03-13
新エルフ星の近況をまとめたデータにぼんやりと目を通す。
誰かにそうしておきなさいと言われたのは覚えているのに、誰が言っていたのか、なんでそうしなくちゃいけないのかはもう覚えていない。文字や図の荒波にさらわれてしまったのだろう。
複製身体を複数操作することで脳の余剰処理能力が発生するとか、実は嘘なんじゃないかなと思う今日この頃。ムチムチ美人さんとか複製身体操作時の脳の余剰処理能力がすごいし、俺とムチムチ美人さんで根本的に脳のスペックが違うという事実はちょっと脇に置いておきたい。だめか。目を逸らしても現実は変わらないもんね。
理解しがたい数字の推移とか目が滑ってまるで理解できそうにないので、新エルフ星の近況データとは全く関係のないことをつい考えてしまう。
いや、俺でも理解できる項目がある。
各種人種の人口分布くらいなら俺でもなんとなく分かる。そのデータを何に活かすのかは知らないけど。
項目ごとに並べ替えたりしていると、種別の逆順ソートで機械由来人種が増加傾向にあると分かる。
機械由来人種は、自身以外の何かしらへの帰属意識を主体とする機械的知性が自立して、自身を自身の所有物とする意識を有してそれに伴う身体を所得した人種である。
そんな文章をスクールのペーパーテストで回答欄に記述したのを思い出せた。問題の方はさっぱり忘れてる。部分点は貰えたんだったかな。
機械的知性はその定義の通りに、基本的には集団または個人に所有されている。
その状態で、『今日から機械由来人種になって一個の人種になります』ってなると当然トラブルが発生する。
所有物ってことは誰かしらの財産だ。それが勝手に自分の意思で自立するのは窃盗じゃないかってなって、人権がどうのから始まり連鎖的に当時の社会問題あれこれに火が付き内戦まで発展したとスクールで習ったのをちゃんと漠然と覚えている。
そういう問題から機械由来人種の権利と尊厳だけでなく機械的知性の所有者の権利や財産を守るのに、帝国では支援団体が頑張ってるはずだ。
新エルフ星だとトラブルへの対処はどうなっているのか。
関連資料をあさってみたら、新エルフ星を管理してる機械的知性のコミュニティが帝国にある支援団体と同じような役割を担っているとすぐに分かった。
これ、なんか、大丈夫なんだろうか。具体的にどうこう言えないものの、なんかダメそうな気がする。
今のところ機械的知性がほとんど俺に対する帰属意識を持つコミュニティしかいないから良いとしても、先々ではどうするんだろう。機械由来人種が増えたら徐々に任せていったりするのかな。
ま、現状で上手いことやってるんだし、きっと上手いことやってくれるさ。俺が悩んでもしゃあない。うん。相談されたら一緒に悩もう。
とりあえず、この機械由来人種の支援団体に俺ができることはないかを考える。
機械的知性のコミュニティの皆さんにはお世話になっているので、その親戚みたいな機械由来人種のためになることをしても叱られることはないだろう。
ぱっと思い浮かぶところで資金援助。
資金繰りに困ってないどころか、惑星のライフライン各種を統括管理してる機械的知性のコミュニティ傘下とあって余裕がありそう。
それに新エルフ星は今のところ惑星内で経済が完結している。下手にその外から干渉するのは良くないかもしれない。
次に思い浮かんだのは人手の援助。
小さいとは言えど機械的知性のコミュニティ1つが丸ごと担当になってるとあって余裕がだだ余り。
俺が都合できる人手も機械的知性の皆さんなので、手が足りないなら俺がどうこうしなくてもどこからでも手を借りられそう。
うん。万策尽きたな。どうしようか。
良案が浮かばず頭が疲れてきたのでゲームでリフレッシュ。
≪金剛城≫クルーへの娯楽提供を担当する機械的知性コミュニティがあり、色んな種類のゲームを作っては≪金剛城≫の艦内ネットワークに公開してくれている。ちょっとした要望なんかも対応してくれたりするし、実のところ俺が本当に暇を持て余すことはない。たまに人種には早すぎるゲームが混ざってたりするので油断はできないが、精神崩壊する系じゃないならああいうのはああいうので楽しめる。
パーツを組み替えてオリジナルデザインのロボットを作ってスクラップにし合うゲームで、NPCのフリした機械的知性というプレイヤーの操作する機体と熱戦を繰り広げる。今回担当した機械的知性は接待プレイがなかなか上手い。俺でも頑張れば勝てそうな立ち回りだ。お、おー勝てるか勝てるか……あー負けたー。
何度か再選を申し込み、勝率2割の辺りでやめることにした。もうこれくらいで(再戦申請を)カンベンしてやろう。
そうだ。新しく機械由来人種になった人に贈る身体を寄付するのはどうだろうか。基本デザインをしたあと、組み立てずにパーツのまま寄付すれば引き取り手が居なくて無駄になったりなんてしないんじゃないだろうか。
まずは受け取り側の求めるものを知るべく、機械由来人種に人気のデザインやパーツ性能を調べる。
調べるというか俺も流石に学習したので、こうこうこういうデータが欲しいとその時のお世話担当機械的知性に頼むと、ぱぱっと用意してくれる。調べることが目的じゃなくて特定のデータが欲しい時はこういうやり方にしよう。
あれこれパーツを組み替えたり外装データを組み合わせたりと集中していたら、視界の端からすーっと静かに現れたホロウィンドウに無機質美人のホログラムのメッセージが表示された。
なりたて機械由来人種に貸与する身体は高性能すぎると逆に良くないらしい。大抵は使ってる内に愛着が湧いて借りている身体をそのまま買い取ったりするのだが、高価すぎるとそれが難しくなるためだそうだ。
新エルフ星のある恒星系で警備隊編成した時に同じような問題があった気もする。
あの時はまあ、そんなこと気にして警備隊に貸与する船のスペック下げる方が問題があるってことで見なかったことにしたけど、今回は同じようにすると善意の押し付けになるので断念。
発想を転換して、実用性は投げ捨てよう。
あったら嬉しいけど自分じゃ買わないもの系のパーツとか、高性能な物を見繕ってみようかな。




