04-30
「厳正な選考と審査と討論の結果、≪金剛城≫を中心としたコミュニティは今後『金剛帝国』を名乗ることとなりました」
ぱちぱちとお付き合い程度の拍手が疎らに響いた。全く拍手がないよりちょっと悲しくなった。
「厳正な選考と審査と討論なんてしましたっけ?」
手拍子なのか拍手なのか分からない感じに手を叩いていたムチムチ美人さんが今更な疑問を仰る。
「ちょいちょいもう国家として帝国名乗ろうよ、みたいなこと皆言ってたから」
その場合の皇帝は俺とのことなので、そんな重い役目はちょっと無理と一回は金剛経済圏に妥協して貰ってたあの話ですよ。
ぎしゃーさんがこてんと首をかしげる。
「厳正?」
しなやかスレンダーさんがぎしゃーさんの隣にすっと並んで、こてんと首をかしげる。
「選考?」
ツルスベさんがしなやかスレンダーさんの隣にすっと並んで、こてんと首をかしげる。
「審査?」
デビごっこさんがツルスベさんの隣にすっと並んで、こてんと首をかしげる。
「討論?」
いつのまにそんな打ち合わせしたんだろう。普段はしなやかスレンダーさんよりも身長の高いツルスベさんがわざわざ小さくなって、四人で身長の高い順に並んでるのは芸が細かい……いや、ツルスベさんとしなやかスレンダーさんの位置を逆にすればそんな仕込みは要らなかったでしょ。
「結局みんな一回は帝国にしようみたいなこと言ってた気がしなくもないので、厳正な選考と審査と討論の結果ってことで」
「何かしらの機会に議題に挙げれば良かったのではないの?」
俺の完璧な論理展開にふわふわヘアーさんが尚も食い下がる。正論ですね。
「じゃあ決をとりまーす。反対の人ー?」
俺がぐぬぬと反論に窮していると、ゆるくてふわふわさんが雑に解決を図ってくれた。でも先に反対からカウントするのはなぜ。
「反対はなし、とー。では賛成の人ー?」
見間違いようのない反対派の人数カウントを終え、ゆるくてふわふわさんがすでに挙手しながら賛成派を募る。ゆるくてふわふわさんが真横かなって角度に腕を伸ばしてるのは多分挙手だと思う。
ゆるくてふわふわさんの声に合わせてしゅばっと俺以外の人数分の腕が挙がったのは、絶対に裏で打ち合わせしてる。
みんなの高速コミュニケーションに俺がついて行けないからってズルイズルイ。でも俺が頑張ってそっちに参加しても、今度は即興で打ち合わせた小ネタを披露する相手がいなくなるのか。やっぱ俺はこっち側で良いかな。
「全会一致でーす」
俺が挙手する前に全会一致を宣言するのはフライングでは?
「順序は前後していますが、先に建国を宣言していますから賛成と見做しました」
俺だけ票数外扱い……とちょっとだけショックを受けたのを察したらしいリーダーさんが、ゆるくてふわふわさんの雑進行をフォローしてくれた。これ、フォローされたのは俺なのかゆるくてふわふわさんなのか。
「細かいこと気にスンナー」
小さい方のダブルで一番さんが手元で何か機械を組み立てながら雑に慰めてくれるが、小さい部品を自室や工作室以外で広げると後片付け大変じゃないのかな。
「細かくはありませんが、他所順番が前後しただけということで、あまり気にしないで良いと思いますよ」
先輩さんはどうにか頑張って慰めてくれるが、それ、さっきリーダーさんが言ってたよ。
俺はそこまで気にしてないつもりだったけど、三人に立て続けに慰められるってことは凹んでるように見えるのかな。
「ストレスを感じたときは牛乳が良いらしいですよ」
牛由来人種の大きい方のダブルで一番さんが、俺の頭くらいある大きさで白い液体に満たされたカップを俺の前においてくれた。なぜ牛乳……。
流石に大きすぎて重すぎて俺には持てないのでストローでちゅーっと飲む。うまい。
「みんな、会議の後の打ち上げ焼き肉パーティーに意識が向きすぎて、ちょっと会議の扱いが雑になってたなっていう罪悪感があるだけだよ」
ギフト化幼馴染殿がパックされた何かをそっとくれた。
会議終わりの宣言してないけど、なんか流れ解散から打ち上げの雰囲気になってるのは確かだ。
「農業に興味がおありとのことで、新作の地耕栽培野菜を各種取り寄せました。取り扱う参考にしてください」
駐在エルフさんが俺のインプラントデバイスに、このあとの打ち上げ焼き肉パーティーで使う野菜のリストを送ってくれた。品種名と適した調理法と雑感みたいな内容らしい。
リストを見つつ、みんなの移動に合わせて俺も打ち上げ焼き肉パーティー開錠へ行こう。焼き肉なのに野菜の方が気になるって初めてかもしれない。
「これとこれは似てますけどぉ、味も食感も全然違うんですよぉ」
打ち上げ焼き肉パーティーに到着してすぐ、すでにわいわいとあれこれ焼いたり機械的知性さん達が俺たちの到着に先んじて焼いてくれていたのを食べている面々からおっとり長女エルフさんが抜け出してきと思ったら、焼いたお野菜盛りのお皿を手渡され、さあ食えと促された。
皿に盛られた野菜は全部焼いた見た目がそっくりなのに、フォーク刺した瞬間からして手ごたえは違うし口に入れると歯ごたえも味も別物で、先に聞かされてなかったら後から食べたほうが生焼けだったのかと咄嗟に吐き出してたかもしれない。
「連続して食べると頭おかしくなるわ」
「お口直しにこちらのドリンクをどうぞ」
