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七、現実

 現実は。


 会合の場所は近くの公民館になった。当然秘宝館にも十分なスペースがあったが、いかんせん暑い中、エアコンの恩恵に預けられないのでこの場所となった。

オーナーと二人で入ると、3人の男性が先にいた。彼女は明にその方達を紹介した。温泉組合の会長さん、観光課の部長さん、そしてパトロンともいえる出資者のロマンスグレーの紳士。

 明は固い話になるのかなと思っていたが、いきなり会長さんから酒を振舞われ、車座になり座るとざっくばらんとした様相になってきた。

「とりあえずお疲れ様です」

 オーナーの言葉でみんなが缶ビールを掲げる。

「さてこれからの秘宝館ですが・・・」

 明は開口一番に話を切り出した。が、

「まあ、飲みぃ」

「はあ」

 紳士は話を折りビールを飲んだ。

 彼はやむなく缶ビールを飲み干す。しばらくたわいのない世間話が続いたが、ふいに静寂の時が訪れると、

「まあ健全なる温泉街の形成という面では秘宝館が廃館になることが望ましいことなんでしょうが・・・個人的には無くなるのは寂しいですな」

 部長がポツリとつぶやいた。

 会長はそれに頷き、

「表向きは不健全、でも裏を返せば古きよき遺産ですからな、秘宝館はいわばこの町のシンボルでもある」

 紳士はビールから、お酒に代わると自らをお銚子を持って、回ってみんなのお銚子に注いでいたが、

「時代の波でしょうか、お客さんが1人減り2人減り、日によっては誰も来ない日もあり、経営は悪化・・・そして私たちも年を取り過ぎました。そろそろ潮時じゃないかと」

「・・・あなた」

 オーナーは小さく呟いた。明はこのとき、2人が夫婦であることに気づき、驚いた表情をみせる。

 重苦しい沈黙が訪れた。

・・・・・・。

・・・・・・。

 明は思いきって発言する。

「でも僕は秘宝館を素晴らしいと思います。そこが閉館と聞いた時はショックでした。同じ思いの人はいっぱいいるんじゃないでしょうか」

「まあ、あなたみたいにここに残って、行動に移した奇特な人はいなかったけど」

オーナーはクスクスと笑った。そして表情を引き締め、

「どうでしょうか、皆さん私は、楽しみにしている人がいる限り、もう少し頑張って続けていきたいと思っています。彼のように熱意を持って存続を望んでいる人もいることにはいます。ただ今までどおりやっていたのでは、きっと立ち行かないことでしょう。どうしたら秘宝館が再建できるのか皆様も考えてくれませんか」

 オーナーは自分の思いを打ち明けた。

 ここにいる皆の本心は基本存続で同じなのだ。

 再び静まり返るその場、そして一旦みんなで後日、案を持ち寄ろうという会長の言葉で締められた。こうして、存続という今にも切れそうな細い糸はかろうじて繋がったのだった。

 明は今自分に何が出来るのかを問いかけていた。



 厳しい。

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