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小話とか卒業パーティとか等

恋はダンスと共に花開く(アンリエッタ伯爵令嬢の失恋から真実の恋へ)

作者: ユミヨシ

アンリエッタ・ルイストン伯爵令嬢は、王立図書館に勤めていた。

王立図書館とは、国の重要な図書を集めて保管している図書館である。

その他にも色々な文献を扱っており、貴族であれば、貴重な図書以外の図書は借りる事も出来た。

その図書の整理をしている人員の一人がアンリエッタという訳である。


図書館長は、シエルド・ロードアスタリンゲン大公。この国の王の歳の離れた弟であるが、

書物が好きな変わり者で、図書館長の職を自ら望んで就任し、貴重な図書に埋もれて、一日中、過ごしているという変わり者であった。


そんなアンリエッタの息抜きと言えば、仕事が休みの日に、王立図書館の傍にあるカフェで、紅茶を飲みながら、

本を読む。それがアンリエッタの趣味で会った。


最近、よく見かける品の良い青年。実はその彼を見るのも、楽しみになっていたのである。

長い黒髪を後ろに束め、優雅な手つきで紅茶を飲み、白い指先でページをめくるその姿は、

一幅の絵画のようで。


本を読むふりをしてアンリエッタは、その青年を今日も眺めていた。


ああ…今日も麗しい…。どこの貴族の方かしら。

私、夜会に行ったことがないから。


アンリエッタもそろそろ18歳。社交デビューをしても良い年頃である。


素敵なドレスを着て、書物を読んでいる素敵な青年のような人にエスコートされたら。


想像するだけで、胸がドキドキしてしまう。


じっと見ていたら、目が合ってしまった。

青年が立ちあがって、こちらに来て、


「よくこちらでお見掛けしますね。私はレナード・シュテンハプスド。シュテンハプスド公爵の子息です。貴方は?」


「アンリエッタ・ルイストン。ルイストン伯爵の娘です。公爵のご子息様なのですね」


「あ、君が読んでいる本…私も、以前、読んだ事があります」


「まぁ、レプストン家物語を?」


「ええ。いかにしてレプストン家が滅びたか、興味がありまして」


「私もですわ」


レナードと共にアンリエッタは、レプストン家物語について、話が盛り上がった。


ああ、私は、今、憧れの人と話をしているんだわ。


アンリエッタはそれこそ、天にも昇る心地だった。


他にもレナードに、お勧めの書物を教えてあげたり、レナードが読んで面白かった書物を逆に教えて貰ったり、あっという間に時間が過ぎて。


レナードが慌てて立ち上がり、


「こんな時間になってしまった。又、会えるかな」


「私はお休みの日は、大抵ここにおりますから」


「それは嬉しい。私は毎週という訳にはいかないが、又、会えたら色々と話をしよう」


そう言って、レナードは、カフェの支払いもしてくれて、行ってしまった。


幸せなひと時だったわ。


又、会えるといいんだけど…。


アンリエッタも幸せな気分で自分の家に帰ったのであった。



翌日は仕事で、図書の整理をしていると、図書館長のシエルドに声をかけられた。

シエルドは、ぼさぼさの髪に、ずり落ちそうな眼鏡をかけて、ぼんやりとした表情で、


「おはよう。あれ?何だか機嫌いいようだな。いい事でもあったかね?」


「うふふ。解ります?素敵な人に会ったので、ご機嫌いいんです」


「素敵な人???」


何だか、シエルド様が眉を寄せて、急に不機嫌になったような気がしたんだけど…。


「ええ。ああ、シエルド様には内緒です。幸せだわ」


シエルド様には関係ない事だし…


レナードにまた、会えるかもしれない。そう思うだけで、アンリエッタは、幸せだった。



そして、一週間はあっという間に過ぎて、


アンリエッタはいつもより、お洒落をして、カフェに行き、本を広げる。


レナード様に会えるといいんだけど…。



すると、扉を開けて、レナードが入って来た。

手には書物を数冊抱えている。


「アンリエッタ。又、会えたね」


「レナード様。こんにちは」


「今日は君にお勧めの書物を持ってきたんだ」



アンリエッタが好きな歴史物で、

レナードは一冊一冊の書物がいかに面白いか、丁寧にアンリエッタに説明してくれた。


「これ、お借りしてよろしいのですか?」


「勿論。アンリエッタの為に持ってきてあげたんだ」


「それじゃお借りしますね」


この日も、本の話題で盛り上がった。

アンリエッタは幸せで幸せで、時が止まってしまえばいいのに、

そう思ったりした。



それから、何度か、レナードに会って、書物の話で盛り上がったりしたのだけれど、


