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横島さんは気付かない  作者: スタイリッシュ土下座
3/5

午前中にお弁当ですか?

 僕、片山は教室で悩んでいた。どうにかして横島を花見に連れて行きたい。花見というのはいいものだ。桜の花びらが散る度にどこか切なく感じてしまうのはセンチな自分がいるからだろうか。

 授業も終わり、早速休憩時間に横島の机へ向かう。


「あのさ。横島さん、ちょっといいかな」


「ふぁんへふは」


 彼女は口をモゴモゴさせていた。机の上に目をやると既にお弁当を広げている。まだ二時間目もやってないのに。


「横島さん。そんなに早く食べたら午後お腹減るよ」


「ふぁっへ、ほははふひはんはほん」


「うん。まず飲み込んでから話そうか」


 彼女は口の中にあるものを飲み込んだ。


「だって、お腹空いたんだもん」


「お腹空いたからって早弁したら午後もたないよ。ちょっとは我慢した方が」


「やだ」


 彼女は食いしん坊だった。クラスの中では小柄な方の横島だが、こんな一面があるとは思っていなかった。


「分かった。こうしよう」


 彼女は顔を横に傾けた。


「僕が十秒数える間に好きなだけ食べていいよ」


「十秒超えたら?」


「以降は食べるの禁止。授業に集中しなさい」


「えー」


 横島はぷくーと頬を膨らませた。仕方あるまい。これも彼女の為だ。


「じゃあ数えるよ。いーち、にーい」


「ほひほうはま」


 ありのまま今起こった事を話そう。僕が二秒数える間に横島は半分近くあった弁当を全て平らげていた。何を言ってるのか分からねーと思うが僕にもよくわからん。


「食べるの早いね。横島さん」


「鍛えてますから」


「頬の筋肉を?」


「うん」


 正直僕は彼女の食欲を舐めていた。ダ●ソンの掃除機並に弁当を貪り尽くした彼女の目は満足げだった。


「もう少しゆっくり食べた方がいいよ。健康の為にも」


「オカンかよ」


「僕はオカンみたいなものだよ。横島さんの」


「素でそんな事言えるのちょっと引く」


 チャイムが鳴ったので、僕は席に戻った。授業中、確かに僕はウザかったと反省し項垂れていたので、前からチョークが飛んできた。どうやら寝ていると思われたらしい。


「お腹空いた~」


 四時間目が終わり横島は飢えていた。午前中に弁当を全て食べ尽くした彼女は獣の様な目つきで僕の弁当を睨んだ。


「あげないよ?残念だけど」


「片山君~。ちょっとでいいから!先っちょだけ」


「だからあれほど早弁するなと言ったじゃないか。というか何だ先っちょだけって」


 横島はグスンと半泣きのまま席に戻ろうとした。ここは早食いさせた僕の責任もある。弁当を食べるのを止め、彼女に提案した。


「購買へ行こう」


「でもお金持ってないよ?」


「いいから。今日は僕が出すよ」


「お弁当はくれない癖に優しいんだね」


「一言余計だ」


 彼女は単純だった。僕の横をそわそわした感じで着いてくる。そんなに購買へ行くのが楽しみなんだろうか。僕は不思議に思った。


「あのさ、片山君」


「なんだよ」


「窓開いてるね」


「あぁ、今日は風通しがいいからな。換気のために開けてるんだよ」


「そうじゃなくて」


 僕は首を傾げた。何か伝えたい事でもあるのだろうか?何も伝わらないのだが。


「ほら、着いたぞ。購買」


「そうなんだけど」


 彼女は落ち着きが無く何かを主張したがっている。何がそんなに問題なのだろう。

 ふと横を見ると何やら購買レジの前でおばちゃんと見かけない顔の女の子が言い争っている。


「だからいいじゃん。パン一個分の代金ぐらい。ボクもう眠いんだけど」


「ちゃんと払ってください!こっちも慈善でやってる訳じゃないんです」


「分かったよ。ダルいから買うの止める。じゃあね。おばちゃん」


「あの子は本当にもう……」


 購買のおばちゃんは頭を悩ませていた。僕は焼きそばパンを片手にレジに向かい、問いかけた。


「どうしました?」


「あの子、いつも購買に現れてはレジ前にたむろするんです。そのせいでレジが混雑しちゃって」


「それは大変だね。おばちゃん」


「それが毎日来るから本当に大変で……。転校生かしら?あの子」


「僕は知らないよ。ねぇ横島さん」


 横島さんはプルプルと震えながら顔を縦に振った。


「片山君も大変だよ……?」


「え?僕は関係ないけど」


「だって、チャック……!」


 僕は現状を知って愕然とした。教室から購買ここに来るまでの間、ズボンのチャックを下ろしたままだったのだ。僕は真顔でチャックを戻し床に手をついた。


「ごめんね、横島さん。もっと早く気付けば良かった」


「そんなに落ち込まないで。ほら、お昼ご飯食べよ?」


 その後横島さんは(当然だが僕の奢りで)菓子パンを買い、近くの休憩所で食べた。


「そういえば購買のあの子、何処かで見覚えがあるような」


「片山君、知り合い?」


「いや、別に」


 僕は何も考えずに焼きそばパンを頬張った。いつもよりソースの酸味と塩味を強く感じた。

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