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レオンとの再会は意外な形でした



その知らせは、国境での侵略攻撃から1週間後に届いた。相手国のサバナ国内で、今回の侵略への抗議のクーデターが起こり指揮を取っていた王が失脚し、そのクーデターの首謀者が新たな王として就任したと。

それに伴い、再び友好関係を築きたいとサバナの新しい王がビード国を訪問することになり、今宵は晩餐会が開かれる事となった。



今夜の晩餐会は、クリスタル達魔導騎士団はゲストではなく警護として参加している。クリスタルとジークの持ち場は中庭だった。

「もうすぐ交代時間だな。真っ直ぐ帰るのか?」

中庭の巡回を終えたジークがクリスタルの横に立った。クリスタルは完全な仕事モードで直立したまま「はい」と答えた。

「予定が無ければ一緒に食事しないか?」

「……は、あ、えーと…」

不意打ちでプライベートな誘いを受けてクリスタルの仕事モードが崩されてしまった。

「あまりお腹が空いてなくて…」

「オレと一緒が嫌か?」

「いえ!そんな事ありません!」

「仕事以外で会わなければお前を口説く事が出来ないんだが…」

「それです。今まで仕事ばかりしていた私には、その…口説くとか、どうして良いのか正直分かりません」

「じゃあ、試しに1度口説かれてくれ」

クリスタルは平静を保とうと頑張っていたけれど、ジークの押しの強さにとうとう赤面してしまった。



「ん゙ん゙!クリスタル!」



不意に後ろから名前を呼ばれて心臓が飛び上がった。今までなら、面倒な人が来たと聞こえないふりを決め込むところだが、ジークのからの猛アピールから開放されると心が少し軽くなる。

「元気にしてたかい?あれから僕も忙しくて会いに行く時間がとれなくて。すまないね」

今日のアレクは多国の王が来賓ということで豪華な衣装にアクセサリーで着飾っていた。砕けた笑顔を魅せているが圧倒的高貴なオーラは隠すことが出来ない。まるで物語の王子様が飛び出してきたかのようなアレクのたたずまいに知らぬ間に見惚れて硬まってしまった。

「クリスタル??どうした??」

「はっ!い、いえ、お気になさらず」

「体の具合はどうだい?どこか痛んだりしてないかい?表面上はケガがないように見えても…」

アレクが長々と何か話しているがクリスタルの頭には全く入ってこなかった。あまりのオーラに吸い寄せられてしまう。マジマジとアレクの王子様スタイルを堪能していると、バサバサと青い鳥ブルーが何処からともなく飛んできてアレクの頭に乗っかった。

「ん?!ああ、ブルーか…それでね、クリスタル」

ブルーが頭に乗ると、王子様モードが解けていつものアレクに戻った。頭に鳥を乗せてそのまま普通に話し出す彼に、クリスタルにかけられた王子様の魔法はすっかり解けてしまった。

「アレク様。そろそろ中にお戻りください。皆さん、お待ちですよ。それに私も本日の任務は終了しましたのでお暇いたします」

「殿下、どうかお戻り下さい」

ジークもクリスタルと2人きりになる貴重な機会を逃すまいと援護する。

「じゃあ、中に入って飲み物でも飲んでから帰ったらどうだい?」

なかなか引き下がらないアレクの背後を、数人のお供を連れた男が通りかかった。

「少し飲みすぎちゃったよー、この国のお酒はおいしいからさ」

声に反応して何気なく顔をむけると、すっかり上機嫌になっている男と目があった。

「あれ?君…」

男は、少しクセのある銀髪で黒目がちの大きな目を更に大きく見開いてクリスタルを凝視する。長身でそれなりに引き締まった躰だが整った顔の幼さが彼を華奢に感じさせる。サバナ国の民族衣装に身を包んでいる。