レナード様…私の事、どう思っているのかしら…。

デートに誘われる訳でもないし、好きと言われている訳でもない。

ああ…そうだわ。一月後、王宮で大規模な夜会があるんだったわ。

レナード様にエスコート頼めないかしら。

思い切って頼んでみようかしら。


アンリエッタは、今度、レナードに会った時に勇気を出して、エスコートを頼んでみることにした。


いつものごとく、レナードに会い、カフェで、書物の話題で盛り上がった後に、紅茶で喉を潤して、アンリエッタは意を決して、レナードに頼んでみた。


「お願いがありますの。今度の夜会…。私のエスコートをお願いしたいのですが。

社交界デビューをそこでしたいのです。レナード様がエスコートして下さったら私、幸せですわ」


すると、レナードから信じられない言葉が返ってきた。


「それは困る。私には婚約者がいるのでね。当日は、マリアーネ・アレクシアス公爵令嬢をエスコートする事になっている。申し訳ないね。まさか、君は私と恋人になれると思っていたのか?」


「え???わ、私は…」


「伯爵令嬢の分際で…。私にふさわしいのはマリアーネしかいない。君は私にとって単なる友達だ。そこの所をわきまえていて欲しい」


そう言うと、レナードは立ち上がって。


「気分を害した。失礼する」


カフェを出て行ってしまった。


私はレナード様の事、好きだったのに…。レナード様には婚約者がいて…

私はただの友達だったなんて…。


胸が締め付けられる。

悲しくて悲しくて涙がこぼれた。





翌日、アンリエッタが泣きはらした顔で王立図書館で仕事をしていたら、シエルドに声をかけられた。


「どうした?失恋でもしたのか?アンリエッタ」


「シエルド様…」


涙がこぼれる。座りこんで、アンリエッタは泣きだした。


だって、あまりにも悲しかったから…。


「失恋しましたっ…。好きだったのに…。相手には婚約者がいて。

私の事は友達だからって、私、王宮の夜会でエスコートして貰いたかったんです。

でもでも、断られてしまって」


シエルドはアンリエッタの肩に手を置いて、


「そういう事もあるさ。今は悲しくても、いつか思い出に変わるから。

で?君を振った相手は誰なんだ?」


「シュテンハプスド公爵のご子息のレナード様ですっ…」


「ああ、それはまた、凄い所のご子息と。あそこの公爵家は国で五本の指に入る程の権力と領地を持つ公爵家だから。兄上も気を使って接している位だ」


「アシュットラルト国王陛下がですか?」


「ああ。だから、ルイストン伯爵家では太刀打ち出来ないと思うが」


「やはり身分違い…私、私っ…」


「そうだ。今度の夜会。君は社交界デビューしたいんだろう?」


「いいんですっ…そんな気分では…」


「俺がエスコートしてあげるから。」


「え???シエルド様っ???」


「アンリエッタは良く働いてくれるし、感謝しているんだ。

だから、俺にエスコートさせてくれ」


「い、いいんですか?」


「勿論。そうと決まったら、ドレスを贈ろう。それから、ダンスの練習をしないと」


「ダンスですか?」


「このままじゃ悔しいだろう?あのレナードと、確か婚約者はマリアーネ・アレクシアス公爵令嬢。あの二人は社交界の華なんだ。美しいカップルで、ダンスを踊ると、皆、そちらに注目が集まる。話題の中心で、いつも大勢の人々に囲まれていてね」


「シエルド様は夜会に行かれるんですか?」


「俺を誰だと?兄上の頼みで仕方なく。一応、ロードアスタリンゲン大公で、シュテンハプスド公爵家に負けない位の領地は持っているが」


「そんな偉い方にエスコートをして頂くのは、申し訳ないです」


「俺がしたいんだ。アンリエッタ…」


え?何、この展開は…。なんだかドキドキするわ。


アンリエッタが胸を高鳴らせていると、シエルドは、


「これから一か月、ダンスの教師を呼んで、ダンスの練習を徹底的に行う。

いいか?アンリエッタ」


「よろしくお願いしますわ」



こうして、アンリエッタとシエルドのダンス特訓は始まった。


シエルドはアンリエッタに、華やかな桃色の裾にボリュームがあるドレスを贈ってくれた。

金髪にアイスブルーの瞳のアンリエッタに、その優しい色合いは良く似合う。


王妃様の化粧をしている専門のメイドが、アンリエッタに化粧のやり方を教えてくれて。

ぱっとしなかった顔立ちが見違えるように綺麗になった。


ダンスの先生は、ダンスだけでなくて、優雅な仕草や、食事のマナー、高貴な令嬢の話し方等。色々と教えてくれた。だから、アンリエッタは話し方を、わたくしに変えて品を出すことを試みるようになった。


