03-14
ちょっと理由は思い出せないが、新エルフ星の近況報告的データに目を通す機会があった。それをついさっき思い出して、なかなか面白かったしまた見て見るかと開いたら理解を脳が拒んだのでそっと閉じた。
なんで関りの全くない、むしろ積極的不干渉を方針と定めていたはずの未知の銀河から難民が移住してるんですかね。
お隣の銀河から逃げてきた人達の技術では、銀河間宙域に存在する新エルフ星のある恒星系はなぜか観測できていなかった。
しかし機械的知性達や機械由来人種が、あっちへ逃げれば大丈夫というの根拠のない強い主張で難民船団の人々を説得。
良き隣人である機械的知性達やそれに由来する同胞の懸命な姿に何かを感じたのか、難民船団の殆どが遭難を覚悟して銀河間宙域へ舵を切り、見事新エルフ星のある恒星系を警備する機械的知性のコミュニティに保護された。
何らかの超常的存在の介入が窺えますねぇ。
「その辺りどう思われますか?」
「誰も損してないし、いーんじゃなーい?」
椅子に座っていた俺をリラクゼーションラグまで引っ張って行って押し倒すように座らせた後、巻き付くようにごろごろしていた小さい方のダブルで一番さんに雑に聞いてみたら雑に流された。
「そうだね。得する人はいるけど、損する人はいないね」
小さい方のダブルで一番さんが楽しそうだからか、しなやかスレンダーさんも同じように俺に絡みつく感じにごろごろし始めた。たまに勢いが付きすぎるのかちょっと遠くまで行っちゃうと、二つ折りみたいな急カーブで戻ってくるのがすごい。
豹由来人種だけあって猫の仲間なのか。やっぱり身体は液体なんだろうか。海月由来人種のゆるくてふわふわさんは本当に身体のほとんどが水分らしいので可能性はある。
猫とかいう摩訶不思議な生物のホロ動画を思い出したので、俺のお世話をするべく待機している機械的知性にしなやかスレンダーさんがギリギリ入れない大きさの柔らかい箱を持ってきてもらった。上面の中央でぱかっと2つに分かれて開くやつ。
しなやかスレンダーさんは俺の顔をチラリと見てしかたないなあって感じの溜息を付くと、かなりノリノリで箱にもぐりこんでいった。やはり猫。
ただ何を思ったのか、しなやかスレンダーさんだけでも身体の一部がこぼれてる箱に小さい方のダブルで一番さんも身体を捻じ込もうとして、最終的には2人の身体の下半分が箱から溢れた。
2人とも満足そうだしこれでいっか。
箱に上半身をねじこんで動かなくなった2人を放置して、お隣の銀河から難民がやってきて何か問題はないかと一通り確認。何もなし。ヨシ。
何も問題ないとかそれ自体が明らかに何か問題だと思うけど、俺の頭じゃ具体的に何が問題ないのか分からない。深く考えるのはやめておこう。
現状では何も問題はないので、これから発生する可能性が高い問題はないかを確認。特になさそう。
強いて言えば人口増加の正確な予測が難しいのと、新エルフ星と旧エルフ星だけだと100年後くらいの人口密度がちょっと不安かもしれない。
あと問題ではないものの、新エルフ星と旧エルフ星はそれぞれ別の恒星系にあるので交通の便が悪い。これ一か所にまとめたりできないかな。
特に今俺が考えないといけないことはないようなので、ふとした思い付きを実現できないかなと有人惑星の別恒星系への移転に関して≪金剛城≫のデータベースに何かないか探してみる。
関連した技術をすぐに発見。しかしちょっと想定外のデータが紐づけされている。なんで既に旧エルフ星移転のシミュレーションが完璧に行われているのか。
誰かに……俺の頭の中が覗かれている……? なんて一人芝居をしてみたが、近くにデビごっこさんはいないのでさみしくなっただけで終わった。今この身体のそばに居るのは箱に上半身突っ込んで寝てるっぽい2人だけだし、段々俺も仲間に加わりたくなってきた。
箱は後で俺用のを用意して入ってみるので一度保留。単純に考えれば俺がその内こういうこと言いそうだなって誰かが先回りしてたんだろう。俺が誰かの掌で転がされるのはよくあることだ。寧ろ積極的に転がってやるくらいの所存。
技術的な話はよく分からないが、俺向けに簡潔にまとめられている部分を読む限り人工ワームホールを使うらしい。旧エルフ星を新エルフ星のある恒星系に移転させるのは可能。逆もまたしかり。
でも現実的にはどうだろう。
居住者の同意とか必要そうだし、そもそも必要なのかというとそうでもないかもしれない。
旧エルフ星のある恒星系はお隣の銀河に結構近いとあって先々でトラブルとかありそうだなという不安はある。でもわざわざ有人惑星を移転させるほどの不安ではない。
俺だけで悩んでいても良い答えは出そうにない。誰かに相談をしよう、と箱の方に視線を向けると横になった箱から下半身をでろんと垂らしたしなやかスレンダーさんと小さい方のダブルで一番さんはあれ完全に寝てる。
ちょっと考え、悩んでる内容をざっくりとまとめて≪金剛城≫の艦内ネットワークに置いておく。パブリックスペースの要検討ディレクトリなら誰かが目を通して意見をくれるでしょ。
頭使う用件は片づけた。さ、俺も柔らか素材の箱に入ってみよう。
機械的知性に頼んで用意してもらっておいたいろんな大きさの箱へと、順に入って居心地を確かめてみる。さっきまで寝ていたはずのしなやかスレンダーさんと小さい方のダブルで一番さんも、自分にピッタリの箱を求めていそいそと身体を捻じ込んでみている。
結論として、最初にしなやかスレンダーさんに入ってもらうべく用意した箱のように、入る人よりも少しだけ小さい容積のものが一番居心地が良い。箱が柔らかい素材というのもあってフィット感が大事。
でも3人で同じ箱に入るならちょっとくらいの余裕は大事だ。1人の時よりも圧迫感がある。……これはこれで慣れたらこっちのが良くなりそうかも。




