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幸運の青い鳥


「イチャつくのは結構だが、俺の前では辞めてくれ」


低い男性の声がハッキリと部屋に響いた。

「誰だ?!」

アレクが驚いて扉付近を振り返った。

「………」

人の姿が確認されなかったので室内をぐるりと見渡し、天井やカーテンの裏側など素早く確認する。

最後にベッドの下を覗き込んだところで、ブルーがアレクの目の前に羽ばたいて来た。

「オレだよ」

「………ええ?!」

アレクは後ろにのけぞって尻もちをついた。直ぐにブルーを両手で包み込むと、ベッドに横たわるクリスタルに見えるように差し出した。

「クリスタル!ブルーが喋ったよ!しかも会話になってる!なんて賢い子なんだ!」

大はしゃぎするアレクの手をブルーが激しく突いた。

「痛っっっ!」

クリスタルの枕元に降り立ったブルーは不服そうな声を出す。

「やめろ。オレは鳥じゃない」

「フフ、じゃあ、何なんだい?ん?」

アレクはベッドに肘を付いて、小さい子供をあやすようにブルーの丸い頭を優しく小突いた。

「聞いて驚け。オレは大魔道士ソロ様だ」

ブルーは正面から真っ直ぐにアレクの顔を見て本当の自分の名を告げた。

「……ここでソロの名が出てくるとは。何処で覚えた言葉なんだろう?……もしや、ソロに飼われていたのかい?」

「違う!オレがソロだ!サブリナに嵌められて変化が解けなくなっているんだ!」

2人の会話を黙って聞いていたクリスタルが堪らず口をはさむ。

「アレク様。コレは鳥が人間の声真似をしてるのとは次元が違う気が……ソロ様かどうかはともかく、確かにブルーから強力な魔導の気配を感じます」

「お!さすがクリスタル」

ブルーはピョンと跳ねてクリスタルと向き合った。

「今までもブルーと対面していましたけど、まさか彼から出ている魔導の気配だとは思ってなかったので気づきませんでした。あなた……魔石を飲み込んだの?」

「飲み込んでねーけど、当たってる!魔石を埋め込まれてる。サブリナの呪いがかかってるから解除はアイツしか出来ない」

「ちょっと君たち!ボクを置いて話を進めないでくれたまえ」

今度はアレクが会話に割り込んできた。

「ブルーが本当に人間だと言うのかい?しかもソロだなんて……」


大魔道士ソロ。幼い頃から圧倒的な魔導力を持つ者として様々な逸話が国の内外問わず広がり、その力を欲しがる者たちが後を絶たなかった。面倒事を嫌う彼が人前から姿を消して10年近く経っている。

