03-03
「次に流行るゲームはー、惑星に降下してーサバイバルする感じのーデスゲームー」
俺の覚醒イベントが流れた会議から数日後。
クルーの3分の1くらいが顔を合わせて食事を済ませだらだらしていた食堂にて、俺の右側に座っていたゆるくてふわふわさんが、右腕を斜めにびょーんと伸ばして唐突に叫ん……叫んではいないか。そんなに力強い感じではない。
「死ぬのやだよ」
とりあえず俺は根本的なところで反対票を投じてみる。
いや、流行るのはって言ってるだけでやろうとは言ってないのか。でも誰かやらないと流行るも何もないし、俺はやらないって言っておくのは間違ってないはず。
「複製身体を使うのでー、実質死にませーん」
ゆるくてふわふわさんが関節というか骨があるのか疑わしい動きで、伸ばした右腕をゆらゆらうねうねさせる。
あれどうやるんだろう。ゆるくてふわふわさんの方へ椅子を動かして左腕をにぎにぎすると、分かっていたけどしっかり骨が入ってる硬さを感じる。でも俺とは比べ物にならないくらい肉の部分は柔らかい。にぎにぎ。
「えぇ……。複製身体だから作り直せば良いっていっても、使い捨てにするの嫌だよ」
本体だけでなく複製身体の見た目にも気を遣っているツルスベさんが反対意見を出した。
ツルスベさんは俺と一緒にぼうっとしてると、唐突に観客が俺だけのファッションショーを始める一人だ。それも、服装に限らず髪の長さや髪型、肌の色や質感、果ては多少の体型の変化までこだわるファッションガチ勢のツルスベさんなら然もありなん。
「確かに稼働間もない複製身体を使い捨てにするのは嫌かも」
掴み所がない四女エルフさんが同意できるか微妙な感想をくれた。耐用年数の限界間近とかなら気にならないってことだろうか。それはそれで使ってる間に思い入れとか出来たりしそうだから意見は分かれそう。複製身体を普段使いしていないエルフさん達だからこその感性という可能性もある。
複製身体は人体と同じようにメンテしてれば耐用年数なんてないも同然なんだけど、そうなると複製身体を使い捨てにすることそのものが嫌だということになるような、ならないような。
「んー。ではー、企画倒れと言うことでー」
唐突に話題として提供したゆるくてふわふわさんが、ちょっと残念そうな声色で真っ先に完全に諦めなすった。伸ばしてうねうねさせていた右腕も、手首辺りでへにょっと垂れた。
まだにぎにぎしていたゆるくてふわふわさんの左腕の手首辺りを持ってみても、へにょっと垂れるとは思えな確りとした骨を感じる。不思議。
「企画すら出来てないけどね」
掴み所がない四女エルフさんが、フォローなのかそうでもないのか分からないことを言う。フォローどころか完全に追い打ちか。
ゆるくてふわふわさんが企画書はあるんですーと、食堂の設備を介して企画書のホロウィンドウをそれぞれの前に表示させる。インプラントデバイスで直接データをやり取りせずホロウィンドウを開いた点にたぶん意味はない。この辺は好き好きの話だ。
皆がホロウィンドウに集中し始めたので俺はぼうっとする。後で要約を誰かに教えてもらおう。にぎにぎ。一回握ると手放せない。
「参加者同士の妨害行為を別にすれば、私達エルフの子供がよくやる遊びと似てる。ちょっぴり懐かしい」
ふらっと森に入ってそのまま生活してみるっていう感じで、短いと10年くらいだけど長いと100年くらい続けちゃったり。
長いこと森に居てその間に枝分けとかで人口が増えてると、町に帰った時に誰だコイツって顔を向けられたり。
エルフ的には若いころに一度やってみる人が多いらしい。
子供がふらっと森に入って軽く10年生きられるっていうのはエルフならではだ。前に聞いた話だと、エルフは水と恒星光が適していれば少し食べるくらいで結構がっつり活動できるらしい。
疑似恒星光のサンルームでぼうっとするのが好きな駐在エルフさんは食いしん坊属性があるのかって思ったけど、実際結構食べるの好きなので種族的特性は関係なかったのが印象深い。
