01-24
旧エルフ星に戻ってぼんやり回復作業を眺めること3日後、ムチムチ美人さんやレディアマゾネスSPさん達に無機質美人のホログラムを加えた面々に食堂へ呼ばれた。
いつの間にかすっかり≪金剛城≫のクルーになってる駐在エルフさんは不参加。
「大事な話があります」
なんだか前にも見たことがあるような雰囲気のムチムチ美人さんが代表して話を始めた。
「まず前提として、現在の帝国及び帝国の周辺国家は銀河間の移動を、少なくとも公式に成し遂げていません」
頷きを返す。
どこの国家も銀河全体の把握すらできてない。そのくらいは俺も知っている。
「つまり今回、帝国民としてはおそらく初めて私たちは銀河間の航行を成し遂げました」
これも頷きを返す。
公式には誰もできてないらしいので多分そうだろうなと俺も思う。
「ぶっちゃけこれ公表すると各国家がトゥルーギフト関係で不干渉を掲げていてもヤバヤバなので黙っておきません?」
「急に凄まじく言葉遣いが乱れてるけど、俺もそう思う。公表しても良いことないだろうし。でも皆は所属してる組織に報告義務とかないの?」
「大丈夫です。今回の旅行……遠征にはそれぞれが休暇を取って参加していますので。でも個人として休暇をとって今回ついてきましたけど戻ると報告義務はなくても吸い出されちゃう危険があるので身柄を引き受けて欲しいです。具体的には現状の各所属先には気に入ったので貰っておく的な通達と一緒にちょっと……≪金剛城≫が調査した帝国最寄りの恒星系に関するデータなんかを送付してもらえればなと」
吸い出されるってブレインインストールマシン系の技術だよなあ。
やっぱそういうのあるんだなこわい。
「帝国最寄りの恒星系は確か遠征開始数分で調査が終わってたし、移住可能惑星も無かったと思うから大事にならないだろうし良いけど……」
それよりも身柄を引き受けるとか貰っておくってなに。
字面が酷くて聞くに聞けない。
「良かった。≪金剛城≫的には大したことなくとも帝国の現状では凄まじく価値があるので公務員10人と交換なら何の問題もなく受け入れられると思います。私達の身柄を引き受けてもらった後の扱いはお任せしますけど、お仕事辞めちゃうのでできればこのまま一緒に≪金剛城≫に居たいかなというのが我々の総意です」
「総意かー」
レディアマゾネスSPさん達は皆頷いているし、無機質美人のホログラムも頷いている。
ちょこちょこ開催されている各種競技会の優勝賞品としてプラトニックプラスアルファな触れ合いの時間をそれぞれが作ってくれることもあって俺としては皆と仲良くなってるつもりだ。
皆が≪金剛城≫に本格的に引っ越すのは嬉しいし好きに使ってもらって構わない。
≪金剛城≫なら俺が何をするでもなく衣食住も娯楽も困らないので俺が負担することは何もない。
ただ、遠征を終えた後は何をしようとか考えていなかったので自分はどうするかと悩んでしまう。
ところで駐在エルフさんは居ないのにどうして無機質美人のホログラムは居るんだろうか。ちょっと逃避気味に気になった。
「補足いたしますと、皆様が勤め先へ戻ったとすると体裁を整えた辞令なりで呼び出された後に人格の保障が為されない手段に依り数年間の記憶を出力させられる為、この≪金剛城≫へ戻ってくることは二度とありません。いかなる結果になろうと違法にならないように帝国内の一部の集団が各種手続き等を完了していると確認ができております」
「……ああ、超小型人工ワームホール式通信中継器を不可触領域に置いてあるから帝国のネットワークに接続できるのか」
無機質美人のホログラムがなんで帝国内の手続きどうこうを知っているのかと思ったら俺の思い付きを有効活用していたらしい。
超小型人工ワームホール式通信中継器は実質距離ゼロで通信するようなものなので隣の銀河からでもタイムラグなしと言えるくらいの高速通信を行える。
現行技術で同じ速度の通信を実現するのはいつになるのだろうか。
帝国だと惑星間でも無視できないラグがあるんだよな。
ギフトってすごい。
「皆が≪金剛城≫に引っ越して来るのは嬉しい。正直、年単位の休暇を取らせちゃって次遊んだりできるのいつになるかなってさみしかったんだよね」
「でも何か気になることがある?」
ムチムチ美人さんがちょっと優しい声音で促して来る。
お姉さんって感じでぐっとくる。
「勢いで≪金剛城≫を作って、≪金剛城≫を作ったから活かせそうな深宇宙の探索をするって決めて、その後何するかとか全然考えてなかったんだよ。とりあえずまっすぐ≪金剛城≫を移動させて今回の遠征に区切りはついたけど……一回帰った後何しよう?」
「何かしたいことはありませんか?」
「んん……皆と今回の遠征みたいにただ喋ってるだけだったり、遊んでみたり、なんか研究してるの眺めたりだらだらしたいかな」
「それでいいと思いますよ。特別しなければいけないこともありません。当面は旧エルフ星回復プロジェクトとエルフの移住を目標に空いた時間を今までのように過ごせばなんとなくしっかりやっているように思えるんじゃないですか?」
「ああ、その2つがあった。じゃあ、そんな感じで。1度帝国に戻って仕事辞めたり荷物回収したら新エルフ星に行こう」
レディアマゾネスSPさん達も賛成してくれたのでそういうことになった。
無機質美人のホログラムはやりたいことを伝えればあとは上手いこと行くように手伝ってくれる。
そうだ。ムチムチ美人さんやレディアマゾネスSPさん達が捕まらないように完了してる手続きだかを無機質美人のホログラムに無かったことにしてもらおう。
違法じゃないってことにしないといけない事やる気だったなら正しい手順でやめるように言っても無駄だろう。
俺も無機質美人のホログラムに悪いこと頼まないように意識しないとな。




