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わたしと謎の遭難者


………寒い………痛い……

風が音と共に耳にうるさく打ち付ける。

眠い………このまま寝てしまえば寒さと痛さ全て感じなくなるんじゃあ………


「!!」

クリスタルは目覚めた。

「痛っっ」

飛空艇の操縦席でうつ伏せに倒れていた体を起こそうとすると激痛が走った。

「はぁ……寒い」

墜落の衝撃で飛空艇には当然穴が空き、雪は止んでいるものの、そこから冷たい風が容赦なく侵入してくる。

(どれぐらい気を失っていたのだろう。夜…ではないようだけど。天気のせいで薄暗いのか、夜明けなのか夕暮れなのか…)

次第に意識がハッキリと戻ってきた。

墜落の際に激突を避ける為に思いつく限りの魔導術を使い、更に柔らかな新雪のお陰で衝撃が和らいだのか酷い打撲はあるものの体は動く。

(とりあえず、この寒さをどうにかしないと)

操縦席の後ろのスペースに置いてある袋に手を伸ばす。カイルが渡してくれた物だ。防寒布を出してかぶるとクリスタルの体を頭までスッポリ包まれる程の大きいサイズだったので寒さが格段に和らいだ。

(お酒に火を起こす道具まで入ってる…カイルから受け取っていて良かった)

目頭が熱くなるのを感じながら、酒の入った容器の蓋を開けてひと口飲むと、喉から胃にかけて刺激が走り、やがて顔と体が少し火照った。

「何でこんな事に。これからどうしよう……カイルが地図をくれたけど、ココが何処なのか分からないと意味ないよ」

不安を打ち消す為に胸の内を声に出す。

「あ!あれって……」

はるか遠くだが雪原の中にポツンとそびえ立つ巨木が見える。命の木と呼ばれているその木は、国境の厳しい気候にも負けず、古くから生息し続けている生命力の強さから、ビード国のシンボルとされ王家の紋章にも使用されている。

クリスタルは慌てて地図を広げた。

「あの木が命の木なら……方向的にはこの辺りかしら。1番近い避難所は…ここね!吹雪になる前に急がないと」

あの木がただの巨木であれば、クリスタルの判断は自身の死を招く。かと言って、このまま留まり続けていても同じ事。とてつもなく小さな希望の光だが今は信じて出発の為に荷物をまとめ始めた。



「カイル!クリスタルはどうした!」

ジークが声を荒げる。国境に到着した隊は攻撃に備えて即座に陣形を組み始めている。

「そ、それが、移動の途中ではぐれてしまいまして…」

ジークと目を合わせず青白い顔でカイルは答えた。

「どういう事だ!」

動揺を隠せずジークはクリスタルの姿を探す。カイルが彼女と並走していた事を知っているジークは彼を責め立てるように怒号を浴びせたが、カイルは顔色も悪く動揺からなのか声だけでなく手足も小刻みに震えている。

「……今は捜索に向かう事は出来ない。この状況を早々に終わらせるのが先決だ。しっかりしろ」

「はい………!」



凍てつく風を容赦なく受けながら、荷物を積んだソリを引いて暗い雪原を巨木の目印を頼りに進んでいくと、思っていたより早く半分雪に埋もれた古びた小屋を発見した。

クリスタルは涙を流しながら小屋を目指して突き進んだ。

「なんて幸運なの!ああ!神様!」

神に感謝を捧げたとたんアレクの顔が浮かんだ。出発前に手に触れた柔らかな彼の唇の感触。

「神の御加護がありますように」

出発前に貰った彼の言葉を思い出して更に涙が溢れてきた。

「ありがとうございます……!」

彼の顔を思い出すと同時に奇行の数々も思い出して口元が緩んだ。そのお陰で恐怖からの緊張感が少し和らいだ。

小屋の傍に辿り着くとクリスタルは胸元から魔石を埋め込んだペンダントを取り出し魔導力を注ぎ始めた。ペンダントが光ると同時にバッ!と雪が飛び散り埋もれていた小屋が全貌を現した。扉を開けようとドアノブに手をかけたが、やはり凍りついて動かない。

再びペンダントに魔導力を注いで凍りを溶かし、後は力を込めて無理矢理扉を開くと中に入ることが出来た。風を受けなくて済んだ分、寒さは格段にマシになったが既に全身の感覚は奪われている。いそいそとクリスタルはカイルに貰った火を起こすことが出来る魔石を暖炉に放り込んだ。

勢いよく炎が上がり小屋の中もほのかに明るく照らしだした。

「あーーー!温かいよぉ!生き返るぅ!」

雪で濡れた衣服を脱いで下着姿になり、防寒布に包まって暫く動けずに暖を取っていると部屋も温まり始めクリスタルの凍りついていた体も緩んできた。

「はぁ……助かった。むしろ暑くなってきたわ。ココはいつから使われていないんだろう?とりあえず服を乾かして…ベッドがあったら最高なんだけど」

心身ともに余裕が出来てクリスタルは小屋の中の備品を確認しようと、ようやく立ち上がった。暖炉から少し離れた薄暗い場所にベッドらしきものがある。そこへ近づくと………。

