四、迷走、ふたり
訪れたのは秘宝館。
完全にお金の余裕を失ってしまった二人は、尻尾を巻いて帰ることとなった。
残金は飯代とガソリン代、高速は使わずひたすら下道を南下する。
しかしこういう結果に終わってしまっても不思議と明に後悔はなかった。
車での車中泊はもちろん昼夜を問わず車を走らせた。
おかげで U ターンを始めてから三日目の朝に山口県の下関トンネルを通過した。
残金は1万円。
そんな時、明はふと思った。
(そうだ秘宝館へ行こう)
我ながら妙なこと思いついたと感じながらも、心にそれを伝えると、
「なに秘宝館て?」
「とてもいいところさ」
「ふーん、別にいいけど」
「よし決まり!」
進路を大分方面に変える。
これが自身の人生を変える選択になってしまうとは明は知る由もなかった。
海岸線の道を走らせ目的地別府へと向かう。
温泉地鉄輪の地獄巡り専用の駐車場に停めると、温泉の地熱からあたためられた湯気がもうもうと辺りを包んで、硫黄の匂いが立ち込めている。そこを歩くこと数分で場違いなお城のような建物が見えてくる。
二人は秘宝館の前で足を止めた。
そこで明は受付のところに張り紙が貼られているのに気がついた。
「当館は今月いっぱいまでの営業となります。長い間皆様のご愛顧誠にありがとうございます」
「まじか・・・」
明は思わず呟いた。
「・・・・・・」
無言で心の手を繋ぐと、足早に彼は秘宝館の中に入った。
変わらない世界観も、もうこれが見れないのかという妙な焦燥感が、ずっと明の心の中を覆っていた。
蝋人形たちも日活ポロマンポルノもデカ○ラも春画も、心あらずで見て回るがひとつひとつが、やはり心を揺さぶった。
心のちょっぴり引き気味の反応も彼には全く目に入らない。
「ねぇ、ね、明くん明くんってば!」
「ん、ああ」
「あそこに白雪姫がいるよ」
「ああ、あれはシタ雪姫だよ」
「・・・・・・」
この秘宝館1大スポット(本人はそう思ってる)である蝋人形のジオラマ?シタ雪姫が寝ている周りに7人の小人たちが取り囲み、姫のあそこを覗き込むという機械仕掛けの人形たちであった。
不思議な音楽に合わせて、人形は軽快でかつ卑猥に動く。
「・・・う・・・」
心は白雪姫に夢を潰されたような思いがして、苦い顔を見せる。
一方明は、
「やっぱりこの素晴らしい文化を絶やしてはいけない」
そんな使命感のようなものを感じずにはいられなかった。
明の足は自然と受付へと向かう。
おばちゃんと目が合う。
「・・・ここを潰したくないんです!お手伝いさせてください」
心の叫びが言葉となって出た瞬間だった。
これは運命・・・かな。