03-21
サブイベントのつもりがほとんどメインイベントみたいになってた亜次元適応人種の故郷を回収する作業は終了。
機械的知性達の尽力により、事故一つなく新エルフ星のある恒星系へ移動させることができた。推進能力を備えた人工惑星だったので、今まで2回行った居住可能惑星の移動プロジェクトよりは各段に手間が少なかったというのもある。
最近入り浸っているコントロールルームの一角にラグを敷いたりクッションを積んだりと落ち着ける準備も整った。
さあ、本来のメインイベントである深深度亜次元探索の開始だ。
「正直、一度の旅行としては十分楽しんだ気もしますけどぉ、ここから更にとなると期待が高まりますねぇ」
コントロールルームに開設されたリラクゼーションスペース2号で一緒にごろごろしていたおっとり長女エルフさんが、がつんとハードルを上げてくる。ふわふわヘアーさんじゃないのでそんな高いハードル飛べません。
「気づいたら旅行って言ってますけどー、ぶっちゃけ≪金剛城≫で生活してるのは変わらないので旅行感はないですよねー」
ゆるくてふわふわさんがうねうねーっと手を伸ばしてきたのでそっと捉まえてにぎにぎする。この感触ホント癖になる。
「頂いたご意見は今後の発展にうんたらなので、センサー類の範囲にギリギリ引っかかってるなにかの反応の元へ向かって亜次元を潜航していきまーす」
確かに旅行感はないので次回の企画書には旅行という言葉は付けないようにしようと思います。
「何か面白いもの見つかるかなぁ」
「どうでしょうねぇ」
「深深度亜次元に潜らなくてもー、人工惑星を2つ回収……1つはまだでしたっけー? ともかく1つは拾ったし十分じゃないですかー?」
そういえばそんな物もあった。亜次元適応人種の故郷の前に見つけた小さい人工惑星はまだ回収もしていないので忘れていた。深深度亜次元探索旅行の帰りにでも寄るべきか、それとも完全に別イベントとして企画すべきか悩み所だ。
ごろごろしながら2人とだらだら喋っていたらあっという間に目的宙域周辺に到着。亜次元でも宙域でいいのかは分からない。
さて、センサーの反応からすると人工惑星ではないだろう何か目指して潜航してきたが、≪金剛城≫の外に船を出して調査しようと思ったところで、そういえば深深度亜次元探索に備えて船を作っていたと思い出した。すっかり存在を忘れて≪金剛城≫に乗ったまま深深度亜次元に潜航してしまっている。
「じゃぁ、みんなで船に乗り込んで近くまで行きましょぉ」
おっとり長女エルフさんは悩む様子もなく即決。
「脚をワキワキさせたいでーす」
ゆるくてふわふわさんが【深深度亜次元探索母艦マクロシェイラ・カエンプフェリ】の≪蟹和子≫をホロウィンドウで表示し、脚をワキワキさせて主張する。
その脚は作業艇のドックになってるはずなので、実際に船を動かすとしてもそんなに振り回さないでください。
そんな訳で≪金剛城≫の制御を無機質美人のホログラムに完全に預けたら、≪蟹和子≫のあるドックへ向かう。基本的に≪金剛城≫の操作は無機質美人のホログラムに任せてるものの、当人はあくまで俺から操作を預けられていると言うので預けると言わないとなんとなく拗ねられてしまう。
≪蟹和子≫に乗る人を募るのに艦内アナウンスを使おうと思ったら、既にゆるくてふわふわさんが艦内ネットワークで通達済みだったのはちょっとくやしい。なお複製身体は一部だが、クルーは皆参加を希望していた。
先発した機械的知性達によって、深深度亜次元で見つけた何かの周辺は既に安全が確保されており、皆で≪蟹和子≫に乗り込んだら速やかに出港。ドックから出るのは出港なのかちょっと気になった。
いつのまにかゆるくてふわふわさんが操縦する権利を勝ち取り、脚をゆるやかにワキワキさせながら進む≪蟹和子≫は出港後まもなく光学センサーで目標を捉えた。
既に外観は様々なセンサー類で観測が済んでおりホログラムも出来上がっていたので分かっていたが、なんかお城っぽいものが見える。
≪金剛城≫を作る時に、遥か昔の惑星上で重要地点に建造されていたというお城の類をちょっと調べたのでなんとなくお城なんだなと思った。
クルーの皆の感想はといえば、旧エルフ星出身組は俺と同じくお城っぽいと感じたし、ハビタット生まれハビタット育ちな他の面々は帝国貴族が本拠にするハビタットみたいだと感じたらしい。
帝国貴族云々は参考に見せてもらったホログラムが宇宙にあるお城な見た目だったので、お城のホログラムを見せられたハビタット生まれ組も含めたみんなでいつの世も貴族は変わらないのかなとかしみじみした。
≪金剛城≫を作る時に昔惑星上に存在した要塞をモデルにしたうえ、サイズ調整に失敗して要塞のあった丘の方が主体になってしまった俺が言えたもんではないが、宇宙に存在する巨大建造物に塔とか城壁とか必要なんだろうか。
しかも、宇宙に適応する方向性を誤ったのか、上下左右前後に塔が飛び出しているしそれを守るかのような城壁にみえなくもない帯状のなにかがくるくる周回している。
城壁に見えなくもない帯状の何かに敷設されていた防衛機構は全て無力化しているとのことだが、そんなのとは関係なくちょっともう近づきたくない。だってアレ調査しちゃったら結果次第で持って帰らないといけないんでしょう多分。
俺の趣味に合わない外観なんだけど、新エルフ星の人達とかもらってくれないだろうか。