「確か…クリスタルだよね!」

パッと笑顔になって男は近づいてきた。

「は…い…?」

「あー、この前は鎧に兜も被っていたからなぁ」

そう言われて記憶をたどる。兜を取って雰囲気がすっかり変わっているが見覚えがある。国境のあの小屋で見た顔だ。

「ジラフさん!いらしてたんですね」

ジークも思い出したようでクリスタルの肩を抱いて警戒するように引き寄せた。

「あのときはウチのが助けて頂いたにも関わらず大変失礼をしました。国に帰ってからも君の話を…って殿下!これは失礼しました」

ジラフは思いもかけぬ再会への興奮と、まさかこんな場所にアレクが居るとは思ってなかったのとで、彼の存在に気付いてかしこまった。

「いや、楽にしてください。貴方はサバナ新王の側近の方でしたよね。彼女とお知り合いなのですか?」

アレクはクリスタルの肩を抱くジークの手元をチラチラ見ながらジラフに対応する。

「はい。先日の我が国の国境侵略の際に大変お世話になったんです」

「あなたが?それはどう言った…」

アレクがキョトンとしてジラフに問いかけると、彼の背後から低くてよく通る声が響き渡った。

「私の命を救ってくれたんですよ」

「!」

現れたのはジラフとは比べ物にならないぐらい豪華な衣装に身を包んだ黄金の髪と瞳を持つ男だった。

「レオン?!」

「また会えたな、クリスタル」

にっこり人懐っこい笑顔を浮かべると彼はクリスタルの右手を取って口づけた。

「む!」

アレクとジークから殺気が生まれたのを感じる。

「こんなに早く会えたなんて、運命だな」

「そんなモノ無いわ」

「相変わらずだな」

そう言うとレオンは首を少し傾けてクリスタルの首筋を確認してから、自分の首筋をトントンと指さした。

「すっかり消えちまったな。今夜、また付け直さないとな」

「……!!!」

アレクとジークが息を飲むのを感じた。

もう我慢出来ないとアレクが2人の会話に割って入る。

「レオン陛下、クリスタルとお知り合いなのですか?それに、今夜つけ直すとは……」

「彼女には国境で遭難していた私を助けてもらったんです。凍りついていた私を彼女が……」

「レオン!!!」

とんでもない事実を話そうとするレオンをクリスタルは慌ててさえぎった。が、1つ疑問が生じる。

「……陛下って?」

クリスタルが眉をひそめるとジラフが面白そうに声をはずませた。

「この方は、我がサバナ国の新国王レオン陛下だよ」

レオンもどうだと言わんばかりに、おどけて肩をすくめてみせた。

「なんだと…」

ジークは絶句する。クリスタルも頭が混乱している。そんな彼女にジラフが理由を話し始めた。

「サバナの前国王は大変な浪費家と好色家でね。レオン陛下のハーレムの1人を気に入り我が物にしようと、なんと今回の侵略攻撃を起こして、レオン陛下を罠にハメて亡きものにしようとしたんだ。それをクリスタル!君が救ってくれた。そして国に帰って、今までの不満が爆発した側近達の協力のもとクーデターを起こして、新国王レオン陛下の誕生ってわけ」

「そんな理由で国民の命を危険に晒したなんて…許せない」

驚愕の事実にクリスタルは怒りが湧いてくる。

「ああ、前国王は投獄のうえ裁判中だが、当然、重刑は科せられる。この国をくだらない事に巻き込んでしまって申し訳なく思っている。罪滅ぼしにはならないが、これからは親交を深めていきたい」

「ぜひとも宜しくお願いします」

アレクはレオンに握手を求めた。レオンが直ぐ様その手を握りしめた。見目麗しい2人の男が和やかに語らう姿は目の保養になる。クリスタルはすっかり傍観者になっていた。

「ところで、レオン陛下…ハーレムと言うのは…」

「ああ、サバナは一夫多妻制なんですよ。私は国に50人のハーレムを持っています」

「ごごごごじゅう?!」

アレクが素っ頓狂な声をだす。

「それは大変でしょう。それだけ女性が集まれば争いが絶えないのでは?うちの国王は正妃と側室が3人ですが小さな火種が常にくすぶっている状態です」

「ええ、王になった以上、いい加減正妃を決めなければなりません」

「え!正妃は居ないのですか?!」

「みんな、いいオンナなんで選べなかったんです。でも遂に見つけた」

レオンは野性的な視線を真っ直ぐクリスタルに向ける。嫌な予感がする。ジークが再びクリスタルの肩を引き寄せた。

「クリスタル。今夜のベッドで、私を正妃にしてくれとお前に言わせる自信がオレにはある」

「なーーーー?!」

アレクが大袈裟に仰け反って反応する。それまで飾りの一部のようにしずかに彼の肩に乗っていたブルーもバタバタと羽ばたきだしたので騒がしさが倍増である。ジラフはブルーが飾りだと思っていたらしくビクッと体を震わせて驚いた。

「うわっ!何?!その鳥、本物だったの…」

クリスタルはレオンのストレートな言葉に驚いてしまったがアレクの慌てぶりを見て何故だか冷静になれた。

「レオン陛下!ちょちょちょちょっと落ち着いてください!!」

「ん?どうされました?アレク殿下こそ落ち着いてください?ブルーがビックリしてますよ」

「いや、これが落ち着いていられますか!クリスタルは僕の婚約者なんです!」

「ん?」

「ぷっ」

少し目を見開いて驚くレオンの背後でジラフが面白そうにこっそり吹き出た。

「本当なのか?」

レオンがクリスタルに確認してきたので、どう答えようか思案する。

ここで「はい」と答えればこの場は丸く治まる。しかし、その後ややこしくならないだろうか…仮にもアレクはこの国の王子なのだ。

「……あの」

クリスタルが口を開くとアレクがキラキラの美しい瞳を大きく見開いて必死に「ハイって言って!」と無言で訴えかけてくる。

「おそれ多い事なのですが、妃候補に入れて頂いております」

肩に置かれていたジークの手に力が入ったのが分かった。

(正式ではないけど、アレク様が普段から言っているのだから嘘ではないもの……)

