月船
夕方、自分の部屋で勉強していると、隣の船にいるサブちゃんが手を振ってくれたので僕も振り返した。
サブちゃんの船は僕んちとは逆に回っているのでよく夕方に会える。
12世紀に入った頃、地上では人が増えすぎたので海の上に球形の家(通称:月船、反重力装置がついている)を浮かべて住む人を募って暮らす事になった。
僕は生まれた頃から月船に住んでいるので、空中で暮らす事に全然抵抗はない。
だが最初の頃はやはり、地上が恋しくて戻った人もいたそうだ。
地上のマンションと違って月船には無料で住める。
地上に降りた時に、水と電力が補給されるが、船の表面がソーラーシステムになっていて、雨を浄水するシステムが上部に有るので、使った分をある程度補充出来る。
太陽の光を全部屋に当てる為、月船はゆっくりと回り、夜止まる。
サブちゃんちも僕んちも、少し反対側に戻って止まった。
母さんがサブちゃんのお母さんの顔を見ながら電話で喋りたいから、両方のキッチンが一番近づく所で止めたのだろう。
夜になり、母さんが中央に有るリビングから「圭太〜、ご飯出来たわよ〜。」
と呼んでくれた。
僕の部屋と父さんの仕事部屋の間は仕切りが有って一応部屋のようになっているが、リビングとの仕切りは無い。
球形なので僕達の部屋とキッチンはリビングより低い位置に有る。
その為、それぞれの部屋から小さい階段がついている。
リビングの下は両親の寝室になっている。
僕は自分の部屋のベッドで寝る。
ご飯を食べながら母さんが言った。
「高田さんの奥さんが言ってたけど、今日7時半から考古学の特番が有るって。
ご夫妻で出られるみたいよ。」
いつもご飯を食べ終わって珈琲を飲みながらみんなでテレビを見る。
特番のテーマは考古学だった。
サブちゃんの父さんはテレビ局に勤めていて、母さんは考古学者なので、二人で協力してこの番組を作ったらしい。
番組のテーマは僕達が何処から来たかだった。
番組の最初に男性の声でナレーションが流れた。
「我々は何処から来たのだろう。」
サブちゃんの母さんが出て来て、古い本を見せながら言った。
「この本には、私達の先祖は他の星からやってきたと書かれています。
この本を単なるSF小説だとおっしゃる方々もいらっしゃいますが、私は本当の事だと思っています。
この本の冒頭で、筆者が子供の頃曽祖父に聞いた話から人類の祖先に興味を持つようになり、他のお年寄りからも話を聞いてこの本を纏めたと書いてあります。
別々に話を聞いたのに、話に矛盾が少なく、似た話が多かったそうです。」
この、僕達が他の星から来たという説は、他星説と呼ばれている。
もし逆に、この星で人類が発生したんだとしても、どうやって発生したのか説明できる人はまだいない。 番組は他星説で進められた。
後ろの大きなスクリーンに砂漠が映された。
サブちゃんのお母さんが言った。
「これはクチョ砂漠です。ここに宇宙船が辿り着いて、そこから人類が歩いて今の都市部に来たと言われています。それと、私達が子供の時に親達が話してくれたおとぎ話に、動物というものが登場しますが、この星には人間以外で生きている物は植物と微生物だけです。我々の祖先が元いた星にそのような物がいたと私は思います。」
僕達は、うんうんと頷いた。
僕達が住んでいるのは月曜地域で、その名の通り月曜だけ家ごと地上に降りる。
海岸に月船用の巨大な駐船場が有り、そこに沢山の円形の穴が有る。
朝その一つに降りたあと、車を出し、僕は学校で降ろしてもらって、父さんは会社に、母さんは買い物に行く。
その間に汚水は汚水処理場に流れて行き、汚水室は綺麗に洗浄され、消毒される。全て自動で行われる。
母さんはスーパーの駐車場に車を止めて買い物をした後、車の中のクーラーボックスに買った物を入れて、習い事に行く。
僕は午前中は授業を受ける。
席は自由なので、サブちゃんと隣同士で座る。
サブちゃんと話していたら皆が集まってきた。
サブちゃんちの隣の船に住んでいる英之君が言った。
「昨日の番組観たよ。」
「ありがとう。」
僕が言った。
「僕も他星説を信じる。」
「僕も。」「僕も。」
皆多星説だった。僕が言った。
「ねえ、今年の夏休みの自由研究そのテーマにしない?」
「おっ、それはいいアイデアだね。」