時折、彼が姿を現したと噂が流れては直ぐに姿を暗ます事を繰り返していた。


「サブリナにアンタの情報を流すよう言われていた」

「ボクの?何の為に」

「アイツはアンタに惚れてるんだ。アンタの妃の座が欲しいんだよ」

「ふむ……」

「目的を達成した暁には、オレのこの呪いが解かれる約束だ」

「残念だけど、それだと貴方の呪いは永遠に解けないね」

「………」

ジトッとした目つきでソロはアレクを睨みつけた。

「今となっては、サブリナの妃への道は絶たれた事は分かっている」

「……正確には最初から道は無かったんだよ。恥ずかしながらボクの初恋はクリスタルなんだ」

「やめて下さい」

クリスタルがかぶせ気味に話を遮った。

「そんな…!さっきまで良い雰囲気だったのに!」

「それは……殿下の勘違いです!」

「ブルー……いや、ソロ!君も見てたろう?僕たちを」

アレクは必死にソロに援護を求める。

「そんな事は、どうでも良い。それより、サブリナが妃になれないのなら、この呪いを解く方法を探してくれ」

ソロは冷静に応えた。

「どうでも良いって……!酷い!」

「酷くない。オレの現状の方がよっぽど悲惨だ。呪いを解いてくれたら、アンタのお抱え魔道士になってやるよ」

「ええ?!」

サラッと簡単にソロは言葉にしたが、彼をお抱えの魔道士として仕えさせたとなれば、国内外大騒ぎになるだろう。

ところがアレクの反応は微妙な物だった。

「……それは大変有難い申し出なのだが……」

「は?」

「ボクは一応、王位継承権がある。力を持ちすぎるのは良くない。君の力を持ってしまったら、ボクが望まない所で王位をめぐる争いの火種になりかねない」

「王位に興味は全く無いのか?クリスタルを手に入れる事も容易になるぞ」

「そんな物でクリスタルの心は手に入らないからね」

「くっ…!じ、じゃあ、国のお抱えになってやる!俺様の偉大な魔導力をもってすれば、この国も益々発展して行く事だろう」

ソロは小さな胸を張った。

「アレク様……」

クリスタルがキラキラと希望に満ちた瞳でアレクを見上げている。

「大魔道士ソロ様のお力を目の当たりに出来るなんて素晴らしい事です。この国の発展の為に協力致しましょう!」

「うむ、ボク個人に仕えるのでなければ問題ないだろう。……とは言え、呪いを解く方法が見つかるかどうか……」

「王族に伝わる、万能魔導とかアイテムは無いのかよ」

「そんな都合の良い物は無い!」

アレクとソロの契約が無事成立した所で部屋の扉がノックされた。

「アレク様、着陸しますので御準備ください」




「クリスタル!」

救護室で診察を終えて事務所に戻るとジークが待っていた。就業時間はとっくに過ぎていたので、部屋には彼1人だった。

「ジーク隊長……」

ジークはクリスタルに歩み寄るとたくましく長い腕を伸ばして彼女を抱きしめようとした……が、触れる前に腕を下ろした。

「すまなかった……!」

「そんな!ジーク隊長は何も悪くありません!私の不注意です」

「あの時、もし、アレク殿下の遣いが来なければお前はサバナに連れ去られていた」

「そうですが……こうして帰って来れましたし、ジーク隊長が気に病む事ではありません。ご心配おかけしました」

クリスタルは落ちこむジークを元気づけようと明るく応えたが全く効果が無かった。

「オレは……自分が情けないよ……」

「何故ですか」

「お前が好きだと言っておきながら、守る事すら出来ていない」

「……私は魔導騎士です。国民を守る立場ですので、守ってもらいたいとは思っていません。こんな事があった後に言うのも何ですが……」

「そうだな…すまない」

「もう謝らないで下さい!悪いのは警戒を怠った私なんですから」

「ああ、すまな……」

「あ!また!」

謝りかけたところをクリスタルに指摘されて、ジークの口元が少し緩んだ。

「うん、そうだな…無事に戻れて良かった」

「はい。あ、それで、アレク様から伝わっているかと思いますが、今日の事を王宮に詳細に報告するように言われましたので、こちらには出勤しません」

「ああ、聞いている。今日は疲れただろう。家まで送ろう」

「ジーク隊長、お気遣い有難いのですが、薬の副作用などが出ないか分からないので王宮の客間を開放してもらってるんです。何か異変が起きた時に宮医に診てもらえるように」

クリスタルの言葉にジークは一瞬真顔になったが、直ぐに表情を和らげた。

「それは良いな。じゃあ、今日はゆっくり休め」

「はい!あの、待っていてくれて有り難うごさいました。おやすみなさい」

クリスタルは自宅から持ってきていた荷物を取ると部屋を後にした。

(アレク様に持っていかれてばかりだな……)

ジークは短くため息をついて帰路についた。



翌日、明朝からアレクは小鳥の姿のソロを頭と馬車に揺られサブリナの元に向かっていた。

「本当に大丈夫なのか?!」

ソロがせわしなく飛び跳ねる。

「うむ、任せたまえ」

「勘付かれたらどうするんだ」

「上手くやるさ」

「色仕掛けは、もう通じないんじゃないか?エラく派手な格好だが」

「勝負服だよ。気合い入れていかなきゃね!」

アレクは、おどけた仕草できらびやかな指輪や耳飾りなどの装飾品をソロに見せつけた。



サブリナの邸宅に到着したアレクは客間へ案内された。ブルーは彼が座る長椅子の背に控えている。しばらくしてサブリナが1人で現れた。顔の傷を隠すように包帯が痛々しく巻かれている。

「ご訪問頂き有り難うございます」

「こちらこそ傷が癒えていないのに訪問して申し訳ない。さあ、座って」

「……失礼いたします」

サブリナはチラリと目線だけでソロを確認してから、

彼らの前に座った。

「まだ痛みはあるかい?」

「はい……大分マシにはなりましたが」

「昨日は、君を騙すようなことをして済まなかったね。それで……レオン陛下から何か接触はあったかな?」

「いえ……今のところは何も……」

「うむ、何かあれば王宮に助けを求めると良い。話は通しておくから」

「……はい」

一瞬の沈黙の後、サブリナが口を開いた。

「アレク様……私は今後どうなるのでしよう?」

「ん?」

「クリスタルの飛空艇に細工を指示したと冤罪をかけられたうえ、レオン陛下に脅されて彼女を国外に連れ出す事に手を貸してしまいました。こんな傷まで負って……誰かが私を陥れようとしているのでしょうか……」

ポロポロと愛らしい瞳から涙が次々こぼれだした。

「サブリナ嬢、不安になるのは分かるが、まず落ち着いて。僕の方を見てご覧」

アレクが穏やかな口調で語りかけると、サブリナは目元をハンカチで拭うと、涙で濡れた瞳で彼をジッと見つめた。目が合うと、アレクは首を傾げて優しく微笑んだ。大振りの耳飾りがユラユラ揺れて外からの陽射しに反射してキラキラと光った。

