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横島さんは気付かない  作者: スタイリッシュ土下座
4/5

あの時見た転校生の名前を僕達はなんとなく知っている

「今日は転校生を紹介する、入れ」


 担任の厳しい視線がその子へと飛ぶ。青色のツインテ。ダボダボに着崩した制服。ショボショボとした目を擦り欠伸をした。

 少なくとも漫画でよく見るテンプレ的な憧れの対象にはならなかった。


「ボクは根向田瑠美ねむけだるみ。数日前ぐらいからお邪魔してたけど今日から公式にこの高校に転校しました。よろしく~」


 彼女( ? )はそう言って教卓の上に寝そべった。当人曰く、どうやら極端に日中眠くなるらしい。


「自己紹介中に寝るな!制服をちゃんと着ろ!真面目な態度で答えろ!」


「え~。だって面倒臭いし」


 あの超絶怖い担任にも物怖じしない度胸は見習いたいが、あまりにも怠惰だ。しかし僕、片山はこの子に可能性を感じていた。


「根向田さん可愛い!ルミちゃんって呼んでいい?」


「えー、別にいいよ。勝手にどうぞ」


 ここに僕と同じく可能性を感じていた人がもう一人。横島コイツだ。もしかすれば変人同士仲がいいのかもしれない。


「以後、お前らは根向田を要監視対象として見張るように。以上」


「えぇ~?センセ酷いなぁ~ボクそんな悪い事した?」


「職員室行くか?」


「遠慮するよ~」


 根向田は渋々自分の机へと着いたのだが、途端にバタリと顔を伏せた。自己紹介の疲れからか不幸にも睡魔が襲ってきたらしい。


「もう知らん。勝手にしろ」


 激昂した担任は教室を後にした。俺達よりもキャラの濃い異物が混入したせいか教室はざわ……ざわ……と緊張している。

 そもそも中性的な見た目な以上、根向田は生物学的に男なのか女なのか。僕はそれが気になっていた。


 休み時間になり、真っ先に根向田の方へ向かったのだが、皆考える事は同じだった。

 クラス全員がその子に対して興味を持っている。


「……今日は止めとくか」


「行かないの?片山君」


「横島さん。いたのか」


「いるよ!でもあの子、何処かで見た事あるんだよね」


 僕は記憶を呼び起こした。そう言えば数日前、僕は根向田に出会った事がある。


「三話目の購買のレジの前で迷惑行為してたバカじゃん」


「三話目って……」


 僕がキメ顔で奴を指すと人波を掻い潜ってあの子はこちらへ向かってきた。


「誰がアホや」


「アホとは言ってないが」


「言ってないよ~」


「そっか~。ならいっか」


 横島がなだめると根向田は席に戻ろうとした。


「ところで根向田さん、聞きたいことがある」


「ボクの事はルミでいいよ。面倒臭いし」


「単刀直入に聞くけどルミちゃんは男なのか?女なのか?」


 根向田は薄目で答えた。


「企業秘密」


「「なんの企業だよ」」


「ボク疲れたから席戻って寝るね~。おやすみ~」


「「いや寝るなし」」


 珍しく横島と僕の意見が合った瞬間である。この根向田という青年……青年?淑女かもしれないが、只者ではない存在であるとお互いに理解した。


「横島さん。ゲーセン行かね?」


 根向田と会って数日経ったある日、僕は横島に提案した。


「何それ。新手のお誘い?」


「もうすぐシーズンも過ぎるからお花見も行けないし。ならゲーセンかなって」


「行かないよ」


 横島は丁重に断った。あれからイベントを幾つか提案したのだが、購買に行った時から僕の恋は一歩も進展していない。

 例のチャックの件には気付くのに僕の本当の気持ちには──。


「ゲーセン?ボクもよく行くよ~」


「根向田さん……じゃなかった。ルミちゃんか」


「ボク音ゲー大好きでさ~。一日50クレジットぐらいやった事もあるよ」


「廃課金だな」


 根向田は寝る事が趣味である。それ故にこういうイベント事は興味無いと決めつけていたのだが、こうなってしまったら仕方ない。


「ルミちゃん。放課後ゲーセン行くか」


「ごめんね~。今日塾あるから~」


「なんなんだよ。今のはゲーセン行く流れだっただろ普通」


 根向田は立ち去って行った。僕は一人寂しくコンビニで買った肉まんを貪りながらトボトボと家に帰るのだった。


 次の日の放課後、僕は横島に訊ねた。


「横島さん。ジェンガって知ってる?」


「やらないよ?」


 しかし何も聞いてないのに一発で沈められてしまった。彼女の僕に対する好感度は最低値を記録しているのだろうか?最近やけに横島が冷たい。


「ジェンガ楽しいよね~ボクと勝負する?」


「上等だ。やってやろうじゃねぇか」


 どうきゅうせいの ねむけだが しょうぶを いどんできた!

 だがコイツには負けられない。授業中もすぐに寝る。成績もビリな根向田には集中力というものが無い。この勝負、貰った。


「対戦ありがとうございました~」


「負けました」


 僕の番。ガラガラと音を立て塔は崩壊した。何故だ。僕は完璧なバランスで木の棒を引っこ抜いたはずである。奴を見くびっていたので勝利を過信しすぎていたのか、それとも──。


「ルミちゃん、ああ見えてバランス感覚だけはいいんだよね」


「マジか」


 横島の一言に僕は驚きを隠せない。春の終わりを告げる夕暮れ時の熱い風が僕の横を吹き抜けた。

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