遭難者は俺様ナルシストでした
「どうぞ」
クリスタルは温かいスープとパンをテーブルに置いた。
「いつまで此処に居なければ駄目なのか、まだ検討がついてないので、とりあえずコレだけで」
「君の食糧だろ?すまない」
「……クリスタルよ。アナタは?」
「レオンだ。よろしく、クリスタル」
レオンは人懐っこい笑顔でクリスタルに握手を求めた。
「………」
クリスタルはレオンの差し出された手に気づかないフリをしてスープをひと口飲んだ。
「そんなに警戒するなよ。さっきは悪かったよ。まぁ、怖がられるよりマシか」
「…流石に、さっきみたいな事は初めてだけど、イチイチ怖がっていたら、男だらけの魔導騎士団ではやっていけないわ」
「…へぇ、魔導騎士団」
「あなたは?何故ココにいるの?」
「いやぁ、気づいてるんだろ?」
レオンは長くたくましい両腕を上げて伸びをした。
侵略攻撃を受けている国境に、こんなに目立つ容姿をしていて自国の隊では見覚えのない人物がいるなんて。
「サバナの人なの?」
「正解!で、どうする?」
「どうする??」
「オレ、敵だぜ」
「…今ここでは関係ないわ。あなたが戦争を仕掛けた訳でもないし、あなたにも国に待っている人達がいるでしょ?」
「あー確かに大勢いるねぇ」
レオンは誰を思い出しているのか分からないがニヤついている。
「私が救った命、大事にしてよ」
「感謝してるよ…さて」
レオンは立ち上がると部屋の隅に置かれていた袋から筒状の物を取り出した。
「バカになってなけりゃ良いが」
そう言って扉を空けて小屋の外に出た。
「ちょっと、何処にいくの?!」
「救難信号だよ」
手に持っていた筒の蓋を抜くと先端から炎が吹き出した。そのまま少し離れた場所に投げ捨てると、パンッと弾けて鮮やかな赤い煙が空に向かって舞い上がって行った。
「後は待つのみ。寒いから入ろうぜ」
レオンはクリスタルの手を取って中に促した。
「つっ!…ええ」
レオンの爪が当たったのか手に一瞬チクリと痛みが走った。
(サバナの救助が来るのであれば、こちらは後にしないとね。鉢合わせて揉めてしまったら大変だもの)
「サバナは常夏だからな。この寒さには慣れないから、また暖めてくれないか?」
レオンは深刻に思いふけっているクリスタルを後ろから抱きしめた。
「大人しく毛布でも被ってなさい」
レオンの腕から逃れようとクリスタルは身をよじった。が、またしても彼の腕はビクともしない。
「懲りない人ね。また弾き飛ばされたいの?」
やれやれとクリスタルは魔石ペンダントに手を伸ばした。
「すまない!暫くこのままで…」
「え?」
「本当に、もう駄目かと諦めていたんだ。この小屋で1人きりで寂しく死を迎えるんだと…正直、今も救助が来るのか不安でたまらない」
レオンの腕に更に力が入りクリスタルを束縛する。
「その気持ちは分かるわ。分かったから離して」
「不安に押しつぶされそうなんだ。1人じゃない実感が欲しい。人肌が恋しい。落ち着くまで君の体温を感じさせてくれ」
「………」
どう慰めれば気持ちが落ち着くのかクリスタルが思案していると、レオンはクリスタルの魔石ペンダントをつまみ上げた。
「魔石って、あんなに光るんだな。初めてみた」
「そうなの?これは小さいけど上質な物で常に身に着けていられるから便利なのよ」
「へぇ、それは邪魔な奴だな」
レオンはスルリとクリスタルの首からペンダントを奪うと部屋の隅に投げ捨てた。
「ちょっと!」
ペンダントを取りに行こうともがくクリスタルだったが、急に体に力が入らなくなりレオンにもたれかかる形になってしまった。
「な、なに??」
戸惑うクリスタルをレオンはヒョイと抱きかかえるとベッドに横たわらせた。そしてクリスタルの顔を上から無邪気な笑顔で覗き込む。
「君たちが魔導を得意とするなら、俺たちは薬草の研究を得意としている」
レオンの指がクリスタルの喉から胸の谷間を撫でながら移動していく。
(いつの間に?!…さっきの手の痛み?!)