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子がそっとタンブラーを差し出してくれるので受け取り中身を飲むと、たった今食べた野菜の風味を感じる炭酸飲料だった。むせた。不透明なタンブラーの所為で口に入るまで炭酸だと思わなかった罠。
悪戯に成功したメイド服姿の下手人はすでにどこかへ消えている。
「あの、これらも美味しいんですけど……その……」
苦労人ぽい三女エルフさんがお皿に野菜を載せて差し出してくれる。お皿に載ってるのは全部見た目が同じなので、好みだったりする一種類だけ薦めてくれたのかなと思ったが、さっきの例もあるし、何か言いたげな苦労人ぽい三女エルフさんの様子もあり手をつけるのは躊躇する。
「全部美味しい。美味しいけど、どれかは辛い。どれが辛いのかはもう分からない」
掴み所がない四女エルフさんが深刻そうな顔で教えてくれた。なぜ見た目が同じで味が違うものを同じ皿に載せたのか。
「辛いってどのくらいですかね……」
皿は受け取っても、まだちょっと勇気が足りない。
「美味しいと辛いが鬩ぎ合って、辛いけど食べちゃうくらいの辛さ」
その説明は辛さの程度が分からないんですわ。
勇気を出して一つ二つと食べていき、辛いのを引かずに美味しいなーと思ってたら半分くらいで無事辛さで悶絶。美味しいけど本当にこんな食べ方する物なのか疑問に思いました。
「お口直しにこちらのドリンクをどうぞ」
ついさっき聞いたような文言で白手袋擦り合わせる拳の鋭い子が透明なコップで飲み物をくれた。炭酸じゃないヨシ。
カパッと一口飲んだらそれだけで口や喉の辛さが消えて逆に不安になった。これ合法ですかねと視線で問うと、拳をぐっとアピールしてすすっと消えていった。多分きっと合法。
「お口直しにこちらのドリンクをどうぞ」
奉仕過激派系の子がハートの形の透明な容器に入ったドピンクの液体をそっと差し出してきた。
お口直しした直後ですが? というか本当に飲み物かこれ? 特定機能に限定された栄養ドリンクとかじゃないの?
ハートの容器は一応受け取ったものの、ちょっとだけ観察して近くの機械的知性さんを呼んで預かってもらった。
奉仕過激派系の子が、悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子と白手袋擦り合わせる拳の鋭い子に両脇を抑えられて連行されていったのはスルーしておくし、食事中だからまだ早いっていう言葉も聞かなかったことにしておく。食後でも飲みたくなくなった。
「皇帝陛下いえぇーい!」
帝国末妹皇女ちゃんががばっと両手を高く挙げて小走りに寄ってきた。その後ろには帝国皇女リーダーさんが顔を青くして制止しようと追いかけている。
「皇帝陛下、質問があります!」
「どうぞー」
「私たち姉妹、今まで帝国皇女姉妹とか元帝国皇女姉妹とか呼ばれていましたが、これからどうしましょう?」
「え……どうしよう……」
帝国皇女末妹ちゃんはすぱっと要件を切り出したが、その後ろで帝国皇女リーダーさんが凄まじく狼狽えていてちょっとかわいそう……いや、めっちゃかわいそう。
「その前に、俺、一応は皇帝的なポジションになる……なった? らしいけど、今まで通りで良いからね」
「あの、え、あ、はい……はい。かしこまりました」
視線をあっちへこっちへ向けた後に何度か頷き、帝国皇女リーダーさんは平常を取り戻した。一安心。多分誰かが裏でアドバイスなりしてくれたんだろう。誰だろう。
「それで、グループの呼び方か……そもそも一つのグループ扱いで良いの?」
「はい。一応は姉妹ですし、≪金剛城≫に保護して頂いてからは以前の軟禁も同然の生活を送っていたころよりもはるかに仲が良くなりましたので、これからも私どもは一纏めに扱ってください」
帝国皇女リーダーさん、あわあわしてたのは落ち着いたけど、何となく前よりも丁寧な感じがする……ま、すぐ慣れるでしょ。
「んー……じゃあシャチ姉妹と呼ぼう」
帝国皇女姉妹さん達が乗ってきたのはシャチがどうのこうのって名前の船だったはずなので悪くないと思う。
「人種的にはシャチって何の関係もないですけど、わかりました。これからは≪金剛城≫シャチ姉妹を名乗らせて頂きます。サー!」
サーってどういう挨拶だろう。
俺がどう反応したものかと困った数秒の間に、帝国皇女末妹ちゃん改めシャチ姉妹末妹ちゃんは、帝国皇女リーダーさん改めシャチ姉妹リーダーさんに羽交い絞めにされ引き摺られて去っていった。
そうして≪金剛城≫クルーのみんなとワイワイ焼き肉パーティーを楽しみ、恒例となった〆のキャンプファイヤーと火を囲んでの踊りの後、流れるような連携で広くて設備の整ったベッドルームに案内された。
俺の本体および複製身体の全てと、≪金剛城≫クルーの内俺と恋人だったりパートナーだったり夫婦だったり伴侶だったりなみんなの本体が揃っての集団戦は初めてのことで驚いたら、帝国建国記念の乱痴気騒ぎだと言われて納得。文字通り乱痴気騒ぎだし。
気づいたら帝国皇女姉妹さん達改めシャチ姉妹さん達も居て再び驚かされたが、数十年だか親しくしていたらそうもなるかとすんなり受け入れてしまった。
俺は、遠くない未来に生まれてくるだろう沢山の子供たちに胸を張れるよう、一人前の農業従事者になって見せる決意を新たにした。
――04_Indestructible-Fortress_完――
――なんかすごい性能の宇宙船を拾った_完――




