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淫乱と陰惨

指に絡まる蜘蛛の糸


 蜘蛛の巣が張っている。

 雨どいから屋根の下に伸びるように蜘蛛の巣が伸びている。


 部屋の隅に立てかけている小さな竹ぼうきで絡めとって追い出してもいいが、今日は雨だ。それに朝だ。朝蜘蛛は殺すなと婆様に言っていた。お天道様が見ている前でむやみな殺生は良くないんだという。雨の日だけれどもお天道様は見えていらっしゃるかな。


 ぽつりぽつり。風鈴代わりにはいい音色を奏でる雨音だ。

 曇り空にお天道様は出てやしないが、雲のシーツの真下からその威光だけが伸びている。

 まるで仏様の指先だ。


 雨の日には読書だ。

 晴れの日には労働だ。


 今日は雨だから本を読む。少し湿り気を帯びだしているから窓は閉めた方が本の為だろうが、それじゃあ本が主人で私が従者のように身を尽くしているようで癪だから自分のしたいようにする。


 本をぺらりぺらりと捲っていくと、背表紙からひょいと何かが飛び出る。

 黒い豆に赤いインクで彼岸花を描いたようなそれが指に絡まった。


 蜘蛛である。


 本を窓から放り出して、手を振ると黒蜘蛛が空中を泳ぐ。どうやら指先に早業で糸をつけていたらしい。ヨーヨーの要領で飛び跳ねる蜘蛛は嬉しそうではなかったが、私を脅かすように手足をじたばたさせている。


 憎たらしい。


 そう思っていたところで、雨音が耳に入り冷静になった。

 サーっと気が冷める。


「あ。」

 

 私は急いで放り出した本の行方を見ようと窓の外を見てみた。

 残念なことに本は泥の中に落ちていた。あれでは続きは読めまい。


 だが、それより私の眼が引いたのは天を覆う雲の隙間から巨大な黒い玉が飛び出してきたことだ。

 黒い玉は細い八本の筋を互い違いに振り回している。それは一種の精巧な機械のようで、でも人には理解しえない不気味さがあった。


 どうやら仏様の指にも蜘蛛が絡まっていたらしい。


 プツン。


 雨音の中で確かにそんな音がした。

 畳に落ちた蜘蛛が部屋のぬるぬるとした闇の中へ黒く溶けていく。


 私は急いで窓を閉じた。


 

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