02-26
先輩さんに相談された駐在エルフさんの姉妹さん達を含めた旧エルフ星出身者の6人に関して、ちょっと当人間で話し合う場を設けようと食堂で軽食と飲み物各種を用意して集まってもらった。
「なんというか、こう、改まって顔を合わせるとなんだか緊張するわねぇ」
駐在エルフさんの姉妹さん達の長女さんがおっとりした感じに言うが、まるで緊張しているように見えない。
おっとり長女エルフさんはさておき、旧エルフ星出身者の内エルフじゃない3人組の1人、駐在エルフさんの姉妹さん達と俺の間ですごい視線を往復させてる子。
初対面で駐在エルフさんのお世話をさせて頂きに参りましたって声高らかに宣言して他2人に口を塞がれ、駐在エルフさんにやっぱりアイツはヤベーやつだったみたいな引きつった表情で場を誤魔化させた一件から数年経ったし落ち着いてるかと思いきや、なんかエルフさん達に向けるのと同じような視線を俺に送るようになってないかな。
普段は奉仕過激派に近い一部の機械的知性達から向けられる視線に埋没してたみたいだけど、向かい合ってみると明らかに尋常じゃない熱意を視線に感じる。
「今回このような場を設けて頂けたということは、私達に対するお気持ちになんらかの変化があったということでしょうか」
三女エルフさんが単刀直入にこの集まりの本題に切り込んだのは、俺が観察していた奉仕過激派機械的知性達の仲間っぽい子が勢いよく手を挙げて何か言おうとしたのを両側の子が機敏にインターセプトした所為だろう。
可哀そうに、苦労人ぽい三女エルフさんは話し運びが性急すぎたのを自覚しているから居心地が悪そうだ。
面と向かってするには尻込みする内容だが、そんなこと言っていても現状維持にしかならないと気合いを入れ今回集まってもらった主旨を説明した。
まず駐在エルフさんの姉妹さん達は、駐在エルフさんと趣味が似ているし子供産むなら最も良い条件にしたいと≪金剛城≫へ来たと駐在エルフさんから聞いた覚えがあるのでそのような認識で正しいのか確認したい。
次に、その認識で正しいなら実際に俺を見て一緒に生活してみてどうだったのか。
旧エルフ星出身者の内エルフじゃない3人組の方は、物凄く今更だがなんで≪金剛城≫へ来たのか良く知らない。
説明される予定だったと思われる初対面の時は、駐在エルフさんが何事もなかったように取り繕うのでいっぱいいっぱいになって済し崩し的にそのまま≪金剛城≫に受け入れてしまった俺が悪い。いや、俺が悪いというと俺だけが悪いみたいなので俺も悪いに言い換えよう。
「こう言った表現は誤解を招くかもしれませんが――」
おっとり長女エルフさんと苦労人ぽい三女エルフさんが言うには、繁殖相手として俺を見ると必要な様々なものが高水準で揃っているそうだ。
大前提として、俺はプライマリーヒューマンなので大概の生物と交配のハードルが低い。
根本的なところで、外的脅威に対する母子の安全性。
個体として生きていく上で必要不可欠な衣食住。
集団として先細りにならない程度のコミュニティ。他諸々。
単純に言い換えると種、武力、財力、権力。
種に関しては旧エルフ星にもプライマリーヒューマンは居たので種族的にエルフさん達との交配の実績がある。多少の問題は≪金剛城≫の技術力でどうにかなる。
武力も財力も、≪金剛城≫があれば向こう数千年くらいは安泰だと無機質美人のホログラムが何かの折に言っていた気がする。
権力はちょっと違うか。俺の子供が新エルフ星に定住を決めても、排斥はされないだろうと言うだけでその後どうなるかは分からない。
細かいところはともかく俺が理解した範囲だと、俺じゃなくちゃダメと言うか、俺じゃない人を選ぶ理由がないという俺の視点から言うと主客転倒になっているような説明をされてしまった。これも合理的と呼ぶのだろうか。
「色々言ったところで、好きになりそうな人を好きになる努力して実際好きになったんだから別にそれでいいじゃない」
おっとり長女エルフさんと苦労人ぽい三女エルフさんの話を聞き考え込みそうになったところ、イマイチどこを見ているか分からない感じに視線を彷徨わせていた四女エルフさんが俺の方を向き、ざっくばらんというか刹那的というか本質主義というか、掴み所がない感じの結論をくれた。
エルフ姉妹さん言っていたことを俺なりにまとめ直すと、確かに掴み所がない四女エルフさんの言葉が俺的には理解しやすいし嬉しい。そういうものと思ってこれからの付き合いに活かしていこう。
「ハイ!わた――」
エルフ姉妹さん達の方に区切りがついたので次は、と視線を向けたら勢いよく手を挙げた例の子が再びインターセプトされた。
3人の内1人が1人を抑え込んでいる内に、残る1人が説明してくれた。
本当に、主目的は駐在エルフさんのお世話だった。彼女達3人が≪金剛城≫へ来たときはエルフは駐在エルフさんだけだったが、今はその姉妹3人が加わり4人のお世話をしているそうだ。
「後宮にいる以上私達も――」
そもそもこの3人はエルフさん達にとって奉仕種族みたいな人種の流れを汲むそうで、現在はそういう家系となっていてエルフさん達のお世話が生き甲斐らしい。主人と定めたエルフさんの性的指向と性的嗜好次第では主人やそのパートナーと子供を作ったりはあるそうだ。なおそれが理由でトラブルが発生しない場合に限る。
「だからバッチコイですよ!」
とうとう妨害を振り切った奉仕過激派の気配のする子が満面の笑みで宣言した。
旧エルフ星出身者のエルフじゃない3人組も最近スキンシップが激しいと思ったらそういうことだった。今後は彼女達もそういうつもりでいると理解しておくべきだろう。
それはそれとして、奉仕過激派らしき子は試しに自由にさせてあげても良いんじゃないかなとは思う。機械的知性達の奉仕過激派とちょこちょこ話したりして奉仕過激派には慣れてるつもりだし、それで何かあったらその時考えるってことで。




