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盟友カイルとの再会


クリスタルが魔導騎士団の事務所に着くとジークが待ち構えていた。

「ジーク隊長、おはようございます」

「ああ、おはよう…昨夜は大丈夫だったか?」

「はい!お陰様で。王宮のベッドで眠らせてもらってすっかり疲れもとれましたし、今日も頑張ります!」

もしかすると既にクリスタルがアレクと同じ部屋で過ごした事は耳に入っているかもしれないが、詳細を聞かれると気まずいので無理矢理話を打ち切った。

「そうだ。今日、カイルが退職時に忘れて行った物があったそうで取りに来るぞ」

「本当ですか?!もしよかったら、カイルが来たら教えていただけませんか?」

「そのつもりだ。お前の事で酷くショックを受けていたからな。あいつも喜ぶだろう」

そう言ってジークはクリスタルの頭にポンッと手を置いて、そのまま髪を撫でた。

「で、では、仕事に入りま〜す……」

不意打ちで甘い空気を出されてクリスタルは慌てて部屋を後にした。



午前中にアレクとレオンが入れ違いで魔導騎士団の訓練場に現れたらしいが、幸いクリスタルは室内で書類仕事に追われていたので会わずに済んだ。

そろそろ昼食の休憩に入ろうかと片付けているとジークの執務室に行くように指示が入った。

「クリスタルです。失礼いたします」

「ああ」

部屋に入るとジークは長椅子に座るよう促してきた。

「そう畏まらなくていい。昼食を一緒にとろうと呼んだだけだ」

ジークは紙袋を持ってクリスタルの隣に座った。

「お前が以前話していた、人気店のランチが買えたんでな」

「ええ!何度行っても売り切れてるので諦めていたんです。ありがとうございます」

クリスタルの反応にジークは満足気な表情を浮かべて袋からランチボックスを取りだした。

「一緒に食おう」

蓋を開くとチキンの良い香りが部屋中に広がる。

「いただきます!……んー美味しい〜」

「そうか、ん!確かに美味い」

「昨日の夜から美味しい物ばかり食べて……幸せですけど太っちゃいますね。午後からは、しっかり鍛錬します」

「俺は女性の肉付きが良いのは好きだけどな」

「……あまり太ってしまって仕事に支障が出てはいけないので…ははは」

これは甘い空気に持って行かれるパターンだなとクリスタルは少し身構えてた。

「すまないな、クリスタル」

食事を口に運びながらジークが突然謝罪を言葉にした。

「何がですか??」

「お前への想いを伝えてから歯止めが効かなくなって、会うたびに気持ちを押し付けてしまっている」

「………」

「あのレオン陛下は論外だが、お前がアレク殿下には随分心を開いているのを目の当たりにすると余裕が無くなって、つい強引に迫ってしまう」

「……アレク様は誰でも心を開いてしまう御方ですから……本来、私なんかが気軽にお話出来る方じゃないのに、アレク様の気さくな性格につい甘えてしまっています」

「正直……惹かれているんじゃないか?」

「へ?」

ストレートなジークからの質問に思わず間の抜けた声を出してしまった。

「私がアレク様にですか?確かに見目麗しいですし腐っても王族、上品な物腰には正直心揺さぶられる時もありますが、やはり雲の上の存在です。現実味がありません」

自分で言いながら、少し寂しい気持ちが心の片隅にあるが嘘偽り無い本心だ。あんなに完璧な王子様が好意を口にしてくれるなど誰もが憧れる夢のような話なのだから。

仮にアレクの言葉が本心であったとしても、どう頑張っても結婚なんて到底無理な話だ。正妃にはそれなりの身分のご令嬢が迎えられて、クリスタルは良くて側室だろう。側室が悪いとは思わないが自分に務まるものではない。自分だけを愛してくれる人と結婚して子供を授かって毎日笑顔で過ごすことがクリスタルの理想だ。

「そうか……安心した」

ジークが大きく息をついて微笑むと、想いを告げられてからずっと彼から感じていたプレッシャーが随分柔らいだ。

「もう1つ、確認したいんだが、これからもお前の事を好きでいて良いか?」

いつも冷静沈着なクールな彼が、緊張に声をうわずらせている姿にクリスタルの心臓が鷲掴みされた。

「スミマセン……恥ずかしい話ですが、そんな事を言われた事がなかったので、どう答れば良いのか」

「スグに好きになってもらえると思っていない。お前が嫌でなければ好かれるよう努力したいんだが」

「嫌ではありませんが……お気持ちに応えられるかどうか……」

クリスタルが煮えきらない言葉を並べていると、ジークは人差し指を立てて彼女の唇の前に持っていき話を遮った。

「分かった。嫌でないなら、これからも俺が勝手に頑張らせてもらう」

「………」

「フッ、顔が真っ赤だぞ。可愛いな」

ジークの声のトーンは普段と同じように冷静だが、明らかにはしゃいでいる。ジークがクリスタルと心が通じ合う努力をすると言うなら、自分も心を開いて受け入れてみようと彼女は思った。

「ジーク隊長も可愛いですよ。笑顔が」

「!!……やめてくれ」

「隊長も顔が赤くなりましたね」

「からかうならキスで黙らせるぞ」

「そ、それは嫌です!」

ジークは赤くなった顔を見せまいと両手で覆い隠してしまった。そのまま椅子の背にもたれて上を向いてしまった。

「あー……可愛いな……大人の余裕を見せたいんだが。ハグだけさせてもらえないか?」

「え?!えーと…えー…そうですね、ハイ」

意を決してクリスタルが答えるとジークは優しく彼女の背中を抱き寄せた。ジークの息が首筋にかかって体中がゾクゾクする。抱き締められて自分がどう感じるのかクリスタルは試してみたかったので、思い切ってクリスタルもジークの背中に腕を回した。

彼の背中がピクリと反応してクリスタルの行動に驚いた事が分かった。愛おしいと言わんばかりにクリスタルの背に回した腕に少し力が入った。ジークは彼女の髪や背中を優しく撫ではじめた。

(うぅ…まさか、あのジーク隊長と抱き合ってるなんて…気持ち良いけど緊張する…ひゃっ!)

