04-27
俺たちの見守るホロウィンドウの中で、蟻由来人種の人達の代表者と≪金剛城≫クルーというか金剛経済圏の代表者が向かい合っている。
「我々、黒曜甲銀河統一王国と、貴方方、金剛経済圏の友好的な第一歩を踏み出せたことを嬉しく思います」
「我々、金剛経済圏と、貴方方、黒曜甲銀河統一王国の長期的友好関係を望みあえる出会いを嬉しく思います」
蟻由来人種の人達の国家名は黒曜甲銀河統一王国と翻訳させてもらうことになった。それぞれの言語が違うし、そもそも発声器官も違うからその辺は翻訳前提が宇宙スタンダード。
国交? 樹立のセレモニーで黒曜甲銀河統一王国側の代表者と挨拶しているのは帝国皇女末妹ちゃん。相手側は代表であっても国主ではないということで、相手側代表者の国内における立場とかを鑑みて大体同じくらいじゃね? となった帝国皇女さん達から代表者が選出された。
挨拶に際して俺が出ないと駄目かなと鬱々としていたら、代表者決まったよって言われてびっくりしたけど安堵したのが数日前。
「帝国にいたときは公務なんて経験なかったらしいのに、堂々としててスゴイなー」
某帝国の皇女さん達はまともな教育すら望めないくらい扱いがアレだったので、≪金剛城≫クルーとなった帝国皇女さん達も当然公務など無縁だったと聞いた覚えがある。
「皇女とは名ばかりでぇ、奴隷か家畜か道具のようなものだったからこそぉ、こういった皇女らしい待遇や役割に憧れていたそうですよぉ」
おっとり長女エルフさんが帝国皇女末妹ちゃんの重い事情を教えてくれた。きっっっつい。というか喋り方と内容の温度差。
「盟主様よ、彼奴等も今では盟主様より与えられる幸せに満ちておる。案ずることはないぞ」
デビごっこさんが俺の表情から内心を読んで慰めてくれた。でも俺が帝国皇女さん達に幸せを配布した覚えはない。誰がどんな幸せを配って俺の手柄ということにしているのか。
「人が人らしく生きられるっていうのは幸せなんだよ」
しなやかスレンダーさんが哲学みたいなことを言う。
「美味しいもの食べて、楽しく遊んで、ぐっすり寝て、大切な人と触れ合う。こういう風にね。これも幸せの一つの形だね」
座面と背もたれのある幅広いソファに座っていた俺の左にしなやかスレンダーさんが座って俺の腕を抱え込むと、果物っぽいソースのかかったサクサクな何かを口に突っ込まれた。美味しい。
「確かにそれっていうかこれは幸せ。でも≪金剛城≫がなかったらこんな幸せも俺の人生にはなかったなー」
もっというと無機質美人のホログラムがギフトを放り出すところ間違って、そのギフト、≪海老介≫を俺が拾ったからこその今だ。
「金剛経済圏の人達はぁ、大体が命を救われていますしぃ、≪金剛城≫に幸せを貰っていますねぇ」
おっとり長女エルフさんの言う通りだ。寧ろ、直接的に命を救われたわけではないのは俺とムチムチ美人さんと元レディアマゾネスSPさん達という≪金剛城≫の初期クルーな気がする。
「幸せ配る宇宙城塞……なんか新しいキャッチフレーズみたい」
デビごっこさんがぼそっと言う。何のためのキャッチフレーズだろうね。あと独り言のせいかデビっぽい言葉遣いじゃないのがぐっときた。いや、いうほどいつもデビっぽいわけじゃないか。
ぼうっと眺めてセレモニーの中継がいつの間にか終わってた。お互いにあいさつした以外なんも覚えてない。
「大役を完遂した皆さんの妹が帰還しました! どうでした私の雄姿は! ご褒美貰えますよね!」
出張から帰った……わけじゃないな。確か複製身体を動かせる圏内だから複製身体を派遣するって話だったし、セレモニーに出る以外の複製身体を短期休眠させてたのを起こしただけじゃないかな。
「妹分ではあっても妹ではなくない?」
しなやかスレンダーさんが帝国皇女末妹ちゃんをスパっと言葉の刃で切り捨てた。
「同じようなもんです!」
しかし帝国皇女末妹ちゃんは微動だにしない。
「妹であるか否かはさておき、大役を全うしたのは確かであるからして、盟主様は褒美をとらせるのが良い主であろうな」
デビごっこさんの言うことはもっともだ。信賞必罰は鉄則である。
「ご褒美はあげるとして、俺って主なの?」
「それはもう揺るがないと思うわぁ。なにせぇ、金剛帝国の皇帝陛下だものぉ」
「ははー」
俺はおっとり長女エルフさんの言葉の刃で両断された。帝国皇女末妹ちゃんは大げさな動作で俺の前に跪いている。
「なんかこの絵面に見覚えが……あ、叙爵式。昔、新しい騎士がどうこうって一時期それ一色だったの覚えてる」
現存するのか知らない某帝国のハビタットに棲んでた頃の記憶だ。懐かしー。
「あれだよね、皇帝が跪いた人の両肩切り落として首刎ねる儀式」
「違いますよ?!」
俺でも知ってるってアピールしたら帝国皇女末妹ちゃんに全力で否定された。しなやかスレンダーさんもデビごっこさんも呆れた顔で首を横に振っている。おっとり長女エルフさんだけはあらあらって頬に手を当ててる。
「そうだっけ? ……あ、剣でバシバシやってたけど、切ったりはしてなかったか」
ギリギリ正しい記憶を掘り当てられた。でも二十年も三十年も前の記憶とか、俺の脳みそじゃ正しく保存しておくのは無理だ。≪金剛城≫へ引っ越して以来、記憶用ストレージにバックアップとってるから完全な記憶を取り出そうと思えば取り出せるけど、自前の記憶力だけじゃこんなもんだな。
「バシバシと表現するほど力強く叩きはしないぞ。精々、触れる程度だな」
そういった儀式に一家言ありそうなデビごっこさんが、俺の記憶にあるのとほとんど同じ儀式の映像をホロウィンドウで表示してくれた。そうそうこういうの。
「皇帝になったらこういう儀式しないとね」
「あらあら。私も騎士様になるのかしらぁ」
しなやかスレンダーさんがニマニマと俺をいじめる。貴族とか騎士がいない国家構造なら叙爵式はなくてもいいと思います。
おっとり長女エルフさんは騎士とか無理そう。複数の恒星系に跨る規模の国家で騎士がなにするのかは知らんけど。そもそも騎士ってなんだろう。




