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ハイテンション王子は青い鳥を頭で飼います

「クリスタル。やっぱり君は僕の妃になる為に生まれてきたんだよ!」


キラキラと曇りのない澄んだ淡いブルーの瞳で真っ直ぐ見つめてくる王子様。木陰で息を潜めて前方に注意を払っていたクリスタルはヒッ!と短い悲鳴をあげて彼の顔を見上げたかと思うと、その手を握りしめた。

「アレク様!スミマセンがチョット静かにしてもらえません、かーーー!?」

最後は絶叫となった。巨大な石の足が二人の前にズンッ!と落ちてきたからだ。クリスタルは彼の手を引いて走り出した。

「アレク様!こちらへ!」

「すまない。せっかく隠れていたのにゴーレムに気付かれちゃったね」

「…そうですね」

巨大な石の化け物が間近に迫ってきていると言うのに緊張感のないアレクにクリスタルは苛立ちを隠せず素っ気なく応えた。木々の合い間を走り抜けた先の開けた場所に小さな滝が見えた。そこにたどり着くとクリスタルはアレクの手を離し滝を背に彼を庇うように前に立ちはだかり両手を軽く結びながら詠唱を始める。真っ直ぐに落ちている滝の流れが左右に揺らぎ出し、其処からやがて数十本もの水の矢が形成されクリスタル達の周りを取り囲む。

「アレク様、動かないでくださいよ」

「う、うむ!」

目前の木々がなぎ倒されゴーレムが姿を現した。

「行け!!」

クリスタルが右手でゴーレムを指差すと待機していた水の矢が一斉に解き放たれた。激しい破壊音を上げながら矢は次々とゴーレムの巨体に突き刺ささり、その身体を削りとる。攻撃に耐え兼ねたゴーレムがバランスを崩して倒れ込んだ。その振動でクリスタルも足元がふらつきバランスを崩した。

「退治したのか!」

アレクが後ろから抱き止めて確認してきた。その腕をパッと振り解いて彼に向かい合う。

「ただの足止めです。無駄な殺生はしたくありません。そもそも、ア・ナ・タ!がゴーレムの縄張りに無断で入ったのですから」

「うぅ…す、すまない」

「話は後です!今のうちにキャンプまで戻りますよ!走って!」

「待ってくれー!ハニー!」

「…私は貴方のハニーではありません。そして今は仕事中ですので、おふざけはお止めください」

「だが…」

「はい!走って!」

2人は息を切らせながらも無事に仲間たちの待つキャンプにたどり着いた。



「アレク様!ご無事でしたか!」

2人がキャンプに姿を表すとピリついていた空気が一変して安堵の色に変わった。

「心配を掛けて済まなかった。実は誤ってゴーレムの縄張りに迷い込んでしまい、クリスタルに助けてもらったんだ」

アレクがキャンプにいる隊員達へ事の経緯を報告しているのを隣で聞いていたクリスタルの元に1人の男が近づいた。

身長は長身のアレクより少し高いぐらいだが体格は正反対で細身のアレクに対し彼は肩幅も広く服の上からでも強靭な肉体が想像出来る。

「ご苦労だったな。クリスタル」

「お疲れ様です!ジーク隊長」

「怪我はないか?」

「ありません。ところでドラゴンのベビーの確認はどうなっていますか?」

「ああ、お前がアレク様を探しに行っている間に別部隊が確認したよ。確かに1頭産まれていたそうだ」

「うわぁ、希少なベビー見てみたかったです。でも良かった!では帰還ですね」

このキャンプの本来のミッションを無事にクリアし、帰れると分かりクリスタルの頬が緩んだ。だな、っとジークもつられて頬を緩める。

(毎日の様に顔を合わせてるけれど整ったお顔だなぁ。任務中の真面目な表情も素敵だけど、笑うと可愛いんだよね)

