02B-01(00-00~02-07)
00-00
幼いとすら言える若い同胞――若芽達と、長く共にあった友人達とを空の彼方に見送った後。
急ごしらえで何時までもつかも定かでないシェルターに閉じこもり、何を元に作り出したのかも興味を向けられない非常食をかじる日々。
そこへ突如現れた救いの船を私達は永劫語り継ぐだろう。
……いや、でも外観で言えば到底船とは言えないし世代を経れば空飛ぶ城とかになってるかもしれない。現状でもアレを船と呼ぶのか城と呼ぶのか意見が統一されてないし。どっちでも合ってるから城船で良いという意見も多い。
ついでに言うと、もうすっかり同胞達にもクルー達にも≪金剛城≫の一員と認知された私はもしや語り継がれる側に居るのかもしれない。
02-01
宙行く城船の君に私達が救われて少しばかりの時が過ぎた。
ささやかな時間であらゆるものが目まぐるしく変わり続け、私自身も若木の頃のような好奇心を取り戻し童心に返ったままになってしまった。宇宙にある城船での生活にも早くも慣れたが、それでも城船の君の周りはあまりに刺激的だ。
ある日の事、一度破壊された私達の故郷の惑星を完全に回復し終えたと教えてもらった。
余計なことを全て除けて端的に言えば、嬉しい。一度は破壊しつくされ惑星とすら言えないような状態になったかつての故郷にまた立てるのだから嬉しくないはずがない。
しかし同時に、一度心の中で区切りがついてしまってもいる。城船の君が回復してくれたとはいえど、跡形もない有様になったところから形を戻したそれはかつての故郷と全く同じと言えるのか。そしてゆく当てもなく途方に暮れ死を受け入れた私達を温かく迎えてくれた今の惑星は、故郷ではないと言えるのか。
同胞達は同じ答えを出した。過去は過去、今は今。故郷と呼ぶのは今暮らしている場で良い。
でも連れて行ってもらったらとても居心地が好いし、また移住しても良いと言ってもらえてるんだからどっちにも住めば良い。
とりあえず枝分けで人口を増やすことを皆で決めた。ついでに子供を増やすなら城船の君の子を産みたいという姉妹達を≪金剛城≫へ呼び寄せた。
私の親は枝分けでしか子を増やしていないので、私の姉妹達は私とは別の可能性を選んでいった私自身だ。私が好きになった相手なら自分も好きになれるだろうしどうせなら枝分けではなく有性生殖をしてみたいという、私自身も抱いている欲求を主張されては拒絶などできない。彼女達のその想いを捨てさせるのは私がこの想いを捨てるのと同義であり、私がこの想いを捨てられないならば彼女達にそれを強要できるはずもない。
そうして姉妹達と≪金剛城≫で過ごすようになり、直ぐに日常に変化が生じた。
ワームホール……宇宙とは不思議なことで満ちている。
02-02
ワームホールに関して色々と教わったが、それ以上に宇宙で生きることを前提とした人々が雷の両面性について感心していたり不思議そうな顔をしていたことが驚きだった。宇宙空間でも時折放電現象をみかけるが、あれは人にとっての良し悪しに関係なく大した影響を及ぼさないのだろうか。今度≪金剛城≫のデータベースで調べてみよう。
城船の君を始め≪金剛城≫クルーの一部が時たま見せる、知りたくなかった現実を知ってしまって心が混沌とした感情に塗りつぶされたような表情は、こういっては趣味を疑われるかもしれない……正直少し面白い。彼らは新しいものへの順応が緩やかな私達とは別の意味で、急激な変化には強くないのかもしれない。もしかしたら共感している故に微笑ましいのかもしれない。
02-03
城船の君は≪金剛城≫クルーという仲間をとても大切にしていて親しみが持てる。
私達の種族は数を増やそうと思えば枝分けという形の単為生殖によりすぐ増やせることで逆に数を増やそうという意識に欠け、数が少ない故に同胞を大切にする傾向が強い。
ワームホールの往復実験に臨んだ機械的知性を心配するあまり錯乱気味だったのはそれこそ心配になったが、その後は意識を逸らしたことで問題なく実験を終えられたので役得だったとでも思おう。
役得で何かを思い出しそうになったが何か忘れているのだろうか。
02-04
海老は美味しくそれを模した城船の君の各種宇宙船はとても有能なのだから、同じく美味しい蝦蛄を模したあの宇宙船もきっと有能なのだろう。
亜次元と異次元それぞれに干渉する技術はとても面白い。昔に同郷の科学者が発表していた同じような理論は突き詰めていけば同じようなことができるようになっていたのだろうか。そうだとするならば、この広大な宇宙へ進出した様々な種族も同じような発想を得てそれも育てていったのだろうか。意外とこの宇宙は広いようで狭いのかもしれない。
もう少しで何を忘れているのか思い出せそうな気がする。
02-05
目が覚めたら≪金剛城≫クルーの皆と一緒に疑似恒星光のサンルームに居た。≪金剛城≫を統括管理するAIの悪戯というかお茶目というかのようだった。
≪金剛城≫の中はあれもこれも楽しくて、日光浴をかかしていなくとも日差しの中で眠るなど久しくしていなかったが、やはり気分が上向く。やはりここでくつろぐだけでなく眠るのも大事だ。日々の生活を見直してみよう。
02-06
重力に干渉することで空を飛ぶのはとても面白い感覚だ。地表に比べれば宇宙空間はそもそも重力の影響を受けにくいが、その無重力とはまた違うのが好い。
他の皆のようにすぐ飛べるわけではなかったが、城船の君と一緒に飛翔というよりも少し大きく跳躍するだけでも十分楽しめた。久しぶりに見かけた姉妹達も私と同じ様子だった。
ああ、そうか。≪金剛城≫へ呼び寄せた姉妹達のことをすっかり忘れていた。≪金剛城≫内で何度か顔を合わせているのに、それに何を思うこともなかった。不思議だ。
02-07
私がすっかり忘れていた姉妹達は彼女達よりも先に≪金剛城≫へ来ていた奉仕家系の3人組と、山羊を祖とする導き手殿の世話になっていたらしい。どちらに対しても申し訳ない。特に導き手殿には私に続いて姉妹達もご指導いただくことになってしまうとは……。
いつものように楽しいことをやっていると聞いていつもと同じ通路でいつもと同じドックへ足を運んでみると、背丈が私の数倍はある人型ロボットが殴り倒されたところだった。うむ。この轟音は何度感じてもゾクゾクする。
人型ロボットによる豪快な格闘戦も見ていて面白いが、片手で握り込める大きさのコントローラーで私の膝にも届かない大きさの人型ロボットを動かすのもまた面白い。
しかし城船の君よ。騎士に唇を賜る乙女役の貴方が優勝してしまっては興醒めというものではないだろうか。