「うわぁ!!」

簡易的なベッドが2台並べられていたが、そのうちの1台に人が横たわっていた。

大柄な男が薄い毛布を被って縮こまっている。

「あのぉ……」

声を掛けるが反応が無い。まさか……。

クリスタルは毛布の上から男の胸元に手を置いた。息はしている。

「大丈夫ですか?」

ダメ元でもう一度声を掛けるがやはり反応は無い。思い切って彼の頬を手のひらで触った。

「冷たい!こんなに部屋が暖かいのに。体が冷え切ってしまって自分で体温を上げる事が出来ないのね。暖炉の傍に移動させないと…」

しかし意識のない大柄なこの男をクリスタル1人で運ぶには無理がある。体力を消耗している上に小屋に積もった雪を飛ばし炎を起こした時点で彼女の魔導力も尽きてしまっていた。

「とにかく、この人を暖めてあげないと!」

クリスタルは男の横たわるベッドにもう1台をくっつけて、男に被さっている毛布を剥いだ。

「!」

男は何も身に着けていなかった。きっとクリスタルと同じように雪で服が濡れてしまい体温を奪われるので脱いだのだろう。

「手間が省けたわね」

クリスタルは彼の背中側に横たわって一緒に毛布を被り抱きしめようと手を伸ばした。

「………大きな人ね。包みこんであげれない」

どうしたものかと考えてから、今度は男の正面に横たわり胸元で組まれた彼の腕を無理矢理解いた。そのまま彼の胸にピッタリとくっついてクリスタルが包みこまれる形になった。そして、男の腰に腕を回してピッタリと自分の暖かい体をくっつけた。

「冷たい体……寒かったでしょう。頑張って暖まって」

優しく男の体を擦っていたが、クリスタル自身も体力を相当消耗していたのでベッドに横になったことで急に睡魔が襲ってきて次第に意識が遠のいていった。



クリスタルが眠りについて数時間。陽の光が小屋の中に入り込んで、すっかり明るくなった。凍りついて動けなかった男が寝返りを打った。

「………ん………?」

陽の光を受けて輝く見事な黄金の長めの髪を無造作にかきあげて、髪と同じゴールドの瞳が天井を見つめた。

「生きてるのか……!」

驚きに目を見開いてユックリと起き上がろうとした男は更に驚いた。

「女?」

隣で下着姿の見知らぬ女が無防備に眠っている。暖炉の炎に目をやり再び見知らぬ女、クリスタルに視線を戻した。

「ハハッ!こりゃイイ!暖めてくれたのか」

男は片腕で自分の頭を支えて横になると、残った腕でクリスタルの腰を引き寄せた。そして、優しく腰から脇を撫でて豊かな胸を下着の上から軽く握った。

「んんっ…」

「フッ…やはりオレは運が良い」

男は穏やかに微笑み、クリスタルの顔にかかった髪をそっと払いのけてやると彼女の目がスッと開いた。

「おはよう。お嬢さん」

「ああ、良かった!目が覚めたんですね!」

「お陰様で。命からがら此処にたどり着いたものの体が暖まらなくて、もうダメかと覚悟していたんだが…こんなに気持ちよく目覚められるなんて。ありがとう」

男は人懐っこい笑顔をクリスタルに向けた。最初に見た時は薄暗いのと瀕死の状態だったから気づかなかったが、この男、かなり整った顔立ちをしている。身体もかなり鍛えあげられており幾つか大きな傷がある。

「お腹空いてますよね?食料もあるので用意しますので…あの、服を着るので少しアッチを向いててもらえません?」

「そんなの後で良いよ。それより生きている実感をくれよ」

そう言うなり男はクリスタルの両手を掴んで上に覆いかぶさってきた。

「ちょっと!」

「大丈夫。気持ちよくするから」

クリスタルは手を振り払おうとするがビクともしない。男はクリスタルの首筋をベロリと舐めあげて耳たぶを唇でついばんだ。

「あっ、やめっ……!」

次の瞬間、クリスタルの胸元で魔石のペンダントが眩く光る。

「うわっ!!!」

男の大きな体は弾き飛ばされてベッドから転げ落ちた。

「あんた魔導士か!」

「そうよ。お腹空いてるんだから服を着させてよね。アッチ向いてて!ついでにアナタの服も乾かすから!」

「……もう見たんだから気にしなくて良いだろ」

「アッチ向かないなら…」

そう言ってクリスタルは魔石ペンダントを摘んで男に見せつける。

「あぁ、ハイハイ。それは勘弁してください、お嬢さん」

男は大人しくクリスタルに背を向けた。

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