ジークの笑顔に照れてクリスタルは思わず頬を染めてしまう。

「ん゙っ!ん゙ん゙ん゙っ!!」

「……」

わざとらしい咳払いにクリスタルの緩んだ頬は一気に引き締まった。咳払いの主、アレクを見ると、彼は横目でジッとこちらを見下ろしている。

「君はジーク隊長と仲が良いのかな?」

「はぁ、上司ですから。何かとお世話になっています」

「ジーク隊長とは上司と部下…君と僕は婚約…」

「ビード国の第8王子アレク様とその護衛です!では、帰還準備に取り掛かりますので失礼します!」

「うむ、頑張ってね。ハニー!」

距離を詰めるアレクから距離を取る様に言葉を遮ったクリスタルに彼は負けじと距離を縮めて来る。

アレクと言う男は、鋼の心臓で他人の心に容赦なくズカズカと入り込んで来るが持ち前の朗らかさで何処か憎めない。更にきめ細かくなめらかな白い肌に整った華やかな顔立ちと艷やかなゴールドの髪。瞳は淡い優しげなブルー。長身で細身ではあるがソコソコに鍛えあげられた躰という王子様丸だしの容姿もあってか国民からの人気は非常に高い。そんな彼にハニーなどと呼ばれれば、どんな女性でも舞い上がってしまうところだが堅物なクリスタルは例外だった。

「ハニーって…あの設定いつまで続くのかしら」

疲れた…と頭を抱えるクリスタルだった。



ベビードラゴン誕生の確認から数日後、誕生を祝して王族主催の盛大なパーティが開かれた。

希少種のドラゴンは国に繁栄をもたらすと言われており300年振りのドラゴン誕生に国中が祝賀ムードで溢れている。

クリスタルが所属する魔導騎士部隊も今回は護衛ではなく、慰労を兼ねゲストとして招待されていた。

「やっぱりブルーのドレスにすべきだったかな…」

クリスタルは大きな柱の後ろに隠れながら窓に映る自分の姿を見ていた。肩と胸元が大胆に大きく開いた赤と黒のタイトなドレスは彼女のグラマラスな躰の魅力を存分に引き立たせている。少しクセのある柔らかなブラウンの髪をアップして彼女の愛らしい整った顔立ちを艶めかしく演出していた。

(露出多すぎたかも…でもブルーのドレスは胸がキツくて、そのせいで全然似合ってなかったし。これが1番しっくり来たんだけど…こんな胸の谷間出してる人いないし…あ、あの人も露出多めかも)

陰から会場の女性達のドレスをチェックしていると眼の前を通り過ぎようとしたジークと目が合った。

(隊長、カッコイイ!!)

ジークは普段の制服とは違う魔導騎士幹部の真っ白な正装に身を包んでいた。

艷やかな黒髪が撫で上げられ形の良い額を出しているせいで精悍さと色気が際立っている。

(な、何かエロイな)

クリスタルは自分の邪な心の声を払い除け、さり気なく胸の谷間を右手で隠した。

「お疲れ様です!ジーク隊長!衣装とってもお似合いですね」

「あ、あぁ、ありがとう」

ジークは酷く驚いた様子で目を見開きクリスタルの姿を上から下まで何度も凝視している。

「…ドレス姿は初めて見たが…いいな。凄く似合っている」

ふとジークの視線がクリスタルの胸元で止まった。

「ちょっと露出高めですよねぇ、スミマセン。ははは」

クリスタルは乾いた笑いで恥ずかしさを誤魔化した。

「そんな事はない。他の女性も同じか、何だったらもっと露出が高いぞ。良く似合っているから気にする必要はない。それで、こんな隅っこにかくれていたのか?皆あっちに居るから行こう」

スッとジークは肘を曲げてクリスタルに差し出す。

(エスコートしてくれるの!?)

初めての事にギクシャクしながらクリスタルは彼の腕をソッと掴んだ。頬を真っ赤に染めるながらクリスタルがジークを見上げると、彼はおどけたように片眉を上げて「行こう」と目で合図して歩き始めた。



会場をジークと歩いているとゲスト達の視線が2人に注がれるのを感じる。

(正装のイケメン騎士に露出狂の女がエスコートされて…あー!何でこんな事に!)

クリスタルが自虐的に視線を受け止めていると良く知った声が彼女の名前を呼んだ。

「クリスタル!」

ジークが声に反応して足を止めたがクリスタルは聞こえないフリをしてジークの腕を行きましょうと言うように押した。

「おーい!クリスタル!僕だよ!ハニーーーー!!」

会場のざわめきに負けじと大声で呼び止めてくるアレク王子。根負けしてクリスタルはアレクと視線を合わせた。

アレクは数人のゲスト、主に若い女性達の中心から大きく手を振って居場所をアピールしていたので、クリスタルはニッコリと笑って会釈をして再び歩き始めようとした。

「ちょっと、ちょっと!待って!」

アレクは取り巻き達を掻き分けてクリスタルの元に走り寄る。流石にジークが本格的に足を止めてしまったのでクリスタルも観念してジークから手を離してアレクの到着を待った。