「複製身体は耐久面の強化措置を施し、未強化の肉体が死にうる損傷を負うと仮死状態に移行するよう設定するのはどうでしょうか。これならば再利用も可能でしょう」
俺は別として皆資料を読み終わった頃合いで、リーダーさんが改善点の一つを提示した。
リーダーさんの言った内容になんとなく違和感を覚えて仕方なく資料の概要部分に目を通すと、ゆるくてふわふわさんの企画するデスゲームはVRとかのゲーム内でデスると連動して現実の肉体もデスるのではなく、デス前提のサバイバルな生活を楽しむレクリエーション的ゲームらしい。
なんとなく基本はVRゲームでオプションにデスをつけるんだと思ってた。それで複製身体を使うとか言ってたのか。
しかし複製身体を現実でアバターのように扱うなら、それはVRゲームでアバター動かすのと大差ないんじゃなかろうか。ギフトのシミュレーター使えば現実そっくりなVR空間も構築できるんだし。
気づけばこの場に居る面々はゆるくてふわふわさん企画のデスゲームに乗り気で、わいわいと楽しそうに議論している。
楽しそうなので、根本的な問題を突きつけることが俺にはできない。安全管理にしっかり配慮してデスって言いつつ複製身体の一時停止なら、それはもうデスゲームではないんじゃないかとは言えない。
その内誰か俺と同じ疑問を抱くだろうしその人にその辺聞いてもらおうと丸投げを決め、俺は大人しくゆるくてふわふわさんの左腕を端から端までにぎにぎ。
ゆるくてふわふわさんの、実は肉とかなくて液体が詰まってるんじゃないかってこの触り心地はとてもクセになる。
クセになる肉質でいうとムチムチ美人さんがぱっと思い浮かぶが、それと並ぶレベル。
豚由来人種のムチムチ美人さんは頑強な骨格が確りとした筋肉を纏い、それを土台として薄っすらと皮下脂肪を蓄えてるのが「過酷な環境下でも生き抜く覚悟があります」って感じ。
海月由来人種のゆるくてふわふわさんは骨を上手く掴んでないと滑り落ちていくんじゃないかって感触が独特。
豹由来人種のしなやかスレンダーさんは力を籠めると筋肉が結構すごいのに、脱力するとゆるくてふわふわさんよりは固形物寄りなでろんでろんになる。
あと印象が強いのは鉱物由来人種のツルスベさん。明らかに金属なんだけど柔らかいし温かいし、更に当人の気分で質感が変わるのが面白い。
筋肉がすごいのはやっぱりパワーイズパワーの二巨塔。
牛由来人種の大きい方のダブルで一番さんは筋肉もふかふかな感じがする。でもぐっと力を入れると引き締まる。
恐竜由来人種のぎしゃーさんは≪金剛城≫のクルーの中では一番分かり易く筋肉質。服着てるとそうでもないように見えるのが不思議。
あとは特別枠で馬由来人種のリーダーさん。足がすごい。足剥き出しでランニングマシーン使ってると思わず見ちゃう。本人がアピール目的でやってることなので遠慮なく見せて頂いている。
肉以外の種族的特徴も結構ある。
鼠由来人種の小さい方のダブルで一番さんはやっぱり耳。ぺちぺちされるのは何とも言い難い幸せスキンシップ。
蝙蝠由来人種のデビごっこさんは翼手はすべすべ。くすぐったがって暴れるけど、そーっと触るのが一番楽しめる。
鳥由来人種のふわふわヘアーさんはふわっふわでボリューム抜群の髪の毛。軸になってる太目の毛は根本が敏感らしくてあんまり触らせてくれないものの、枝分かれしてる部分の毛はふわふわで手を離せない。枝分かれしてるのであって枝毛ではない。
山羊由来人種の先輩さんも髪の毛がすごい。ぬめっていうか、するっていうか表現しがたい手触り。長く伸ばすと毛先あたりの手触りが悪くなってしまうのでほどほどまでしか伸ばしてくれないのが惜しい。
ゆるくてふわふわさんの左腕をにぎにぎしながらぼうっとしてたら、いつのまにやらデスゲーム企画の話しに区切りがついていた。後で誰かに話を聞こう。
ふむ。クルーの種族的特徴に思いをはせていたら、植物由来人種の駐在エルフさんの耳をこりこりしたくなってきた。あの耳がエルフと呼び始めるきっかけなので大事にしていきたい。