クリスタルは心のなかで言い訳をして自分を納得させた。

アレクはクリスタルの返事に目を見開いて驚いていたが、頬を赤く染めて満面のドヤ顔でジークの腕からクリスタルを奪うと彼女の両肩に自分の手を添えて前に立たせた。

「全く…この子は謙虚で困ります。僕の愛はクリスタルだけの物だから堂々と婚約者だと言って欲しいのですが」

やれやれ、と言うようにレオンにも満面のドヤ顔を向けている。

「……しかし、まだ夫婦ではないのですね?」

押し黙っていたレオンが口を開いた。その後ろでジラフが長いため息をついて呆れ顔をするのが見える。

「クリスタルは魔導騎士としての才能が素晴らしいのです。彼女が望むなら、婚姻後も無理のない形で魔導騎士を続けられる道を思案しているところです」

アレクの本心なのか、この場を取り繕うだけの言葉なのか分からないけれど、具体的な内容にクリスタルは驚いた。アレクの言葉はクリスタルの理想の婚姻スタイルだった。

「さあ、君もジーク隊長も今日は沢山頑張って僕たちの身の安全を護ってくれたから、そろそろ帰って体を休めないと。外まで送ろう。レオン陛下、少し失礼させて頂きますね」

「………」

レオンは無言だったが、顔に落胆の色が無い。面白そうに不敵な笑みを浮かべてクリスタルを見ている。油断すると、その視線に捕えられてしまいそうな気がして挨拶も出来ずに思わず目を反らした。

アレクはクリスタルの肩を抱いたまま歩き出し、ジークもそれに続いた。



「クリスタル、今日は家に帰らず、王宮で過ごしてくれないかい?」

アレクが深刻な表情で思いもよらない提案を持ちかけてきた。

「えっ…何故ですか?」

「レオン陛下が気になる。僕たちが、まだ夫婦じゃないなら自分にもチャンスがあると考えてるんじゃないだろうか。もしレオン陛下が刺客を使って家に帰る君の後をつけて拐われたら…」

「考え過ぎです」

「考え過ぎなら、それで良いんだ。でも、このまま帰して何かあったら…」

「レオン陛下は王宮に泊まられるのでしょう?広いとは言え同じ建物にいる方が危険じゃありません?」

「うむ!それについては僕に良い考えがあるんだ。レオン陛下が絶対に足を踏み入れる事が出来ない安全な部屋がある」

「牢屋か何かですか?」

「そんな場所に君を寝かせる訳ないだろう。とにかく!今、レオン陛下との間で揉め事を起こすのは得策ではないんだ。分かってくれないか?」

確かに最後に見たレオンの顔が頭にこびりついて離れない。あの自信に満ちた笑みと獲物を捕らえたかのような眼差し……強引な彼の事だ。何かしら仕掛けてくるかもしれない。

「……分かりました。念のため今夜は王宮に泊まらせて頂きます」

クリスタルが観念するとアレクの表情がパッと明るくなった。

「ありがとう!すぐに部屋を用意させるよ!」

早速、側に控えていた側近を呼び寄せてヒソヒソと小声で指示を出し始めた。

「ジーク隊長、そう言う訳でお食事は、またの機会に…」

「……残念だが仕方ない。お前の身の安全が第一だからな」

ジークの落胆した表情に少し…いや、かなり心が痛む。何か気の利いた言葉は無いものかと固まっていると、ジークはクリスタルの心の内を読み取り柔らかく微笑んだ。

「気にするな。まぁ、そんな所が好きなんだがな」

「え?!ちょっと、ジーク隊長…!」

クリスタルは思わず声を潜め顔を真っ赤にして人差し指を立てて、ジークに静かにするようにお願いする。そんな彼女を見てジークは少し意地悪な笑みを浮かべると、たくましい腕を伸ばして自分の胸の中に引き寄せた。

「……!!ジーク隊長……」

「おやすみ。クリスタル」

「お、おおおおやすみなさい」

ジークは腕の中で緊張で固まっているクリスタルの頭に軽く口づけると彼女を開放した。

「では、私はこれで失礼させて頂きます」

全身火照ってしまったクリスタルの背後に向かってジークは敬礼し立ち去った。

クリスタルが振り返るとアレクがワナワナと震えながらこちらを凝視していた……。

「クリスタル…」

「アレク様!それで、私はどうすれば良いのでしょう?!私、仕事で疲れてしまっていて!」

アレクから、今のジークとのやり取りの事を追求される前にクリスタルは話題を変えて追求から逃れようとした。

「あ、ああ、そうだね。僕はまだ晩餐会から抜け出せないから、このキートに案内してもらうよ」

キートと呼ばれた男性はニコリと感じの良い笑顔をクリスタルに向けてくれた。

「殿下、ありがとうございました。では、私も失礼させて頂きます」

クリスタルは暗にアレクに、この場から早く立ち去ってくれと言わんばかりの空気を作り出した。

「うむ!ゆっくり体を休めるんだよ」

「はい」

クリスタルが王宮に留まる事にスッカリ安心したアレクが晩餐会に再び戻ろうと踵を返した途端、肩に大人しく乗っていたブルーが突然羽ばたいて闇夜に姿を暗ましてしまった。

「本当に夜に飛んで行ってしまうのね」

クリスタルはブルーが飛んで行った方向を眺めながらキートの後に続いて歩き出した。

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