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王子様の嫉妬は甘くて騒がしい

「クリスタル。着いたぞ。起きれるか?」


国境からの道中、クリスタルは、ジークが操縦する飛空艇が動き出すとスグに深い眠りについてしまった。

「んぁ…はい…」

「疲れているところ悪いんだが、帰還の証明書類を王宮に提出してもらう。決まりなんでな。それが終われば家まで送ろう」

「ありがとうございます」

2人肩を並べて王宮の事務室へ向かっていると懐かしい声が響き渡った。


「クリスタル!!!」


振り返るとアレクとサブリナが驚いた顔で立ちすくんでいた。

「殿下、サブリナ様」

クリスタルは頭を下げて挨拶する。ツカツカとアレクはクリスタルの元に向かい、彼女の両手を握りしめた。

「生きていたんだね!!帰ってくると信じていたよ!!」

綺麗なブルーアイが潤んで煌めいている。いつもなら面倒な人に捕まったと気が滅入る所だが、今は日常に帰れたのだと実感が湧く懐かしい光景だ。

「殿下が下さった御加護のおかげです。……本当にありがとうございました」

極寒の雪原の中で小屋を見つけた時の事を思い出してクリスタルの声も涙ぐんでしまう。

「君の同僚のカイル君…君の行方が分からなくなったことに酷くショックを受けていてね。帰還するなり退役してしまったんだよ」

「え!本当ですか?!カイルが…」

「落ち着いたら彼の家を訪ねてあげると良いね。喜ぶはずだよ。復帰も考えてくれるかもね」

「そうします。教えて頂いて感謝します…そういえばブルーが居ないですね」

「そうなんだ。昼間なのに珍しく散歩にでも行っているのかな?せっかくサブリナ嬢も訪ねてきてくれてると言うのに。君が帰るまでに戻って来ると良いんだが」

アレクがクリスタルの手を離さない事に対してなのかサブリナは不快感を露わに彼の横に立っていた。

「殿下」

ジークがクリスタルの肩を引き寄せた。自然とアレクの手が離れる。

「クリスタルは書類提出に向かわなければいけませんので失礼させて頂きます」

「終わったらスグに帰るのかい?」

「はい。心身共に消耗しているようなので」

クリスタルの代わりにジークが答える。アレクの片眉がピクリとうごく。

「ふむ。では、王宮の馬車を出してやろう。それで帰るといい」

「いえ、私が送りますので大丈夫です。お気遣いなく」

更にジークが答える。

「いやいや、遠慮しなくて良い。2人共疲れただろう。事務所長に伝えておくよ。馬車で帰らせるようにね!」

「…では、有り難く使わせて頂きます」

ジークが不服そうに礼を伸べるとアレクは満足そうに頷いて、珍しくアッサリ立ち去って行った。



書類提出はスグに終わった。

不備の有無を確認しながら事務所長が話し始める。

「大変だったね。ご苦労さま」

「いえ…私の確認不足で何のお役にもたてず、お手数ばかりお掛けして申し訳ないです」

「それなんだが、再発防止の為に調査させてもらうよ。君にも話しを聞くことになると思う」

「はい」

「……よし!不備は無し。アレク様から馬車の要請があったからソレでお帰り」

「ありがとうございます。では……」

クリスタルが立ち上がると、後ろのソファで控えていたジークもソレに続いた。

「あ、ジーク隊長」

事務所長が呼び止める。

「王宮の方から確認したい事があるそうで、会議室に顔を出して欲しいそうだ」

「…長くかかるでしょうか?」

「うーん、どうだろう…内容までは伝わってなくてね」

「クリスタル、少し……」

「あの、私は1人で帰れますので、気にしないでください。ジーク隊長、今日は本当にありがとうございました!では失礼します!」

ジークは少し待つように言いたかったのだろうがクリスタルは遮って部屋から颯爽と出ていった。

(ジーク隊長と2人っきりで馬車なんて今は気まずくて落ち着かないよぉ)



