02-15
海老蝦蛄惑星再構成プロジェクトは一度保留して、先に製造用拠点を建造した方が良いんじゃないかと提案したところプロジェクトの一歩目がそうだと返って来た。一か所に腰を据えるとパトロン的ギフターがまたなんかせっついてくるんじゃないかと言うのは皆も共通した懸念だったらしい。
先送りする理由も必要もなかったので、プロジェクトスタート。
≪金剛城≫は推進力よりもシールド性能とかに比重を置いている防衛拠点なのに対して、今回建造予定の製造用拠点は逆に多少シールド性能に劣っても推進力に比重を置いた移動拠点になる。
特に人が居住する予定もないのとあっちこっち移動させるのを見越して、≪金剛城≫のような何十万人が永住しても差し障りない都市機能は搭載せずシールドよりも足回り優先との意見で全会一致したそうだ。俺もそこに居たら賛成票を投じた。
ぶっちゃけ≪金剛城≫のシールドは平時用でも過剰なくらいに頑丈だし、緊急時用シールドを起動するのは定期点検の時だけだ。
【製造型移動拠点イショホルスプラティプテルス】の名前は≪日長城≫になっていた。≪金剛城≫の金剛が鉱物の名前だからとそれに合わせたらしい。
見た目は球体を上下から押しつぶして前後に引き延ばした楕円体になる予定。
命名とデザインはツルスベさん。趣味100パーセントでやったとちょっと自慢げだった。
≪日長城≫の管理をどの機械的知性のコミュニティが担うかは機械的知性達が決めることになっているので、海老蝦蛄惑星再構成プロジェクトの現段階というかこのプロジェクトにおいて俺がすることはもうない。
なにしよう。
「世界樹的な木ってある?」
暇を持て余してたところに駐在エルフさんが食堂のリラクゼーションスペースでぼうっとしてるのを見つけたので、益体もないことを訊いてみる。
「せか……? ああ、あの娯楽作品によく出てくるやつですね」
俺を始め一部のクルーがエルフの出てくる娯楽作品を薦めていたのが功を奏して、今や駐在エルフさんもすっかりエルフあるあるを理解してくれるようになっている。
「少なくとも私と、私の姉妹達は知りませんね。旧母星から持ち出した各種の遺伝子サンプルにもなかったはずです」
だよね。そんなのがあったら目を通したときに騒いでる自信がある。
「じゃあ探そう。この広い宇宙のどこかにはきっとエルフにぴったりの世界樹があるんじゃないだろうか」
オーク(女性であり、それを脇に置いてもエルフに対する思い入れは特にない)とエルフ(種の起源的にはどっちかというとドリュアスかもしれない)も出会ったんだし、きっと世界樹にも出会える。
「探さなくても作れば良いのでは?」
ふらっと現れたふわふわヘアーさんが俺の側に転がりながら夢もロマンもないことを言う。
いや、エルフが世界樹を生み出すのもアリか。
「≪金剛城≫の技術でどうにかなるかな」
確信をもって周囲を確認すると、やっぱり無機質美人のホログラムが居た。でもなんで張り付くみたいに俺の後ろにいたのか。
「惑星規模の樹木は宇宙怪獣の一種として存在します。そして現在の≪金剛城≫の技術では既知の樹木を宇宙怪獣へと変質させることは不可能です」
俺と駐在エルフさんとふわふわヘアーさんの視線が集中するのを待っていたようなタイミングですぱっと教えてくれた。
「宇宙怪獣なのか……惑星を飛び出すくらい大きくなったらそりゃあ宇宙怪獣だな」
帝国における宇宙怪獣の大雑把な定義は生身で恒星間航行を可能にする肉体と、人種との相互コミュニケーションが成り立たない精神構造もしくは知性だっていうのはちゃんと覚えている。
つまり植物でも宇宙空間で生きていて、なんか自我があるみたいだと判断できるなら宇宙怪獣に分類されるのは当然だ。植物なのに怪獣。それを言うと宇宙空間で活きているのに植物なのかってなるし今更だった。
「≪金剛城≫で作れないってなると宇宙怪獣化した樹木を探すしか……世界樹って別に惑星に根を張って大きく育てばそれでいいんじゃないかしら?」
「そう言われると確かにそう思う」
ふわふわヘアーさんが宇宙怪獣系の世界樹から植物の範疇に収まる世界樹へ話の流れを切り替えたが、俺としては別に宇宙怪獣系世界樹にこだわる理由もなかった。
「そもそも世界樹の定義が『なんか大きい樹木』くらいのものでしょうし、キロメートル単位のサイズならそれでもう世界樹と呼んでしまって良いかもしれませんね」
エルフである駐在エルフさんがそれで良いなら良いか。
「ただ大きくするだけなら今の≪金剛城≫でもできそうかな?」
「宇宙環境での生存と活動を目的としないならば、既知の樹木を所有されている惑星における軌道エレベーターサイズまで成長するように変質させることは可能です」
「じゃ、とりあえずデザインしてシミュレートだけしてみよっか」
駐在エルフさんとふわふわヘアーさんと無機質美人のホログラムが作業してる横でごろごろしたりする平穏な時間はとても良いものだ。




