02-04
いつぞやと同じように≪金剛城≫というか俺個人に帰属する意識を持つ機械的知性が回収したためか、ワームホールの向こう側で拾った特型2番コンテナ1個の所有権は俺に設定されていた。
この段階で何を言っても現実は変わらない。
俺がスキンシップルームから出して貰えなかった間に無機質美人のホログラムが指示を出し検疫を終わらせていたコンテナを開いた後は、≪海老介≫の時と同じように出てきた蜘蛛のような蜂のようなドローンに組み立てを任せた。
あのドローンが入ってたってことは≪海老介≫と同じ技術体系のギフターがくれた物なのだろう。作為があからさまなシチュエーションで拾ったギフトである以上この推測は今更か。
≪海老介≫の時の蜘蛛蜂ドローンも合流させたら作業が速くならないかな。今どこにあるか分からないからインプラントデバイス経由で≪金剛城≫の資材関係のデータベースを漁ってみよう。
「あーあー見えてない見えてない。見てない見てない。見えない見えない」
データベースの方に意識を集中させていたら、元レディアマゾネスSPさん達の警護チームが解散になってもリーダーと呼ばれ続けている馬由来人種のリーダーさんが聞き捨てならないことをぼやき始めた。
社会性の強い馬由来人種だからか≪金剛城≫のクルーとなっている俺含めた20人ほどの集団の取りまとめを率先して行ってくれることが多いリーダーさんは、それ故にというべきか結構繊細な人だ。
そんな彼女が物理的に目を塞ぐような事態が起こっているらしい。
目の前にあるだろう現実に目を向けたくない。
「んー……このくらいなら別に見ないことにするほどでもないんじゃないかな?」
≪金剛城≫電子戦アリVR格闘トーナメント覇者の豹由来人種、しなやかスレンダーさんがリーダーさんの反応に疑問を呈している。
しなやかスレンダーさんは疑似恒星光のサンルームで木の枝に上ってる時を別にすれば、今でも護衛チームの時と同じようにキリっとしている少数派だ。豹由来人種の中でも特別に黒豹由来人種と区分される黒髪と相まって纏う雰囲気がとてもカッコイイ。
あと万事において割り切るのが早いし細かいことを気にしない。
「ん……んぅ? ……うん。問題ないでしょ」
リーダーさんの反応としなやかスレンダーさんの反応を天秤にかけた結果ゆっくり薄っすら目を開くと、船を組み立て始めている群れとは別行動をとっている沢山の蜘蛛蜂モドキが以前にも見たような覚えのある真球っぽい何かを抱えて飛んでくるところだった。
前にもあったし、多分同じようなものだし、きっと問題ない。
一応無機質美人のホログラムに確認を取り、真球っぽい何かを前の奴と同じように≪金剛城≫の中枢へ運ぶとこれまた前の奴と同じようにドロッと解けて部屋に浸透した。ホログラムなのか生体なのか分からないクルーの増員はなかったのが前回との違いだな。
あとは無機質美人のホログラムに任せて変化があったら教えてもらうことにしよう。
……実は今見えないところで無機質美人のホログラムが同類と主導権を争って殴り合ってたりなんて想像が脳裏をよぎって、咄嗟に振り払った。
「先日回収したギフトコンテナの中身について報告します。中枢コンピューターのバージョンアップキットおよび、パッケージされた【近接戦闘特化巡洋艦スクィラ】でした。目玉は異次元潜航機構と、関連した異次元干渉技術です」
翌日、10日に1回くらいのクルーみんなで集まって食べる食事の後、無機質美人のホログラムがギフトに関する確認作業の結果を報告してくれた。
出身惑星やら種族が違うので生物時計のサイクルにも差があり、≪金剛城≫での生活に慣れた今は無理に活動時間帯を揃えることはなくなっている。
メディカルポッドとか使えば睡眠は短時間で済むし生体時間の調節も睡眠中に整えてくれるものの、そうしない生活が贅沢というものなので特に用事がない時は本来の生体時間優先の生活を送るのが≪金剛城≫スタイル。
つまりクルーの皆が揃うタイミングというのは結構少なく、折角皆でご飯を食べた後でわいわいと楽しそうだったのに何人かが現実を直視できずにいる現状はちょっとかわいそうだ。
チラリと周囲をうかがうと、案の定ムチムチ美人さんを筆頭としてギフト関係においては繊細な一部の人達の瞳が虚無を映していた。
うん。虚無をのぞき込んでいる人達がかわいそうなので、この話題を終わらせるべく疑問点を解消してしまおう。
まず、宇宙船で近接戦闘特化などという頭のおかしい巡洋艦は一時棚上げする。
帝国の一般的な例を挙げるとすれば、速度に劣る輸送船でも戦闘速度が秒速数百メートルを下回ることは稀だ。そんな速度で有効射程十数キロメートルのレーザーを撃ち合う戦場における近接戦闘がどういったものなのかはとても気になるが、棚上げする。
心の棚の拡張が済んだら本題。
「異次元どうこうってのは、今まで使ってた亜次元潜航機構とかとは多分違うんだよね?」
帝国でシールドや超光速航行にワープまで幅広く応用されているのは亜次元関係技術。ワームホールの調査を始めた段階で与えられた異次元とかいうちょっと耳慣れない単語に関する技術が今は大事。
誰か俺以外が無機質美人のホログラムに訊いてくれればいいのに。
「はい。別物です」
別物かー。
「より正確には、亜次元干渉技術の発展形が異次元干渉技術です」
発展しちゃったかー。
小さい方のダブルで一番さんとかしなやかスレンダーさん辺りはもう割り切ったのか、無機質美人のホログラムの相手を俺に任せて食堂隅のリラクゼーションスペースでゴロゴロし始めている。近くの壁のスピーカーがオンラインのようなので話は聞いていると思う。
ムチムチ美人さんとかリーダーさんあたりは、話は聞いているんだろうけどまだ目が虚無ってる。
駐在エルフさんを始めとした旧エルフ星出身の面々は、自分たちの知らない宇宙関連の話が面白いのか興味津々で無機質美人のホログラムの話を聞いている。
「例えるならば、亜次元干渉技術はこの紙媒体書籍の一冊の本の中でページを前に後ろにめくったりする技術です」
左手に乗せた本のホログラムのページをペラペラして見せる無機質美人のホログラム。
なんで紙媒体書籍のホログラムで説明しているんだろうか。紙媒体書籍を好む旧エルフ星出身者が一番熱心に聞いているからか。
「異次元干渉技術は、別の書籍間を行き来したりどうこうする技術です」
新たに右手に本のホログラムを取り出して、指と同じ大きさの無機質美人のホログラムを左右の本の間で行き来させたり本のホログラムを開いたり閉じたりし始めた。
紙媒体書籍じゃなくてメモリーキューブとかじゃだめだったのかな。亜次元ならディレクトリの移動とかそういう感じに。
その後も主に旧エルフ星出身の面々の質問に応じて色々説明してくれたが、俺の頭では≪金剛城≫の活動範囲が広がったんだろうなということくらいしかわからなかった。
あと、異次元間超小型ワームホール式通信が可能になったのでワームホールの向こう側が異次元でも通信できるようになったそうだ。ワームホールって今までも使ってたんだなと思いました。言われるまで同じワームホールだという認識が無かった。
ワームホールってなんだろう。
さっき説明してくれてた気もするけどもう思い出せない。
思い出せないなら思い出さなくて良いか。




