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只々 幸せな時間です


「ちょっと寒くなったから温室で温まろうかと思ってさ〜。腹も減ったし」

ソロは、適当な木からもぎ取った果実にかじりついた。

「あれ?今から始めるトコだった?ん?ん?」

ソロは口いっぱいに果実を頬張りながら、ベットの上で言葉が出ないアレクとクリスタルを交互に見て確認した。

「ち、違います!星を見ながら話してただけです」

「あ、そう。俺もココに寝転がってみたかったんだよなぁ。いつも鳥の姿でアレク様と一緒にきてたんだぜ」

そう言って、ソロはドカッとクリスタルの横に寝転がった。

「でも、気持ちは確かめ合ったんだろ?」

「何のですか!」

クリスタルは憧れのソロだというのに、焦りから喧嘩腰になっていた。

「だってさ、2人とも明らかに今までと雰囲気が違う。表情が柔らかくなっているし、距離も近い」

ニヤリとソロが笑って指摘すると、アレクがクリスタルの肩を抱き寄せた。

「やっぱり分かるかい?!幸せオーラが出ちゃってるのかな」

「はいはい、良かったね。クリスタル、いい男を捕まえたな。でも、たまには息抜きも必要だぞ。俺はいつでも大歓迎だから」

「おいおい!何を言ってるんだ!」

(アレク殿下も騒がしいけど、ソロ様も大概ね……)

2人のやり取りを眺めながら、クリスタルは今まで味わったことのない幸福感に包まれていた。アレクの肩にそっと自分の頭を預けて、その幸せを噛み締めた。



「おはようございます」

いつもより早めに出勤したが、既に数人の団員が来ていた。その中にジークもいた。

「ジーク隊長、お話があるのですが、少しお時間宜しいですか?」

「ああ、今なら大丈夫だ。オレの執務室に行くか?」

「お願いします」

2人は無言で執務室に向かった。

「それで、話しというのは?」

硬い表情でジークが切り出した。クリスタルは慎重に言葉を選びながら話しだした。

「まだ、正式な発表はありませんが、私、アレク殿下と婚約する運びとなりました」

ジークは眉間にシワを寄せて目を閉じた。

「……そうか。オレは選ばれなかったんだな」

振り絞るようにジークは率直な感想を述べた。

「選ぶだなんて……ジーク隊長の気持ちは嬉しかったです」

「アレク殿下には敵う訳がないか」

「いいえ!ジーク隊長はとても魅力的です。でも、私にとって隊長は、魔道騎士としての憧れの気持ちが強すぎて、その枠から出ることができませんでした」

クリスタルの言葉にジークは大きくため息をついて天を仰いだ。クリスタルがアレクを選ぶ事は予感していたが、それでも、もしかしたら…と淡い期待を抱いていたので動揺は隠せない。しばらく動かずに気持ちの整理をして、若干落ち着いた所でクリスタルと向き合った。

「もっと早く、素直に気持ちを伝えていればよかったな。アレク殿下よりオレのほうが先にお前を好きになっていたんだから。今更言っても遅いんだが…馬鹿だな、オレは」

「スミマセン」

「謝るな。格好つけてた自分が招いた結果だ。報告してくれて有り難う。少し1人になりたい」

「はい……」

気まずそうに部屋を出ようとするクリスタルにジークは声を掛けた。

「大丈夫だ。ちゃんと踏ん切りつける。これからも仕事仲間として宜しくな」

「はい!こちらこそ宜しくお願いします。では、失礼します」

クリスタルが部屋をでると、ジークは長椅子にドサリと仰向けに倒れ込んだ。

「あー……つらい。もう帰りてぇ……」

ジークはクリスタルを抱きしめた時の温もりを思い出し胸が締め付けられた。もう、彼女が自分の元に来る可能性が無くなってしまったのだ。

しばらく動かずにボーっとしていたジークだが、突如、自らの頬を両手で叩きいて気合を入れ起き上がった。

(よし!クリスタルが後悔する程良い男になるぞ)