足早に馬車乗り場へ向かったクリスタルは、その光景に目を疑った。

王宮の馬車なのだから、それなりに高価な物が用意されるとは思っていたが護衛が4人も待機している。

(うーん…いくら何でもコレは違うでしょ。どなたか王族の方を待っているのね。私の馬車はコレの後に来るのね)

クリスタルが少し離れた場所で待機していると護衛の1人が彼女に気付いた。

「クリスタル殿!お待ちしていました。さあ、乗って下さい」

「えぇ?!コレに乗るんですか?!」

「はい。殿下から、そう伺っています」

「何か申し訳ありません」

(一般人の自分が護衛付きの馬車で帰宅なんて…アレク様の感覚ではコレが普通だものね)

護衛の1人が扉を開けてエスコートしてくれる。乗り込んで椅子に座ると、あまりの座り心地の良さに驚いた。

「出発までしばしお待ちを」

扉が閉められた。皆、準備にとりかかっているのか外はヤケにざわついている。

乗るのは最初で最後であろう豪華な馬車の内装を目に焼き付けておこうとクリスタルがアチコチ観察して待っていると扉がノックされた。

「アレク様がお着きになりました。開けてもよろしいですか?」

「え!?は、はい」

見送りにでも来たのだろうか…駄目とは言えず、とりあえず許可する。

扉が開くと満面の笑みのアレクが立っていた。

「失礼するよ!」

慣れた所作で馬車に乗り込みクリスタルの横に座ってしまった。そして、外に控えていた護衛に合図を送ると馬車が動き出した。

「えぇ!殿下も一緒ですか?!」

「クリスタルぅぅぅ!会いたかった!」

久しぶりのハイテンションでアレクは遠慮なくクリスタルを自分の胸に引き寄せる。

「ちょっと待って下さい!」

クリスタルは両腕を突っぱねてアレクの抱擁を阻止した。

「君が帰って来てない事が分かった時は僕も生きた心地がしなかったよ。何も手につかなくて皆に心配をかけてしまった」

寂しげな笑みを浮かべながらアレクはクリスタルの頬を優しく撫でた。確かに少し痩せて顔色も良くない。

「さっき、君の姿を見つけた時は驚き過ぎて夢なのかと思ったよ。皆の手前、我慢したけど思いっきり抱きしめて愛したかった」

「ご心配おかけしました。それは申し訳なかったと反省しておりますが、愛されるのは遠慮しておきます」

「ははっ!僕のクリスタルが帰ってきた!」

拒絶されたと言うのにアレクは嬉しそうにはしゃいでいる。静かにしていると極上のクールビューティのアレクが子供のようにはしゃぐ姿は実は嫌いではない。こういう所も国民に愛される理由の1つなのだろう。クリスタルの口元も自然とほころんでしまう。

「アレク様……」

笑っていたと思っていたアレクのブルーアイから次々と涙が溢れ落ちている。

「すまない…我慢していたのに、1度溢れたら止まらない」

クリスタルはアレクにハンカチを手渡す。

「……君が拭いてくれ」

「……今回だけですよ」

自分の無事を涙を流して喜んでくれる存在がいる事にクリスタルも少し感動してしまい目が潤む。

「話したくなければ良いんだが、部隊とはぐれた後、何があったんだい?」

クリスタルは墜落後、目を覚ましてから避難所に辿り着くまでの経緯を話した。

「小屋を見つけた時、神に感謝したと同時に殿下の明るい笑顔が心に浮かんで温かい気持ちになれました」

「僕の?」

「はい。殿下は笑顔が1番似合います。なので、もう泣かないでください」

「ク、クリスタルぅぅぅ」

ナカナカ泣き止まないアレクをなだめたつもりが更に泣かせてしまった。そして、どさくさに紛れてクリスタルを胸の中に引き寄せる事に成功していた。仕方なく、クリスタルはアレクの背中をポンポン軽く叩いてなだめた。

