01-03
トゥルーギフトの前にギフトについて説明を受けた。
ギフトはワームホールから飛び出してくるなんかすごいもの。
大概の場合において現行技術の少し先、頑張って研究を続けたらそのうち再現の目処が立ちそうって物が多いらしい。
実際に第3世代のワープドライブとか実用化されてるものも具体例で教えてもらった。
もちろんいくら頑張っても解明のきっかけすらつかめそうにない技術の断絶の向こう側にある類のギフトも存在する。
異型コンテナと呼ばれる、1辺が5メートルの立方体のコンテナを例としてみせられた。中に入って測ってみるとなんでか異型コンテナの容積は150立方メートルだった。
不思議だね。
5かける5は25。25かける5は125。
構造材云々の話じゃなかった。
異型コンテナは結構な数が昔から発見されているのに原理がまるで解明されていないそうだ。研究者さん達ガンバレ。
本題のトゥルーギフト。
これはギフトの内、完全にワンオフかつ個人に所有権が固定されているもので現行技術のはるか先の物品が多い。所有権は継承できたりできなかったりする。
継承できる具体例はこの国の宙軍の総旗艦。
代々の皇帝陛下が気付けば継承しており、継承権を争っている間は姿が消え、帝位継承者が決まり戴冠式をやるぞって頃には戻ってきてくれてるそうだ。
俺が拾った特型2番コンテナの中身はコンテナの操作パネルに触れたら内容物の概要が表示されたと言う。
それによって俺に所有権が付与されているとか現行技術の27世代先の機体だとか断言できたわけだ。
で、大事なのが所有権の固定されたトゥルーギフトを他者が奪おうとすると制御できなくなるらしい点。
以前にとある国が当時の4世代先のフリゲートを拾った人物から取り上げたところ、勝手に飛び回ってその国の有人惑星を破壊して回ったとのこと。
俺が拾ったのは巡洋艦なので、取り上げようとしたらもっと危ないとムチムチ美人さんに真顔で言われた。美人の真顔は怖い。レディアマゾネスSPさん達も顔色悪かったし。
そんなこんなで高級ホテルの一室に缶詰でムチムチ美人さんに色々教わったり、特例でムチムチ美人さんが試験官をして機材をホテルに無理やり運び込んで巡洋艦の免許を取得したりした。
宇宙船関連の資格は万が一を想定してインプラントデバイスを完全オフラインにして試験を受けるので、最悪の場合はブレインインストールマシンを使って巡洋艦の操作に関して脳に書き込むよって言われてしまってとてものびのび受験できた。
より事実に近い言い方をするなら叩けば伸びる感じに試験結果が向上した。
上流階級じゃ一般的って言われても下々の俺としては脳に書き込むなんて怖くて数年前の受験より必死になった。
1回使っていい結果だけ目に着けば次に使う時はもう怖くないと思う。そんな機会が何度も俺の人生にあって、装置の操作を任せられる信頼できる人が居れば試してみるのも良いかもしれない。
巡洋艦の所持や操縦の資格を取得できたので、俺が拾ったコンテナを保管してある特別ドックに行く許可が下りた。
下手な人物に目を着けられるとトラブルが弾けて恒星系1つが無人化しかねないのでハビタットの表口のドックではなく、ワケアリとか公にできない船や荷物を運び込む裏口の方でコンテナを保管しているらしい。
本当にそういうドックあったんだなって思いました。
俺が拾った特型2番コンテナだけではなく、そのコンテナに連結してあった1レイヤー9個の大型コンテナとついでのように≪千亀≫もドックに係留されていた。
特型2番コンテナに入っているはずの巡洋艦はこのドックで組み立ててほしいとムチムチ美人さんに言われている。組み立てを監視されたくないならあらゆるセンサーを物理的に遮断するという譲歩付き。
正直なところよくわからん船を自国内で乗り回されたくないのはとてもよく分かるのでそこまで無理を言うつもりはない。
こっちからも含むところはないとアピールしておけば出港撃墜なんて最短ルートは避けられるかもしれないし。
とりあえず特型2番コンテナの操作パネルに触れてみる。
<パスワードを入力して下さい>
バイオメトリクス認証じゃないのか。
いや、それならそれで俺のデータはどこから持ってきたんだって話になる。
「知るかボケェ」
<認証しました>
俺のやる気のない罵倒が残響するドックの中、無音のままコンテナが開いた。
なんだこの茶番。絶対何言っても認証しただろ。
まず真っ先に目に入って来たのは蜘蛛と羽根がない蜂を混ぜたような俺と同じくらいの大きさのドローンぽいやつ。
蜘蛛も蜂も運んだことがあるのでその時に画像データは見た。なんのために輸送しないといけなかったんだろう。
その蜘蛛と蜂ミックスのドローン的なやつが渡してきた端末を弄ってみると、どうやらこの蜘蛛蜂モドキが巡洋艦を組み立てたりリパッケージしたり撃墜した宇宙船の残骸を解体や分別してくれるようだ。
なんで宇宙船を撃墜する前提なのか。
他にどうしようもないので巡洋艦の組み立てを指示すると蜘蛛蜂モドキが数十機ほどワラワラと動き始めた。
ぼうっと眺めていたら蜘蛛蜂モドキの1機に抱えられドックの入口の方へと運ばれた。コンテナの開口部の真ん前に立ってたら邪魔だよなごめん。
ムチムチ美人さんやレディアマゾネスSPさん達が蜘蛛蜂モドキに運ばれる俺を追いかけてわたわたしてるのはちょっと可愛かった。
今でも彼女達は思い出したように色仕掛けを惰性で試してるが、わざとらしくアピールされるよりよっぽど惚れそうになった。惚れないけど。
それはそれとして蜘蛛蜂モドキに渡された端末をもう一度見てみれば、巡洋艦の組み立て完了まで残り10日と表示されている。早すぎない?
ムチムチ美人さんに教えたら顔が引きつってた。早すぎるよね。時空が歪んでいる。