ジークは気持ちを切り替えたふりをして、部屋を出て仕事に戻った。



仕事が終わり、クリスタルはアレクの部屋へ向かった。部屋に入るとアレクがテーブルにお皿をセッティングしているところだった。

「お疲れさま!丁度、準備出来たところだよ。ささっ、座りたまえ」

アレクは椅子を引いてクリスタルをエスコートする。

「有り難うごさいます」

席についてテーブルに置かれている料理を眺めた。以前、頂いた食事とは違い庶民的な物が用意されている。

「……もしかして、アレク様がつくったのですか?」

「そうだよ!今日、教えて貰ったんだ。盛り付けのセンスはプロに敵わないけど、味は自信があるよ」

アレクはドヤ顔で、手で「どうぞ召し上がれ」と促してきた。

「いただきます」

クリスタルの気持ちを手に入れた今、まさか料理をするなど思っていなかったので彼への愛しさが込み上げてきた。

「美味しいです」

「本当?良かった」

アレクが心底ホッとしたような笑顔をクリスタルに向けた。

食事が終わって、2人は長椅子に隣り合って座り語りあった。当然、唇も重ねる。

「大好きだよ」

「私も……す、好きです」

「…!初めて言ってくれたね!」

アレクはクリスタルに何度も口づける。

「あの、私、話しておきたい事があるんです」

「え…何かな?」

甘い時間に酔いしれていたアレクは、クリスタルが言いにくそうにしている事を警戒した。

「私のワガママで、こんなお願いは許される事じゃないのは重々承知なのですが」

「……何?!」

「アレク様が側室を迎えられたら、私、どうなってしまうのか不安なんです」

「側室??」

「側室をちゃんと受け入れる自信がどうしてもつかなくて!受け入れなきゃだめなのは理解しています。ただ、正直な気持を伝えておきたくて」

そこまで言うと、クリスタルの体は後ろに倒されてアレクが上から顔を覗き込んできた。

「可愛い事を言ってくれるね。僕を独り占めしたいって事?」

「……はい」

「前にも言ったでしょ?僕は末っ子で王位継承権はあっても、既に兄にも姉にも子どもたちがいて、僕より継承の位は高い。世継ぎの心配なんか僕たちには関係ないんだよ」

「本当ですか?でも、王族は一夫多妻が認められています」

まだ不安そうにしているクリスタルの唇をアレクは深く塞いだ。

「僕が信じられないの?ひどい!」

「だって、殿下はモテるから……」

「もう!どうしたら安心してくれるんだい?それを言うなら、君だっていつ心変わりするか心配だよ。僕のどこが好きなの」

「え?!それは……沢山あり過ぎて言えません」

「な!い、言えない?!」

「沢山あり過ぎて時間が掛かると言ってるんです」

何故か言い合いになってしまい、そっぽを向いてしまったクリスタルをアレクは抱き上げてから座り直し、自分の膝の上で抱きかかえた。

「くだらない言い争いは止めよう。そんな存在しない側室の事で」

「……ですね」

「もうすぐ帰る時間だね。早く結婚して一緒に眠りたいよ」

「私もです。でも、まず婚約者として認めて貰う所からなので、道は長いですよ?」

「逃げないでおくれよ」

「殿下の方こそ途中で飽きないでくださいよ」

「む!僕の気持ちは……って、また同じ事で喧嘩になるじゃないか」

アレクは思わず笑ってしまう。

「でも、これも君との距離が近付いた証拠だね。傍から見たらバカバカしい喧嘩だよ。大丈夫、愛してる」

クリスタルの髪を撫でるとアレクは再び長く深い口づけを交わした。


「本当にバカバカしい喧嘩だな。バカップル」


突如、部屋に男の声が響き渡る。

「?!ソロか?どこだ!」

顔をあげて部屋を見渡すが姿が見えない。アレクがキョロキョロしていると、椅子の肘掛けに一匹のネズミがよじ登ってきた。

「ここだよ」

ソロの声はネズミから発せられていた。

「……何をしているんだい?」

「探検」

「いつから居たんだい?」

「側室の話から。王宮内を把握しとこうと思って本当に探検してたんだ。で、ここを通りかかったらモメてる声が聞こえたから面白そうだな〜と思って」

「次に同じことをしたら城内出入り禁止だ」

アレクは静かな怒りを込めて言い放った。

「はいはい。すんませんでした」



アレクとクリスタルの想いが通じ合って1年の時が過ぎた。婚約の手続きも早々に済み遂に結婚の儀を執り行う事が出来た。

大勢の人々から祝福を受けて、無事に2人は王宮内に用意された新居でくつろいでいた。

「クリスタル、疲れちゃった?」

「そうですね。でも、幸せな1日だったので何だか目は冴えちゃってます」

「じゃあ……いいかな?」

「……もちろん」

アレクはクリスタルを抱き上げるとベッドに下ろし、自分も隣に滑り込んだ。

「緊張するな……これから宜しくね。奥さま」

「はい、旦那さま」

クスクスと2人は笑いながら唇を重ねる。

「愛してる。クリスタル」

「私もです。アレク」

アレクはクリスタルの寝衣を脱がそうとして、手を止めた。体を起こして部屋をぐるりと見渡す。

「ソロ!居るのは分かっている」

アレクが声を張り上げたが返事は無い。するとクリスタルが下から手を伸ばしアレクの顔を自分に向けた。

「居ないようですね」

アレクは自分の寝衣を脱ぎながらおどけた顔をする。

「そうだね。流石に居ないか。せっかくのムードを壊してしまって済まなかったね」

クリスタルの寝衣も脱がせると、彼女に覆いかぶさり口づけと愛撫に専念した。

「ずっと一緒だよ」

「はい。愛してます」

クリスタルは幸せのあまり涙目になりながら永遠の愛を誓った。



(気づかれたのかと思ったじゃないか。フェイントかよ。ま、サブリナの邪魔もなく無事に始まったな。退散するか)

寝室のカーテンの裏側にいるネズミ姿のソロに見届けられ、2人は幸せな夜を過ごすのであった。



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