「君を訪ねたのは誤解を解いておかなければと思ってね」

「……はい……」

耳飾りとアレクの極上スマイルの眩しさにサブリナは思わず目を細める。

「昨日の事で、おそらく君は、僕がクリスタルを愛していると思ったのではないかと思ったんだが……どうだい?」

「そうですね……思いました」

「それが誤解だ」

アレクはスッと立ち上がるとサブリナの前にひざまずいて彼女の手をとった。

「アレク様?!」

突然のことに驚いたのか、サブリナは身を硬くして、握られていない方の手のハンカチをギュッと握りしめた。

「あのままクリスタルが連れて行かれては外交問題になりかねない状況だったんだ。彼女は、実は父上の娘なんだ」

「国王陛下のですか?!」

「うむ、平民の女性との間に出来た子でね。クリスタルの母親も王宮に入る事を望んでいなかったし、父上の側近達も公表する事に反対したんだ」

「本当なのですか?!」

「双方の意見は一致していたので、関わりは一切なかったのだが、何とクリスタルが魔導騎士団に入団してきてね」

アレクはサブリナの手の甲を親指で優しく撫でた。

サブリナはアレクのカタチの良い唇から発せられる言葉に驚き胸を高鳴らせていた。アレクに握られた手をギュッと握り返す。

「では……クリスタルはアレク様の妹と言うことですか?」

「そうなるね。君には知っていてもらいたかった」

「………私から、また何か聞き出そうとされてるのですか?」

「ん?」

昨日と同じ様なパターンにサブリナは明らかに警戒心を醸し出している。

「昨日の今日で、そんな都合の良い話、にわかに信じられません。これ以上、私から何を聞きたいのですか」

「サブリナ嬢!君の言う事は分かるが、誤解しないでくれたまえ」

2人のやり取りをソロは静かに見守っていた。

(そりゃ、そーなるわな。まさか本当に、また色仕掛けとは……)

「クリスタルは私の妹であり、国王陛下の娘なんだ。だから、今後、彼女に危害を加える事は……」

「そんな話!信じられる訳ないでしょう!」

サブリナは突然ヒステリックに叫ぶと、アレクの手を振り払いハンカチに忍ばせていた小さな赤い石を取り出した。

「それは!!」

見覚えのある赤い石に、ソロは思わず声を上げてしまった。

サブリナは何の躊躇もなく、その石をアレクの額に押し付けた。

「くっ……!何だ!」

ズブズブと石はアレクの額に埋もれて行き瞬く間に見えなくなってしまった。

「…………」

しばらく額を抑えて肩で息をしながらうずくまっていたアレクだったが、息が整うとユルユルと顔を上げた。

「アレク様……」

サブリナがアレクの肩に手を置いた瞬間、彼はサブリナの手を引いて自分の胸に引き寄せた。

「君が僕を信じられないと言うなら、信じさせるまでだ」

そう言うとサブリナの唇を自身の唇で塞いだ。優しく唇を重ね合いながら、アレクはサブリナを抱きかかえソファに彼女を押し倒した。

「……傷を負っていたって、君は美しいままだ。愛している」

「アレク様……私も愛しています」

2人は見つめ合い気持ちを確かめ合うと再び唇を重ねた。その様子にソロは黙って居られず、アレクの頭に飛び乗った。

「サブリナ!今のは何だ!コイツに呪いをかけただろ!」

ソロが抗議すると、アレクは彼を手で払い除けた。

「邪魔をするな」

「なっ!お前、なに返り討ちにあってるんだよ!間抜けにも程があるぞ!」

「ああ、安心したまえ。君の呪いの解き方は後で教えてもらうよ。今は彼女に僕の想いを分からせてあげないと」

「おい!サブリナ!本当にオレの呪いを解くんだろうな?!」

ソロが騒がしく部屋中を羽ばたいていると、苛ついた様子でサブリナが声を張り上げた。

「うるさい!邪魔をするなら鳥の姿のままよ!静かに出来ないなら出ていきなさい!」

「はあ?!分かったよ!じゃあ、この扉を開けてくれよ」

ソロはバルコニーに出る事の出来る硝子の扉の前に立った。

「もう!面倒な奴ね!アレク様、直ぐにもどりますからね」

アレクが離したくないと言わんばかりにサブリナを抱く腕に力を込めたので、彼女は猫撫で声を出して、彼の抱擁から開放された。

上機嫌でサブリナは扉を開こうとした時、上からバルコニーに巨大な何かが落ちてきた。

その何かは真っ直ぐにサブリナを見つめている。


「……?!きゃあああああああ!!ドラゴン!!!」



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