レオンは更にクリスタルの衣服の中に手を入れて脇腹を撫でる。
「軽い物だから直に動けるようになる。それまでにお前を堕とす自信が俺にはある」
「こんな事されて堕ちる訳ないでしょ!」
「オレに触れられて堕ちなかった女はいない。クリスタル、覚悟するんだ」
耳元で決め台詞を吐いたかと思うと、クリスタルの服のボタンを1つ2つと外し始めた。
「レオン!無事か!!」
バン!と勢い良く扉が開いて鎧に身を固めた若い男が突入してきた。
クリスタルの服を脱がせていたレオンの手がビクッと反応して止まる。
「ジラフ……早過ぎるだろ。しかも、なんてタイミングで来るんだ」
ジラフと呼ばれた男は心底ホッとしたと言う表情をした。
「ずっとお前を探してたんだぞ。今度こそ駄目なのかと必死にな!なのに何だ?この状況」
ジラフはチラリとクリスタルに視線を送った。
「このお嬢さんは命の恩人だ」
「その命の恩人に薬を盛って何してるんだ?」
「恩返しだ。極上の快楽を味わわせてやるんだ。終わるまで少し待ってろ」
「それは恩を仇で返すって言うんだよ!彼女が嫌がったから薬を使ったんだろ?それに、そんな悠長にしてる時間は無い。ビード国の援軍のおかげで、我々は全軍撤退だ。急げ」
(良かった!国境の侵略を防げたのね!)
ジラフの言葉からビード国の勝利を確信してクリスタルは安堵した。
「分かった分かった。ソリで来たんだろ?乗せれるか?」
レオンはチラリとクリスタルに視線を送った。
「乗れるけど…連れて帰るのか?」
「当然!たっぷり恩返ししてやらないとな」
そう言ってレオンはクリスタルを横抱きにして持ち上げた。
「ちょっと!冗談でしょ?!ヤメて!」
「しかし、このまま置いていく訳にいかないだろう?お前の救助がいつ来るのかも分からないのに。捕虜にする訳じゃない。良いじゃないか、オレはお前が気に入ったんだ」
「アナタは良くても私は良くない!」
「恋人でもいるのか?居ても関係ねーけどな。一瞬で忘れさせる自信がある」
「そうじゃないけど!私は行きたくないと言ってるの!降ろして!」
「分かった分かった。駄々をこねるな」
レオンはヤレヤレと小さな子供をあやすように丁寧にクリスタルをベッドに再び横たわらせたかと思うと、彼女の唇に深く自分の唇を押し付けた。
「!……んん!やめっ!」
クリスタルが抗議しようと口を開いた隙をレオンは逃さず自分の舌を侵入させてきた。初めての感触に驚いてクリスタルは、どう対処したら良いのか分からず彼のなすがままになってしまった。
「ケダモノが!」
ジラフが呆れ顔で吐き捨てる。
暫く大人しくなったクリスタルの柔らかな舌を堪能したレオンは、そっと唇を離してクリスタルの顔を愛おしそうに覗き込む。
「どうだ?気持ち良いか?」
「………キモチワルイ」
期待した物とは真逆の反応をされてレオンはギョッとした。
「プハッ!お前が女に拒絶されるところ初めて見たよ。こりゃ説得は無理だろ。のんびり遊んでる場合じゃないんだよ。仕方ない、眠らせるか?」
「ん………」
レオンも初めての経験で対応に困り固まってしまっている。
「ごめんね、お嬢さん。こんなケダモノを助けたばっかりに」
ジラフはにこやかに紳士的な物腰で気遣いの言葉を掛けてくれているが、その手には何やら液体の入った小瓶が握られている。
「痛くないよ。香りを嗅ぐだけで気持ちよく寝れるからね」
「やめて……!」
ジラフは小瓶をクリスタルの鼻に近づけて蓋を開けようとした。
「おい!何してる!!」
聞き覚えのある声が小屋に響き渡った。数時間会っていないだけなのに懐かしさで涙が溢れそうになる。
「ジーク隊長…」