プロローグ
秘宝館・・・それは男子の夢・・・いや女子も・・・すべからくみなさんの夢。
秘宝館···その言葉には甘美な匂いがする。
昭和の香り漂う世界。
しなびた温泉場に背徳感を唆る佇まい。
裏町の風俗街。
いろんな意味でノスタルジックでファンタスティックなアミューズメントパークである。
そんな昨今、男たちのオアシスとも呼ばれるべき場所が、経営難など様々な理由により相次いで閉鎖されている。
この物語はそんな現状を打破すべく立ち上がった男の苦しみと葛藤、そして愛しさと切なさを描いたお話である。
プロローグ
あれはいつの日だったか··そうだ10年前夏に社員旅行に行ったあの日あの時。
「すげえ、なんだここ!」
同僚が叫んだ。
「ああ」
冷静を装う俺。
思えば初めから最後まで異様な光景だった。
お城のような外観に裸の女体人形が数体あり、そこには裸美と銘うたれたモニュメント。
外観の豪華絢爛さに比べると、申し訳なさそうに狭い入り口。
中に入ると薄暗く、真夏なのに冷房が故障しておりサウナ状態、見ず知らずの俺に容赦のないマシンガントークをかましてくる受付のおばちゃん。その周りを囲むガラスケースには大人のおもちゃや精力剤といったありとあらゆる性のおみやが達が、所狭しと並んでいる。
とりあえず薄暗い世界を順路通りに歩いてみる。ショーケースの中の蝋人形たちは、微妙な設定の性世界を、身をもって体現してくれている。それ等は備え付けのボタンを押すとそういう行為がなされる。
一部紹介すると昔懐かしい、ちんどん屋を彷彿とさせるメロディーが流れ、
「かぐや姫の○○返し」
とスピーカーから声高らかに聞こえると、なぜか竹取の翁が姫の両足を持って、え~い。御開帳あられもない姿の彼女の秘部がさらけだされる。それを陰から見ている帝。見事としか言えないシュールさである。思わず苦笑いをしてしまう、興奮を誘うものではないが···。
DVD やビデオがなかったご時世には、こういうのをおかずにしていたのかなと考えると、昔の人のたくましさを感じ、今を生きる我々は何と恵まれているのだろうと一瞬思わなかった。
「な、これは」
「ああ」
昭和初期を思わせるような看板には、日活ロマンポルノ上映中と書かれてある。
その部屋に入るとさらに真っ暗で、劣悪な緑がかった映像で、男優が未亡人に襲いかかり、今まさにイタそうとする所だった。
「たぶん昔は興奮したんだろうなぁ」
「ああ」
俺たちは映像のボルテージが上がる前にその場を離れた。
大人の大学はなおも続く、覗き穴があり、そこを覗くと女人の行水が見える。数々のいかがわしい石像。48手が描かれた春画。併設された珍宝神社なるものまであり、ぶっとい珍宝(棒)様に触れれば、絶倫、子宝にも恵まれるという、ありがたいものだった。
とりあえずその馬鹿でかい巨大珍棒を触ってみた。いつまでも···いや、そこそこ元気でありますようにと。
「明、意外とつまんねーな」
同僚がつぶやく。
「そうか俺は意外といいかも」
俺こと藤原明は自然とそう答えた。
「お前って昭和だな」
「ああ昭和だ」
俺は珍宝様の脇に置かれた賽銭箱にご縁がありますようにと5円を投じた。
思えばこの日からご縁が始まったかと思うと、奇妙かつ珍妙で、つくづく人生とはわからないものだと思った。
はじまっちゃいました(笑)。
ぼちぼち、よろしくお願いいたします。