ダンスの特訓には、シエルドも共に参加してくれて、

最初は苦労していたダンスのステップや、シエルドとの呼吸の合わせ方も、

だんだんと覚えて。そして、大分踊れるようになってきた頃。

ついに、夜会の当日がやってきた。


アシュットラルト王や王妃、そして貴族が大勢集まる中、

その夜会は王宮の広間で行われた。


レナード・シュテンハプスド公爵子息のエスコートで現れたマリアーネ・アレクシアス公爵令嬢。レナードが黒の貴族服で現れれば、マリアーネは金の髪を縦ロールにして、ブルーの胸元が開いたドレスでそれはもう美しかった。


広間にワルツの曲が流れれば、レナードのリードでマリアーネが踊り出す。

大輪の花が咲いたような、華やかさで皆の注目を浴びる。


いつもはだらしない恰好をしているシエルドは、ぼさぼさの金の髪を整え、白衣の貴族服を着こなして、アンリエッタを完璧にエスコートしてくれて、


「アンリエッタ。さぁ、俺たちも踊ろう。」


「そうね。踊りましょう。」


レナードとマリアーネのカップルの近くで、シエルドとアンリエッタは踊り始める。


シエルドの力強いリードがとても好ましくて。


あ、わたくしを見て微笑んでくれたわ。

この人、こんなに素敵でしたかしら。

わたくしは幸せだわ。こんな素敵な社交界デビューが出来て。


シエルドと共に一曲踊り終えたら、周りから拍手が沸き起こった。

人々がシエルドとアンリエッタの周りに集まる。


「ロードアスタリンゲン大公。そちらのお嬢様は、どちらのお嬢様ですか?」

「見事なダンスでしたわね」

「薔薇が咲いたようでしたわ。可愛らしくて美しい薔薇が」


アンリエッタは恥ずかしくて恥ずかしくて。

シエルドが、肩を抱き寄せてくれて。


「こちらは、俺の婚約者のアンリエッタ・ルイストン伯爵令嬢です」


アンリエッタは驚く。


「ええ?わたくし、聞いていないわ」


シエルドは、微笑んで。


「君の両親に話はして、許可を頂いた。どうか俺と結婚して欲しい」


「は、はいっ。喜んでお受けさせて頂きます」


信じられない。プロポーズされるなんて、もう、幸せで幸せで思わずどもってしまったわ。


アシュットラルト王が近づいてきて。


「私はやっとシエルドが身を固める決意をしてくれて嬉しいぞ。なんせ変わり者だからな。

よろしく頼むぞ」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


習った通りに優雅に王と王妃にカーテシーをする。


レナードが近づいてきて。


「アンリエッタか、随分と変わったな。美しくなった」


「だって、わたくし…」


シエルドの腕に手を添えて。


「恋をしましたもの。ロードアスタリンゲン大公と婚約をさせて頂きました。

身分をわきまえないで申し訳ないですわ。これからは、社交界でお目にかかる機会もあると存じます。その時はよろしくお願い致しますわね」


扇を手に優雅に微笑んで、レナードを見やる。


レナードが唖然とした顔をした。

マリアーネが扇で口元を隠しながら、アンリエッタを見た。

そしてレナードを睨む。


アンリエッタは、伯爵令嬢から、大公夫人になるのだ。

何を言われようが、この二人と対等に渡り合える。

怖くはなかった。


シエルドがアンリエッタに、耳元で囁く。


「愛しているよ。愛しのアンリエッタ。曲が始まったようだ。もう一曲お相手を」


「喜んで」


愛しのシエルドと共に、広間の真ん中で踊るダンス。


そう…わたくしは、もう過去は顧みない。愛しのシエルド様が、わたくしを助けてくれた。

だからわたくしは、シエルド様と共にこの社交界の華になってみせますわ。


後日、レナードから、又、カフェで紅茶を飲みながら、書物の話をしたいなどと、とぼけた手紙がきたりしたので、アレクシアス公爵家に転送しておいた。

まぁ、それで婚約破棄にはならないだろうが、夜会の時に、レナードの頬に引っかき傷があったのを見た時には、何だか心がスっと晴れ渡るような気がした。


アンリエッタは、大公夫人になってからも、シエルドとダンスに凝るようになり、レナードとマリアーネ公爵夫妻とは、ダンスの勝負を縁に長年の良きライバル関係となった。


大公夫人として社交界の華になりながらも、変わり者の夫の図書館の仕事を手伝って、

子供にも恵まれ、アンリエッタは幸せな生涯を送ったとされている。


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