02-27
疑似恒星光のサンルームに入ったら、いつものようにぎしゃーさんがでろんと寝ていた。
ちょっと考えて、いつものように横に転がってぎしゃーさんを抱え込む。
ふと気づくと、俺とぎしゃーさんの間に頭を突っ込むような形で小さい方のダブルで一番さんがいつものように俺の上に寝ていた。
次に目を開ければ、いつものようにしなやかスレンダーさんが俺の頭を自分のお腹の上に載せて寝ていた。
たまにはこんな日も良いって思ったけど、≪金剛城≫での生活は大体こんな日ばっかりだった。
「ひきちぎれるぅ」
寝ぼけたぎしゃーさんに締め上げられて目が覚めた。
「割れるー」
俺とぎしゃーさんにの胴体の間に頭を捻じ込んでいた小さい方のダブルで一番さんが巻き添えを食らった。
そして、小さい方のダブルで一番さんの頭が腹にめり込んでくる俺は何かが口から出てきそうになっている。
「んぐ……くすぐった……ああ、一回起こそう」
「なに……あ、ごめん」
お腹に載せた俺の頭がもぞもぞとくすぐることで目を覚ましたしなやかスレンダーさんに救出され、小さい方のダブルで一番さんの頭は割れなかったし俺の口から何かが出てくることもなかった。
今までそうなったことはないが、例え小さい方のダブルで一番さんの頭が割れても複製身体なので精々トラウマになるくらいで生命に支障はないし、俺はこれが本体だけど首から下が無くなる程度の肉体の損壊でも魂が無事なら≪金剛城≫の技術と無機質美人のホログラムの対応力で生命に支障は出ない。
こういうのもいつもの事なので疑似恒星光に促されて皆またすぐに寝た。
「何かあったよ」
4人が同じくらいのタイミングで目覚め、どうせだから一緒に何かしようということで現在進行中の異世界採集活動に便乗する形で探検ごっこを開始。あくまで採集ついでの探検ごっこなので直接船には乗らず採集船を疑似恒星光のサンルームから遠隔操作していたところ、暫く経った頃にしなやかスレンダーさんがぽつりと呟く用に報告してきた。
「氷漬けの死体に見える気がする。透明度高いけど紫色? これなんだろう」
しなやかスレンダーさんの船のカメラへ意識を向ける前に自動で近場のアステロイドから採集しておくよう自分の操作する船に指示を出していたら、先にしなやかスレンダーさんの発見したものを確認していたぎしゃーさんがなんか怖い見解を述べた。死体って単語もそうだし、透明度の高い紫のなにかもなんかヤな感じがする。
「採集船のセンサーじゃ詳しいことが全然分からないや」
しなやかスレンダーさんが不安要素を積み上げる。
「ていうか、表面で観測波が弾かれてるよー。弾かれた観測波を拾ったけどパターン取るのに手間かかりそー」
小さい方のダブルで一番さんも更に怖いことを言う。
「見なかったことにしない?」
それか採集器で完全に分解しちゃいたい。
「相変わらずロマンが足りないよ」
俺の平和的な提案はしなやかスレンダーさんに一刀両断された。
「安全性に気を遣いたいなら、≪金剛城≫に入れないで解析用の設備を入れたコンテナ使うとかすれば良いよ」
ぎしゃーさんには具体的な方法で退路を塞がれてしまった。
「次の御飯はお肉のつもりだったし生育食材の鶏肉にしようかなー」
直接は言わなくともチキンって言いたいのは丸わかりだ。生育食材って言っても自分じゃ料理しないくせに、家禽の鶏を知った際に一緒に仕入れたスラングを的確に捻じ込んできた小さい方のダブルで一番さん。
しかしなんで鶏のお肉が臆病者なのか。言語とは不思議なものだ。
「とりあえず≪金剛城≫を寄せて、一番良い外部センサー類で何かわからないか試してみよう」
≪金剛城≫は都度改修していて、データベースを漁っても完成品で今より良いものが見つからない状態を維持する程度には気を遣っている。≪金剛城≫の外部センサーでダメならぎしゃーさんの案を採用して専用の機材で調べるしかない。
無機質美人のホログラムに≪金剛城≫の針路を調節してもらい、進路上の物体は超巨大採集器でガンガン資材に変えて専用コンテナに詰めていく。
今日までの採集活動で分かっていたことだが、俺や他の皆の生まれて生活している次元では見かけないような物質が見つかるのはなかなか面白い。
反面、≪金剛城≫のデータベースでは何かわからないような物質が見つかったりもして恐怖を煽る。できるだけ分類して混ざらないように危険物用コンテナに詰めてはいても、正直この異次元から撤収するときに捨てていきたい。
無機質美人のホログラムが言うには安全に管理できているそうだが、じゃあその根拠となるデータをくれと頼んでも視線を逸らされて終わる。
彼女には彼女自身で解決できない制限があるようなのでこういった対応になっても仕方ないし、結果的に悪いことにはならないと思える信頼関係は築けているものの、現在の心の平穏にもご配慮いただけないものか。
「げ。≪金剛城≫のトラクタービームも弾かれてる」
ぎしゃーさんが心底嫌そうにうめいた。
何か良く分からないものに直接触れるのは怖い。まず採集船のトラクタービームを照射して弾かれ、≪金剛城≫が到着次第高出力のトラクタービームを照射してこれも弾かれた。≪金剛城≫の方は推進器停止状態の特型艦船もじわじわ引っ張るレベルの牽引力なんですけど。
「使い捨ての無人無機械的知性船のアームで直接掴むしかないんじゃないかな?」
しなやかスレンダーさんの提案に俺も頷く。他の案なんて思い浮かばない。
「どう思うー?」
4人の中で何も言っていない小さい方のダブルで一番さんになんとなく視線を向けると、いつの間にか居た無機質美人のホログラムに尋ねなさった。カンニングも同然の所業であり、ぶっちゃけ一番無駄がない。
「あ、以外と上手くいった」
無機質美人のホログラムは何と答えるか気になって見つめていたら、後ろからしなやかスレンダーさんの感心したようなつぶやきが聞こえてきた。
あれこれ努力していたぎしゃーさんがアステロイドにトラクタービームを当てて、それに巻き込む形で死体が入っているらしき紫色の透明ななにかを動かすことに成功している。
「ぎしゃー」
ぎしゃーさんのぎしゃーって俺にはぎしゃーって聞こえるけど実際はなんて言ってるんだろう。もしかしてそもそも声とかじゃなくてなんかの音なのかな。
「でもこれ止められなくなーい?」
自慢げだったぎしゃーさんが小さい方のダブルで一番さんの指摘で固まった。
「下手なことをしなければ船を侵食するような物体ではないので遠隔操作の船で回収します」
頑張ってたぎしゃーさんを尊重して待っていたらしき無機質美人のホログラムがスパッと正答をくれたのでそういうことになった。
口を開けたコンテナを低速で打ち出して受け止めようと調整していたしなやかスレンダーさんはちょっとしょんぼりしていた。




