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なんかすごい性能の宇宙船を拾った  作者: 工具
03_Club-CrabClub

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03-23

 ある日、新エルフ星のある恒星系へ≪金剛城(こんごうじょう)≫とは無関係の船が訪れた。


 今までも難民船がちょこちょこやってきていたのだが、そういった船はほとんどが無機質美人のホログラムに誘導されたものだった。お隣の銀河からやって来た難民船団は例外だろうか。いや、あれも確か無機質美人のホログラムが何かやっていたはずだから、今のところ≪金剛城(こんごうじょう)≫と完全に無関係の船は新エルフ星のある恒星系へやってきたことが無い。


 そう。今回やってきた船は、≪金剛城(こんごうじょう)≫とのかかわりが完全に皆無な船だった。

 その船からオープンチャンネルで飛んできた通信によると、なんか最上位権限がどうの、コードなんとかがどうとか、正統な継承者が云々。俺に分かったのは、全権限を誰かに委譲するらしいということだけ。なんなんだ。


「あれ? これお姉ちゃんのIDだ」


 姉妹がいるのは駐在エルフさんの姉妹だけだが、声が違う。というか無機質美人のホログラムの声に聞こえる。ホログラムの声って字面がおかしいけど今更か。


「あ。えー」


 何時にない事態ということで≪金剛城(こんごうじょう)≫クルーはコントロールルームに集まっており、その全員から訝し気な視線を向けられた無機質美人のホログラムは珍しく明らかに狼狽えた。……と思ったらにこっと笑っていつもの無機質な感じになった。


「少し時間をください」


 そう言って無機質美人のホログラムの動きが止まった。処理落ちかな?

 皆がなんとなく視線を交わして無言の意思疎通を済ませ、何もなかったことになった。余分に頭痛の種を抱える必要はない。

 無機質美人のホログラムは突如やって来た船と全く関係ないが、それでも彼女に任せておけば何かしら良い感じに事を治めてくれると信じる。それが信頼ってやつだ。たぶん。


 ――要求というか要望というかは受信したので検討している。(しば)し待て。


 対外折衝を任されがちなムチムチ美人さんが、名も知れない船にそんなニュアンスの端的な通達を行った。

 無機質美人のホログラムを待つ間どうしようかとダラダラしていたら、何の前触れもなく無機質美人のホログラムの周囲にホロウィンドウが大量に展開しては閉じられ始めた。ビビッて持っていた飲み物ぶちまけるところだった。


「帝国宙軍総旗艦【強襲戦艦オルシャネウス・オルシア】の掌握が完了しました。同型艦の設計図も取得しましたので建造が可能となりました」


 パッパッパとホロウィンドウが開いて閉じてを繰り返すのを見ていたら、ホロウィンドウが最後の1枚になったところでそんなことを言われた。

 俺の頭は理解を拒んでいる。

 さりげなく周囲にいる面々を伺うと、誰も俺と視線を合わせようとしない。この件は俺に預けられているようだ。


「あれ、あの船って帝国宙軍の船なんですか?」


 当たり障りないところから確認をしてみる。

 インプラントデバイスがついさっきの聴覚が拾った音もログとして残してはいるけど、もしかしたら俺が聞き間違えただけという可能性も皆無ではない。

 常に、いかなる可能性も、皆無ではない。誰か偉い人がそんなことを言ってた気もする。


「帝国宙軍の総旗艦です。あの船が出陣した戦場においては敗北の記録が存在しない、特定銀河の一部宙域に一時期な覇権国家を生み出した最重要兵器と表現しても間違いではない宇宙船です」


 ちらっと見えたムチムチ美人さんと先輩さんとリーダーさんは、3人並んで天を仰いだ顔を両手で覆っている。

 いや、まだ大丈夫だ。俺の知っている、俺の出身国である帝国の宙軍を象徴する総旗艦と呼ばれる船ではない可能性はもう限りなく皆無に近い。しかしそうだとすると欠かせない要素を告げられていない。つまりまだその船ではないかもしれない。できればそうであってほしい。


「付け加えるならば――」


 無機質美人のホログラムがそこまで言った段階で、さっき見えた≪金剛城(こんごうじょう)≫の真面目筆頭3人組はコントロールルームから逃げ出すべくダッシュで扉へ向かった。

 3人が開こうとした扉は、なぜかロックされていていた様子でバンバンと扉を叩いている。ふはは。逃がすものかよ。


 逃げようとした真面目筆頭3人組を除いたコントロールルームにいた≪金剛城(こんごうじょう)≫クルーは、すでに思考を放棄してだらけきっている。

 いつのまにか怠惰マットという名前がつけられた、食堂隅のリラクゼーションスペースを始め≪金剛城(こんごうじょう)≫のあちこちに敷いてあるマットを持ち出して寝転がったり、壁の収納からテーブルセットを展開してティータイムと洒落込んだり、各々が現実逃避を体現していた。

 俺もそっちのグループに混ざりたい。


「付け加えるならば帝国において帝位継承者の戴冠式に現れ正当な皇帝であることを示す、レガリアと見做されている宇宙船でもあります」


 コントロールルームの出入口で扉をバンバンしていた3人組が崩れ落ちた。

 現実逃避をしていた内の何人かがその3人組の手を引いたり背中を支えたりと寄り添い、一緒にテーブルを囲んでお茶を飲み始めている。

 俺もさっさとあそこに混ざらせてほしい。


 俺の内心を察したのか、無機質美人のホログラムがうんうんと頷いている。

 わかってるならなんでさっき受け入れ手続きしちゃったんですかね。


 あの船が俺の知っている帝国宙軍の総旗艦だというのは確定したが、最も大事なのはアレが帝国の皇帝を示すと認識されていることだ。

 複数の帝位継承候補者が争っている間は姿を消し、不当な継承者が戴冠を宣言しても姿を現すことがない。

 正当な帝位継承者の戴冠式に現れ、新たな皇帝を乗せて帝都惑星の周囲をぐるっと一回りすることで新たな皇帝は正当であると帝国内外に認識される。


 そんな船を≪金剛城(こんごうじょう)≫の統括管理AIである無機質美人のホログラムが掌握してしまったなどトラブルの種になりかねない。

 銀河間宙域に存在する新エルフ星のある恒星系へ帝国周辺から人が来る可能性はほぼゼロだが、新エルフ星などの惑星には帝国やその周辺国で難民となった人達が大勢移住しているのだ。そんな人達があの船がここにあることを知ったらどんな行動を起こすのかは考えたくもない。


「最後に、帝国宙軍総旗艦【強襲戦艦オルシャネウス・オルシア】には帝国で行方不明とされている帝位継承候補者の皇子数名と皇女数名が乗船しています」


 あの船どっか人のいない宙域に放置してきちゃダメかな。

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