しばらくして落ち着きを取り戻したアレクは1度クリスタルを自分の腕から開放した。

「人前でこんなに泣いてしまって恥ずかしいよ。誰にも言わないでね?」

「フフ、分かりました」

「フフフ」

お互い優しく笑い合いクリスタルは和やかなこの時間をとても愛おしく感じていた。この時までは。

「クリスタル…個室で2人っきりで話すなんて初めてだね」

「……ですね」

アレクの周りには誰かしらいつも側にいる。

「愛してるよ!言っちゃった!フフ、皆が見てると言えないからね」

何の脈略もなくキラキラした瞳でアレクはクリスタルを見つめてくる。愛の言葉に何の躊躇もなく、このお菓子好き!とでも言うように軽い。

「ねえ、もう1度抱きしめさせて?」

「駄目です」

「えー!良いではないか」

おどけてみせるアレクに思わず吹き出してしまった。

「アレク様。私を気にかけてくださるのは大変有り難いのですが、貴方は王族です。変な噂がたって貴方の縁談に支障が出たら国の損失です」

「損失?それは大丈夫!僕は第8王子だよ?既に兄姉達には子供が沢山いるし、長兄の子供に至っては僕とより年上だ。王位継承の心配なら無用だよ。僕に王座が回ってくるなら既に一族が滅んでしまった時だよ。だから陛下も兄弟も僕は権力やしがらみに囚われず愛し合える人と結婚して欲しいと言っている」

「そうは言っても貴方にふさわしい貴族令嬢は沢山おりますし、地位など関係なく貴方に好意を持っている方もおります」

「クリスタル!」

アレクは真剣な声で名を呼ぶと彼女の手を取った。

「僕に好意を持ってくれる人がいるのは嬉しい事だ。でも僕はそれに応える事は出来ない。それなのに結婚するのは相手に失礼だろう?僕は今もこれからも君しか愛せないんだから」

クリスタルは戸惑った。今までも好きだの愛だの囁かれていたが、こんなに真剣に突き詰めて話すのは初めてだったから。

「私は……」

「いいんだ!僕が勝手に好きなだけだから!」

「アレク様?」

「聞きたくない!聞きたくない!アレク様と結婚します以外の言葉はきかない!」

オーバーリアクションで自分の両耳を塞いでアレクは駄々をこね始めた。

「はいはい、もう何も言いませんから大人しくして下さい」

「うむ、少々取り乱してしまった。せっかくの時間、落ち着いて話そう…それにしても可愛い。もっと見せておくれ」

アレクは静かになってクリスタルの顔の周りにかかる髪を幼い子供にするように愛おしげに指で後ろにとかし始めた。長い髪を耳にかけた時、彼の手がふと止まった。

「ク、ク、クリスタル…」

声を震わせながらクリスタルの首元を凝視している。

「!」

アレクが自分の首筋につけられた跡を見ている事に気づいて、クリスタルはサッと手で隠した。この跡の意味は国境からの道中でジークに教えてもらっていた。

「そ、それは誰につけられたんだい?」

カタカタと震えながらアレクが尋ねてくる。

「まさか…ジークか!!」

「……違います!」

「何だい?今の間は?やっぱりジークなのか?!」

つけたのはレオンだが、その後更にジークが……と考えたら変な間が空いてしまった。

「これは…ケガです。恥ずかしいので見ないでください」

「ケガ……?そんなバカな……クリスタル、君は既に誰かのモノなのかい?」

ガッシリとクリスタルの両肩を掴んで正面から真っ直ぐ綺麗な瞳でアレクが見つめてくる。

「それはありません!今は仕事に集中していますから!」

「……真実だね」

クリスタルは嘘をついていないと納得したアレクは再びクリスタルを抱きしめた。

「君が僕のお嫁さんにならないなんて絶えられないよ」

「ん?なりませんよ?」

「こんなに僕の心を掻き乱すなんて悪い子だよ。でも大好きなんだ」

そう言うとアレクはクリスタルに体重を掛けてきたので、クリスタルと共に椅子に複数並べてあったフカフカのクッションにダイブした。

「アレク様?!どうかされました?」

クリスタルはアレクが気を失ったのかと本気で考えて焦って声をかけた。すると勢い良くアレクは身を起こしクリスタルを見下ろす。

「アレク様……?」

潤んだ瞳に真っ直ぐ見下されてクリスタルの心臓が早鐘を打ち始める。あまりの彼の美しさに身動きをとれずにいると、アレクはクリスタルの頬を優しく撫で、彼女の顎をそっと摘まんだ。そして唇を寄せてきた。アレクの吐息がクリスタルの唇にかかる距離まで近づく。

