03-17
再構成した海老蝦蛄惑星を新エルフ星のある恒星系へ移動させる作業が完了。
皆を労うためにレクリエーションを企画していると言って、完成していた【深深度亜次元探索母艦マクロシェイラ・カエンプフェリ】の≪蟹和子≫を紹介すると予想外に叱られなかった。
めっちゃ重い溜息吐かれる方がちょっと辛いなって思いました。
勝手に船を建造したのはともかく、慰労レクリエーションはおおむね好意的に受け止められたのでヘルプに3人ほど加わり企画を詰めることとなった。
俺、ぎしゃーさん、デビごっこさん、悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子の4人で話し合っていると、帝国領内の無人になった元有人惑星が消失したとのニュースが≪金剛城≫ネットワークに届けられた。
帝国領とか俺が直接かかわることはもう無さそうとか思ってたので、帝国領の数時間前のニュースが入ってきてちょっとびっくり。
その後10分もせずに、次元滑りとかいうかなり珍しい自然災害に呑まれたのが原因だと続報が入る。無機質美人のホログラムが帝国領内に浸透し構築した独自ネットワークはすごいなと思いました。
「次元滑りとは、名前が似ている通り地滑りみたいなものなんですね」
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子が、たニュース関連の資料を眺めつつ呟いた。
もう俺を見かけるなり急いでフォークを取り出すことも、あまつさえそれをちょっと恥ずかしそうにしつつ悪そうな顔でぺろぺろすることもないんだが、やっぱり俺の中では悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子という認識で固定されている。
「地滑り? 地面が滑るの?」
デビごっこさんが驚いた様子で反応し、それにつられて俺も足元が急に滑り始めるところを想像してみた。
「こわっ。惑星上での生活って予想外にスリリングなんだな」
次元滑りだと居住惑星一個飲み込むくらいの規模らしいし、きっと惑星上での地滑りも建物を軽く飲み込むくらいするっと地面が滑るんだろう。
「えっ。えーっと……カスタードプリン! カスタード使ってプリン作ってみたことありましたよね。その時に上手く固まらなかった感じで、雨が沢山降った後の山肌とかがでろんていうか、ずるっというかなることがあって、多分それが地滑りです」
「山肌がカスタードクリームになって流れ出す……」
デビごっこさんはイメージが錯綜して面白そうな光景を描いているようなのはさておき、カスタードプリンの件は覚えている。デビごっこさんに教えてもらいながらちゃんと作ったはずなのに上手く固まらず、結局カスタードクリームをそのまま舐めて終わりみたいになった悲しい思い出だ。俺が作るはずだったカスタードプリンを楽しみに待っていたぎしゃーさんも、これじゃないって顔でカスタードクリームを舐めてた。
「分かり易い映像資料みつけたよ。確かにずるっといくんだね。人工制御型の居住惑星だとこんなことめったに起こらないけど、ナチュラリーな居住惑星だと日常茶飯事なんでしょう? なんかすごいね」
デビごっこさんと俺が勝手に想像の翼を広げたり、それを修正しようと悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子がわたわたしている内に、ぎしゃーさんがホロウィンドウに地滑りの映像を表示していた。
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子も、さっき開いてた資料からこういう風にすれば早かったのではないかと思ったが、彼女が見てたのは次元滑りの方の資料だったか。
「いえ、流石に日常茶飯事っていうほど頻発はしませんよ。たぶん。あ、でも惑星単位だと1日数件とか起こったりするのかな。ちょっとわかんないです……」
「毎日山がカスタードクリームになる」
デビごっこさんがまだちょっと現実に帰ってこれてないですね。
ぎしゃーさんと悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子はそれぞれホロウィンドウの操作し始めて会話も途切れたし、何かつまむ食べ物を用意しようかとしたところで、デビごっこさんの顔がぐりんと勢いよく俺の方へ向けられた。びびった。
「眷属の故郷が遥かなる次元の彼方へと呑まれたならば、そなたの支配する昏き虚ろの海へと呼び戻してやろうではないか。我等が同胞は全てを見通す眼を持つのだからな」
てっきり今のデビごっこさんの頭の中はカスタードクリームで埋め尽くされていると思ってたから、急にさっきまでの話題に切り替えされて一瞬何を言ってるのか分からなかった。デビ語は咄嗟に解読できないのも無関係じゃないが。
「眷属の故郷……ああ、今回次元滑りだかいうのに巻き込まれたのって、新エルフ星に移住した難民の人達の誰かの故郷なのか。元有人の現無人惑星ってそういう意味か」
「うん。亜次元適応人種の人達の住んでたところみたい。元々空間の不安定な宙域らしいから、今回の大規模な自然災害もそこまでおかしいってものじゃないのかもね」
デビごっこさんがなんでそんな事知ってるのかと思ったら、多分ぎしゃーさんが調べたりまとめた資料をさっきカスタードクリームに思いを馳せながらホロウィンドウを使わないARで見せてもらってたとかだろう。基本スペックは高い人だし、軽く目を通しただけのデータをしっかり理解して覚えてるとかよくあるし。
「今は亡き帝国と呼ばれているご主人様の故郷も、結果だけ見れば良いことをしたかもしれませんね。帝国が戦争を起こした所為で亜次元適応人種の方々は新エルフ星へ移住なさったわけです。つまり戦争がなかったなら、次元滑りに惑星が巻き込まれた際にどうなってたかは……」
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子はしみじみとばかりに目を瞑って頷いているが、その理屈は暴論すぎると思う。
あと、スルーしかけたけどまだ帝国は滅んでいない。実際は皇帝はもう居ないし一部貴族や地方政府で群雄割拠みたいになってるみたいだけど、帝国って枠組みの国は残っている。国家元首が居なくなっても一見何の問題もないように振舞ってるのも、それが成り立ってる現状も、国家とは何かを問いかけてくるようだ。
そんな感じで≪蟹和子≫でのピクニックというか亜次元探索旅行は、予定外の目的も視野に入れつつ計画を煮詰めていくことになった。




