャラクターが一緒に笑った。」「まさか。見間違いじゃないの?」

「ううん。確かに笑った。」

「そんなわけないじゃん。」

「やっぱり何かおかしいわ。」「何が?」

「この世の中。」「ええ!」

「みんな私に嘘をついているわ。」

「なんのために?」

「それはわからないけど、高木君も。」







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