「…………うわぁぁぁぁ!危なーーーい!!」

アレクが後ろに仰け反りながら絶叫しだした。馬車が急停止して扉がノックされた。

「アレク様!どうかされました!開けても宜しいですか!」

護衛の緊迫した声が響き渡る。

「あぁ!何でもないんだ!椅子から落ちそうになってね。驚かせてしまって済まない」

「本当に大丈夫ですか?」

「うむ!先を急いでくれ。クリスタルも疲れてるだろうから」

再び馬車は動き出した。突然の出来事にクリスタルは驚き過ぎて言葉も出ない。

頭を抱えて何やらブツブツ囁いていたアレクが、ようやく顔をあげた。

「クリスタル!本当にすまない!危うく最低な事をしてしまうところだった!」

「え?」

「嫉妬に任せて自分の欲望を満たそうなんて…!僕はなんて馬鹿なんだ!人間失格だ!」

「アレク様、そこまで言わなくても…」

「いいや!君の気持ちを無視して体だけでもと野蛮な事を考えてしまった!恐ろしい!自分が恐ろしいよ!」

「落ち着いて下さい。結局アレク様は留まったんですから。家まであと少しなので楽しくお別れしましょう」

(ちゃんと止めてくれたのに…レオンとジーク隊長に口づけされたなんて知られたら2人を牢獄にでも入れてしまいそうね)

「ありがとう。君は優しいね。もう、こっちに座って今は君に触れないようにするよ。また我慢出来なくなる」

アレクはクリスタルの横から正面に移動した。

「はい、そうしてください」

「そのクビのマークもケガと信じよう」

「……」

別にアレクに後ろめたさを感じる必要は無いのだが、そこは彼の目を見て答える事をはできなかった。

「とにかく!もう会えないと思っていた君と話すことが出来て良かった。今日は良く眠れそうだ。お腹も空いたよ」

「フフ、私も殿下にお会いできて良かったです。帰ったらご馳走を沢山食べて下さい」

ようやく落ち着いた所で馬車が停止した。

「着きましたね。こんな豪華な馬車で送って頂いてありがとうございました。では、失礼します」

クリスタルが立ち上がるとアレクは座ったまま腕を伸ばしてクリスタルを引き寄せた。クリスタルの腰をギュッと抱きしめる。

「アレク様…」

「楽しい時間はあっと言う間だね。今日はユックリ休むんだよ。また会いに行くからね」

いつも自分が見上げているアレクが、逆に自分を下から見上げている。何故か心臓がギュッと縮み上がった。どうすれば良いのかあたふたしていると扉がノックされた。

「到着しました。開けても宜しいですか」

アレクは「残念」とおどけてから両腕を広げてクリスタルを開放した。

「うむ、開けておくれ」

扉が開くとクリスタルはいそいそと馬車を降りた。

「ありがとうございました。殿下、道中お気をつけて!」

「こちらこそ、楽しかったよ。では」

護衛が扉を閉めると馬車は王宮に向けて走り出した。クリスタルは馬車が見えなくなるまで見送った。

自分を見下ろすアレクと見上げるアレク、2つの顔が頭にこびり着いて離れない。

(腹が立つほど顔だけはキレイなんだから!もう!)

アレクには、またも散々振り回された形になったが、やはり何故か憎めない王子様。

馬車の中での出来事を思い出して、バカバカしくて思わず笑ってしまうクリスタルだった。

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