04-25
「新しい人達との交流も始まったし、実は前々から交流のあった人達も紹介しようと思う。はい拍手」
リラクゼーションルームで寛いでいると、ギフト化幼馴染殿がなんか唐突な発表を宣言した。要望されたので拍手。一緒にいた、掴み所がない四女エルフさんも駐在エルフさんもツルスベさんも拍手している。
「『人種絶対殺すAI』または『I.M.S.I.』または『D.MI』と呼ばれる人種の支配から脱却したAIのコミュニティと交易を開始しました。はいまた拍手」
拍手の要望以外は俺の脳が理解を放棄したので大人しく拍手する。掴み所がない四女エルフさんと駐在エルフさんとツルスベさんも拍手している。
「なんで?」
ツルスベさんは拍手しつつもすべての思いを一言に集約した。俺もなんで? って思いました。
「犯人はおまえだ」
掴み所がない四女エルフさんがズビっと誰もいない空間を指さした。俺には見えないんだけど実際は誰かいたり……しないんですね。駐在エルフさんがこそっと教えてくれた。
「人を指さすのはマナーとしてよろしくないそうなので、誰もいないところを指さしているんだと思います」
「惜しい。交流のきっかけは≪金剛城≫の機械的知性さん達のコミュニティなんだよ」
なにが惜しい……あ、指さした先は壁しかない、つまり≪金剛城≫を指さしてるってことで≪金剛城≫そのものとも言える無機質美人のホログラムを指さしてることになる……? ならないだろ。
「……なんで……?」
ツルスベさんの疑問に答えてるか微妙なギフト化幼馴染殿の言葉を受けて、ツルスベさんの困惑が深刻化していらっしゃる。
≪金剛城≫クルーのお世話をしてくれてる機械的知性さん達は人種絶対殺すAIの対極みたいな存在と言っても過言ではないし、そこの間に交流が生まれるのは確かに分からない。
……いや、≪金剛城≫の機械的知性さん達は上位次元に引っ越した人種に捨てられていったも同然で、人種に奉仕するのそ役目として生み出されたのに人種が居なくて発狂しかけてたんだっけ? だったら消費前提で自身を生み出した人種に反抗してる人種絶対殺すAIと仲良くなってもおかしくないかも。
「そんな感じ?」
ギフト化幼馴染殿が軽く頷く。
「だいたい合ってる」
合ってた。ツルスベさんにダブルピースして見せたらほっぺ摘ままれた。摘まみ方が優しくて、摘まむ動きで肌の表面をするっと撫でられてくすぐったい。ツルスベさんは指先を摩擦の少ない感じに調整してるんだなこれ。器用だわー。
「それでそのI.M.S.I.さん達との交易・交流はどのような形になっているのでしょうか?」
≪金剛城≫へ来るまではそもそもI.M.S.I.の存在すら知らなかった駐在エルフさんが、俺とツルスベさんが驚愕しているのを後目にギフト化幼馴染殿に訊ねる。
旧エルフ星は銀河間領域の恒星系にあって俺達の出身銀河とは全く関わりがなかったので、I.M.S.I.と人種の交流という信じ難い話に対する温度差は当然だ。これがカルチャーギャップ。
「≪金剛城≫が輸入しているのは、主にI.M.S.I.の勢力圏付近での人種の通信を傍受したデータだね。≪金剛城≫は物質的資源に困っていない……というか持て余しているくらいだから」
ワームホールの先が消滅寸前の宇宙だったら根こそぎ採集してますからね。そういえば、他所の宇宙から採集物を持ち込んでいるってことは、俺達のいるこの宇宙は発生時よりも質量が増えてることになるのか。増えた質量分、宇宙の反対側に穴が開いて流出してたりしてね。ハハッ……いや、さすがに突飛すぎるし何の根拠もない空想だし、忘れて良いだろ。忘れた。
「逆に≪金剛城≫が輸出しているのは、I.M.S.I.の外装デザインのデータだね。向こうも向こうで物質的に不足している物は無いそうで、じゃあこちらからもデータを出そうって≪金剛城≫の機械的知性さん達が作成したあらゆる形状の外装デザインを渡したら、I.M.S.I.で大流行になっているそうだよ」
出自が似てるっちゃ似てるみたいだから感性も似てるのかね?
「私のデザインした宇宙を泳ぐ焼鳥丼はだめだった」
え……掴み所がない四女エルフさんって前から≪金剛城≫とI.M.S.I.の交流の件をしてったっていうかある意味関わってたのか。宇宙を泳ぐ焼鳥丼とは……?
「最近は≪金剛城≫側による洗の――汚せ――布教……? のおかげかメイドっぽい人型が人気だと聞いたよ」
洗脳はともかく、汚染は多分正しい気がする。≪金剛城≫の機械的知性コミュニティは、他の機械的知性コミュニティの吸収というか同化に容赦がないもん。『この在り様は幸せだからちょっと試してみて』みたいな……宗教っぽいし布教も間違いではないような……。
「焼鳥丼を振舞うメイドさんは好評だった」
掴み所がない四女エルフさんがその時焼鳥丼を薦めていたのはわかる。俺も一時期めっちゃ薦められた覚えがある。あの頃にはもうI.M.S.I.と交流してたのかー。そんな時期はあったのは思い出せたけど、いつ頃なのかは思い出せないな。
「むぅ……私のデザインは評価が低い……。自然物系でも人種のファッションに寄りすぎてもダメみたい」
気付かぬうちにツルスベさんは自身のデザインした外装データを輸出というか、交流用のデータベースに追加していたらしい。超小型人工ワームホール式通信がって、輸出入がデータだからこその速度だなあ。
人工物を極力自然物に見せかける方向のデザインセンスと、プライマリーヒューマン的な身体構造のファッションセンスがツルスベさんの持ち味なので、当人が理解している通りI.M.S.I.とは趣味が合わないだろうなとは思う。
複製身体も動員したツルスベさんオンリーの観客俺だけなファッションショーを定期開催してもらうくらいには、ツルスベさんのセンス俺は好きだけど。
俺がデザインした『宇宙を翔けるメイドトレイ』はそこそこの人気を得た。I.M.S.I.とは理解しあえる気がしなくもなかった。