「うん、サブちゃんのお母さんに色々聞けるし。」
「うん、でもそれだけじゃ研究とは言えないから自分達でも色々調べよう。」「そうだね。」
しばらくその話で盛り上がった。
いつもだったら放課後は屋上でサッカーをするけど、今日はみんなで図書館に行く事にした。
人類の発祥について書かれている本をみんなで一冊ずつ借りた。
「来週迄に読み終わって気になる所を書き出して纏めようね。」
「うん。」
次の月曜日の放課後、又みんなで図書館に集まった。
そして、みんなの原稿をみんなで全て読んだ。サブちゃんが言った。
「これを更に1つに纏めようと思うんだけど、僕にやらせてもらっていいかな。」「勿論。」
僕が言った。
「それと、今回勉強してみて気になった事を今から発表しようか。」
「そうだね。」英ちゃんが言った。
「やっぱりサブちゃんのお母さんが仰ってたクチョ砂漠が気になる。」「僕も。」「僕も。」
「作文だけでも自由研究にはなるけど、出来れば夏休みにクチョ砂漠にいき探検したい。」「いいね。」
「でも、あそこに一度入ったら出られなくなるらしいよ。」
「僕いい事思いついたんだ。
ヘンゼルとグレーテルって知ってる?」「うん。」
「あれはパンを置いていったから小鳥に食べられてしまったけど、手間がかかるけど、小さな杭をたてながら行ったら迷わないと思うんだ。」「なるほど、いい考えだね。」
「もっともこの星には鳥いないけどね。」「アハハ。」
「でも流石にパンじゃ小さ過ぎるから杭はいい思いつきだと思う。」「うん。」
僕達は地上に降りるたびに木の枝や廃棄物を拾って杭を作った。
大人達に言うと危険だからと反対されると思い、夏休みの工作の準備だと言って、それらを校庭におかせてもらった。
夏休みが来て、僕達は三人で旅行する許可を親達に貰った。
自分達の荷物はなるべく少なくして校庭に集まり、杭を抱えて駅に行き、電車に乗った。
クチョ砂漠は観光地だが、砂漠の中に入る人はあまりおらず、近くの山の頂上から砂漠を見るのが普通だ。
だが、中に入る為の400m位の道が作られている。
僕達はその道に入って歩き出した。
最後道は砂に埋もれて無くなっていた。
そこから僕達は、10m毎に杭を立てていった。
夜までやって、予約してあるホテルに泊まった。
夜は夏休みの宿題をみんなでやった。
次の日も出掛けた。
最後まで進んだ所にはすぐ着いた。又杭を立てて行った。
繰り返す内、最後の方まで行くのに時間がかかるようになってきた。
サブちゃんがスキー板を借りに行ってくれた。
サブちゃんって本当頼りになる。
お陰で持って来た分の杭はすぐ打ち終わってしまったので、ホテルの人に事情を話して木を新たにもらった。
その時に、やっぱり勝手に砂漠をいじるのは良くないという事で、クチョ市に正式に許可を貰う手続きをホテルの人がしてくれた。
夏休みいっぱい杭を打ち続けた後、僕達は自分の街へ帰った。
二学期が始まった。
と言っても始業式もオンラインだったんだけど。
夜、家でみんなでニュースを見ているとクチョ砂漠の事が流れた。
「ご覧の様に誰かが謎の道を作っています。目的はわかりません。」
それを見た両親が大笑いした。
「あんた達がやったんでしょう。杭いっぱい集めていたもんね。何も悪い事ではないんだから隠さなくてもいいのに。」
「反対されたら嫌だと思って。」
「道作ってどうするの?」
「僕達の祖先が乗ってた宇宙船をみつけようと思って。」
「それは壮大な計画ね。」
父さんが言った。
「僕もそういうロマン好きだな。」
月曜日、学校でサブちゃんに言った。「ニュースでバレたね。」
「うん、全然怒られなかった。笑われた。」
「僕も。」
その日の夜に又ニュースで砂漠の映像が流れた。
「さて、砂漠の謎の道の件ですが、市役所に問い合わせた所、砂漠に道を作る許可をホテル関係者が取りに来たそうです。泊まっている小学生達の夏休みの自由研究だったそうです。土日にここに来て続きを作る人々がいます。大人も子どももいます。新しいレジャーになりそうです。」僕は嬉しかった。
次の年の夏休み、僕達はクチョ砂漠に行った。
道は、かなりの距離になっていたので、入口にいた大人の車に乗せてもらって先の方まで行って一緒に続きを作った。
