ニ、ふたり旅
あてもない旅。
旅はその日の夜中から始まった。
熊本のアパートを出発、夜の高速を走る。
めかりパーキングエリアで仮眠をとり、起きると朝焼けの関門海峡を眺めつつ2人は自然とキスをした。
「なんだか楽しいね」
くすりと笑い心はつぶやいた。
「ああ」
明は破顔した。
車は九州を抜けると、下関インターを降り日本海側を北上する。
「どこに行くの」
「とりあえず出雲大社」
「ふーん」
助手席の心は、手早くナビの目的地をセットしつつ、
「神頼み?」
聞いてみる。
「うーん、どうなんだろう」
「そっか」
心は両手を組んで宙に上げると思いっきり伸びをした。
ロングドライブは続く。
ようやく昼前に目的地へと着いた。
整然と厳粛にそびえ立つ退社の姿に2人は圧倒された。
「大きいね」
「うん」
大社の本殿前まで来ると明は何を願うのか迷った。これから先のことを神頼みというのもなんだかなという思いがこみあげて、とりあえず賽銭を投げ柏手を打ってみた。
(旅の安全をお願いします)
明は月並みな願いしか思い浮かばなかったが、これでいいと思った。
ちらりと横目を動かすと、心は真剣な顔でまだ両手を合わせて祈っていた。
(きっと俺のことだろうな)
と明は思うと、嬉しくもあり情けなくもあった。
彼は彼女の手を引くと神殿を後にした。
そして三日目は京都、四日目は金沢と旅は順調に進んだ。
明は次第に旅が楽しくなっていた、新しい景色を見るたび自然と心が踊った。
「心ちゃん兼六園行く?」
「う、うん」
「どうかした?」
昨日から明らかに、心は元気がなかった。
明は右手でハンドルを握り運転しつつ、空いた左手でサイドシートに座る心のおでこを触った。
「熱い···ねえ」
「ん?」
「熱あるじゃんか」
「そう、大丈夫、だいらうぶ」
彼女の言葉を羅列が回っておらず、顔は真っ赤で表情も虚ろだった。
「あのなあ、病院行くよ」
明を最寄りのコンビニに車を停めると、ナビで近くの病院を検索し始める。
「あったあった、ここだここ」
「···やっぱだめ」
「何が?」
「バタバタして出てきたから、私保険カードを持ってきてない」
「だから」
「もったいないなと」
「却下、優先順位を間違えるなよ」
「はあ」
「ひとつ心ちゃん後はなし」
「ごめん、ありがとう」
心を医者に見せたあと、夜は金沢市内のビジネスホテルに泊まった。注射と解熱剤のおかげで熱は下がり彼女はベッドの上で静かに寝息を立てている。明はソファーに腰掛けながらテレビの音量を小さくしチラチラ気にかけながら見ていた。
明は寝ている彼女にキスをしようとしたが、寸前のところで唇に人差し指が当てられた。
「ダメよ風邪がうつっちゃう」
「······」
「明君まで倒れたら、本当に駄目になっちゃう」
「···うん」
彼は大人しく頷いた。
旅はいいよね。