ジークの大きな手が背中から脇腹に移動して、胸の近くの際どい場所を撫ではじめた。

(ま、まさか胸を触ろうとしてない?!)

ポーッとしていたクリスタルの頭が急に冴えた。少しでも触れたら離れようと身構えていると、ジークの手は背中に戻って行った。ホッとして再び彼に身を任せてポーッと髪を撫でられているとクリスタルの腹の虫が鳴ってしまった。

ジークはクリスタルを撫でる手を止めて自分の腕から彼女を開放した。

「フッ、食事の途中だったな。俺のワガママに付き合わせてすまなかった。さ!食うか!」

「スミマセン…お恥ずかしい…」

「いや、危うく暴走するところだったから、逆に有難い」

切り替えが早くすっかり通常運転に戻り、食事を口に放り込むジークの横顔をクリスタルはこっそり見た。あの唇から出た息が首筋にかかった時の感触、自分をスッポリ包みこんでしまった硬くたくましい体、そして優しく撫でてくれた大きな手……ジークの抱擁の余韻に浸る。もし、お付き合いするとなったら、この胸に抱かれ……。

(はっ!こら!仕事中!!)

「ん?どうした?」

「いえ!何でもないです!美味しいですね〜」

今は気持ちに応えられないと焦らしておきながら、ジークの優しい愛撫の感触が躰から離れないばかりか、彼に抱かれる妄想をし始めてしまった自分に戸惑うクリスタルだった。



「えらく集中してんな」

床に大きく描かれた魔導陣の中央に座って瞑想するクリスタルに同僚が声をかけてきた。

「邪念を祓っているのよ」

「何かあったの?」

「別に………そっちこそ何か用なの?」

「ああ、今、カイルが来ててジーク隊長が引き止めてるんだけど、急ぎの用があるからスグに帰るってさ」

「えぇ?!早く言ってよ」

クリスタルは慌ててジークの執務室に向かった。が、既に帰ってしまったとの事だった。それでも、もしかしたら間に合うかも知れないと正門に向かった。

クリスタルの読み通り、今まさに正門から出ようと退出記録を記入しているカイルの姿があった。

「待って!!カイル!!」

名前を呼ばれてカイルは手を止めた。彼が立ち止まってくれた事にクリスタルはホッとして駆け寄った。

「カイル!」

カイルに駆け寄りながら、クリスタルは彼の変貌振りに驚いた。眠れていないのか目の下のクマが酷く顔色が悪い。最後に見た時より随分痩せていて、一瞬、人違いかと思った程だ。

「カイル!会いたかった!あなた大丈夫なの?!具合でも悪いの?」

クリスタルに二の腕を気遣うように擦られても、カイルから以前のような優しい笑顔が出てこない。

「カイル……?帰ってきたら貴方がいなくなっていて寂しかったわ」

「クリスタル………オレ…」

乾燥してひび割れた唇から震えた小さな声がでたかと思うと、彼の両目からボロボロと涙が溢れ出てきた。

「カイル?!どうしたの」

「すまない、オレのせいで……!君を…危険な目に…すまない!」

嗚咽しながらカイルは声を震わせてクリスタルに謝り続ける。

「アレは私の不注意から起きた事故よ。貴方は何も悪く無い」

「ち、違う…オレ…オレは最低な人間だ」

ここまで自分を追い詰めていたなんて思ってもみなかったクリスタルは、どう言葉を掛けて良いか戸惑った。

「とにかく!私は無事に生きてるんだから良いじゃない。今は仕事してるの?そう言えば引っ越しもしたんでしょ?娘さんの調子はどう?」

あの日の話は避けようとクリスタルが話題を切り替えたが、娘の事を聞かれるとカイルは怯えたようにクリスタルから視線をそらした。

「……神からの罰が下されたんだ……」

「……え?娘さんに何かあったの?!」

「何も変わらないさ……」

カイルの娘は太陽の光を浴びると皮膚がただれてしまう珍しい体質で昼間の外出がままならない。それ以上に悪い事にはなっていないようでクリスタルは胸を撫で下ろした。が、カイルの次に発した言葉で彼女の胸がざわついた。

「あの女……絶対に許さない」

「……誰のこと?」

「オレの事をバカにしやがって…!絶対に潰してやる」

「カイル……私に何か出来る事ある?」

「君は……君は何も悪く無い。天罰が下るべきはオレとアイツだ」

カイルから漂うドス黒い闇のオーラにクリスタルは言葉を失ってしまった。そんな彼女の様子に気付いたカイルはハッとして負の感情を押し殺して弱々しく微笑んだ。

「君には幸せになって欲しい。アレク殿下はお優しい方だから心配ないけど」

「……アレク殿下?」

「もう行くよ。娘に持って帰りたいものがあるんだ」

「そう、今日は会えて良かった。元気……ではなさそうだけど、何か困ったことがあったら何時でも相談して。約束よ」

「ありがとう」

カイルは再び大粒の涙を流しながらも笑顔でクリスタルと抱擁を交わし別れた。

(カイルの何か思い詰めた雰囲気……何かひっかかるな。誰かを恨んでいるみたいだったけど……それにしても何で私の幸せにアレク様の名前が出てくるのよ)

クリスタルはカイルの姿が見えなくなるまで見送りながら心に生まれた小さな不安を払拭した。


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