僕達は高校生になり、バイクの免許を取って、クチョ市でバイクを借りて続きを作った。
僕は大学の理工学部の物理学科に進む事にした。
その頃から月船のように止まっているものではなくて、飛び続けるロケットという物を作ろうという研究が始まった。
ヒデちゃんは同じ理工学部のそのロケット工学科、サブちゃんは文学部の考古学科に進むことになった。
僕達は大学に行く前の時間を利用して、車の免許を取った。
そして、三人で車を買って夏休みはクチョ砂漠に行った。
冬休みや春休みはアルバイトをして、車の維持費や旅行の代金に充てた。
皆大学院に進んで、僕は物理学科の宇宙飛行士コースに進んだ。
今でも月船に住んでいるので、月曜日に学校に行って、宇宙飛行のシミュレーションをした。
家では物理学やロケットの仕組みなどを勉強した。
外で運動する機会が少なく、宇宙飛行士になるには体力が足りないと言われたので、サッカーを再開して月曜日は校庭で練習をした。
院二年の夏休み、クチョ砂漠でみんなで道の続きを作っていると足元に違和感を覚えた。
「ねえ。」
「うん、何か土が硬いね。」
「もしかして。」「そうかも。」
僕達は夢中で砂を掘り返した。
後から来た人達にも手伝ってもらった。だが何も出てこない。
諦めて先に進む人達もいたが、僕達は掘り続けた。
取り除いた砂を利用して段を作り、下に降りやすい工夫をした。
夏休みも終わりに近づいてきた頃、スコップが何かに当たった。
「もしかして。」「そうかも。」
僕達は夢中で掘り続けた。
巨大な鉄製の物が段々見えてきた。
やはり宇宙船だと思う。
そりゃ宇宙船を見たことはなかったけど、月船とは形が違ったもの。
先に進んだ人達が帰るために戻ってきた。
大きな穴と船を見て皆驚いていた。
その段階で皆で写真を撮った後、僕達はホテルに戻った。
そして、大学やサブちゃんのお母さんに電話した。みな驚いていた。
そして、みな明日来てくれることになった。
大学の先生や学生達が来てくれたて、掘るのを手伝ってくれた。
二学期になり僕達は戻ったが、古代史科やロケット工学科の先生や学生達は穴を掘り続けた。
この作業は授業としてみなされ、学生達には単位もあげるという約束もされた。
ほぼ船が姿を現し始めた時にはもう冬になっていた。
やっぱり宇宙船だったようだ。
僕達の歴史において、こんな物は登場しなかったので、やはり僕達の祖先が乗ってきた船だと断定していいだろう。
まだ誰も中には入らなかった。
僕達三人が呼ばれた。
ヒデちゃんのお母さんが言った。
「君達が最初に始めた事だから君達が最初に入って。」「うん。」
僕達はせーの、で中に入った。
僕とヒデちゃんはまずコックピットに、サブちゃんは居住区に行った。
コックピットの中は雑然と物が置かれていた。
触る前に写真をとりまくった。
サブちゃんも居住区に行って写真を撮った後、沢山の日記をコックピットに持ってきた。
「僕には読めない。先生方に見てもらおう。」
「うん。」
僕達は一旦外に出た。
サブちゃんがお母さん達に日記を見せると先生方が興奮して中を読みだした。
全員で中に入って写真を撮ったり、機械の仕組みを調べたりした。
機械や日記は持ち帰られ、理系と文系の先生達は協力して人類が何処から来たのか研究された。
するとやはり、我々は別の星から来たという事がわかった。
その星は地球と呼ばれ、海の水位が上がって段々多くの人が住めない状況になり、人を募って宇宙船で他に住める星を探した、ということがわかった。
僕は漠然と宇宙に憧れていたが、その話を聞いて是非その地球という星に行ってみたくなった。
宇宙船が発見されてからは、ロケット工学は飛躍的に進み、本格的に宇宙船を作る研究が始まった。
理学部に宇宙飛行士コースが新設された。
三年になる時にコースが分かれる。
僕は迷わず宇宙飛行士コースに進んだ。
今迄通り勉強が厳しい上に、身体的な訓練も加わったので、毎日大変だった。
サッカーをしていて本当に良かったと思った。
大学院を卒業した後、僕は宇宙船に乗ることとなった。
僕は運転が担当でヒデちゃんは機械の整備、サブちゃんは考古学者として乗ることとなった。
ある程度若くないと体力が持たないので三人が選ばれた。
勿論二人も厳しい訓練を受けた。