アレクはクリスタルの前に立つと感極まったように両手を胸に当て優しげなブルーの瞳を潤ませた。

「クリスタル!なんて綺麗なんだ!ますます好きになってしまうよ!」

「あ、ありがとうございます」

「先日の調査での君の勇姿は本当に素晴らしかったよ!魔導騎士の凛々しい君も素敵だけど、今夜の君は最高に輝いているね!あっちのバルコニーのソファで話でもしないか?」

着飾ったクリスタルが余程お気に召したのか、いつもの倍以上のハイテンションでアレクが迫ってくる。

「今日は星空も綺麗で夜風も心地よいから、さぁ!」

流れるような動作で彼はクリスタルの細い腰を引き寄せようと手を伸ばしてきた。

「アレク様」

すかさずジークが2人の間に割って入りクリスタルを背中に庇う。

(ジーク隊長、ありがとうございます!)

「…それは…何ですか?」

たくましいジークの背中越しに彼の戸惑う声が聞こえた。ナニ?気になったクリスタルは、背の高いジークの肩越しに前を見るのは困難なので横からヒョイと顔を覗かせてアレクを見上げた。

「…は?」

思いもよらぬ光景に固まるクリスタル。

アレクのカタチの良い頭の上にチョコンと立っている

青い鳥と目が合った。

「アレク様、何ですか、その鳥は」

「ん?ああ!この子かい?可愛いだろう?君の次に」

アレクがウインクでクリスタルにアピールをすると、頭上の鳥はガガガッ!と激しめに彼の頭をつついた。

「イテテ、止めなさい。ホラ、頭から降りて」

そう言って指を差し出すと言葉を理解しているかのようにチョンッと可愛らしく指へ移動した。

「2日前にサブリナ嬢と庭園を散歩していたら噴水の水に溺れそうになっていてね。助けたその日から僕から離れないんだよ。義理堅い子だよ」

「ずっと一緒なんですか?公務の際には鳥籠に?」

「いや、放し飼いだよ。とても賢い子で側にいても邪魔はしないんだよ。君、鳥は好きかい?あっちのバルコニーのソファで…」

ポトリと鳥のお尻から半固形物がアレクの手に落ちてきた。

(賢い…ねぇ。でも、ナイス鳥!話を遮ってくれて有難う)

アレクの側に控えていた付き人が慌てて彼に拭くものを差し出すと、鳥は羽を羽ばたかせてクリスタルの肩に止まった。

小さな爪が素肌に直に触れてくすぐったい。鳥はチョンチョンと肩の上で跳ねていたがバランスを崩してしまいズルズルとクリスタルの胸の方へ落ちてしまい、最終的には彼女の露わになっているボリュームある胸の上に落ち着いた。

「なんと!!」

その様子を見たアレクは顔を赤く染めて片手で目元を覆いながらも指の隙間からチラチラとクリスタルの白い胸元を堪能する。

「其処から離れなさい!僕でさえ未だ触った事が無いのに」

(…見過ぎでしょ)

クリスタルは優しく鳥を両手で包み込んでアレクに差し出した。

「この子が無礼を働いたね。申し訳ない。お詫びにバルコニーのソファで話…」

「アレク様。我々は未だ陛下への挨拶が済んでおりませんので一旦失礼させてもらいます」

しつこいアレクの誘いをジークがやんわりと断わってくれてクリスタルの腰をそっと引き寄せた。

「あ、あぁ、そうなのか。じゃあ後ほど」

再び鳥を頭に乗せて明らかにテンションが下がるアレクだったが、クリスタル達が離れた途端すぐに数人のゲストに取り囲まれていた。

「あの鳥……何なんだ」

少し歩きだしたところでジークが思わず吹き出した。

「ホント変わった人ですよね。悪い人では無いのですが」

「お前も何で普通に接してるんだ。ははは!」

ジークは笑い涙を指で軽く拭いながら空いた方の手をクリスタルに差し出す。クリスタルは笑われた事の恥ずかしさと珍しいジークの砕けた態度への照れとで頬を赤く染めながら差し出された手に自分の手を重ねる。

「今夜のお前は美しく可愛いな」

「!!」

サラッと恥ずかしいセリフを何食わぬ顔で吐かれて完全に顔が真っ赤に染め上がってしまったクリスタルの反応も見ずに、ジークは彼女の手を引いて歩き出した。

そんな2人を遠くから恨めし気に眺めるアレクと、その頭に乗る鳥。


色んな意味で心を掻き乱された夜は華やかに過ぎていき幕を閉じた。

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