04-24
≪金剛城≫というか金剛経済圏側からは機械的知性たちを派遣し、蟻由来人種の人達側からはこちらの機械的知性と同様な存在が派遣され、二者を介した俺達と蟻由来人種の人達との交流は何事もなく平和的に進み、蟻由来人種の人達側からはこちらの機械的知性と同様な存在が派遣され、二者を介した俺達と蟻由来なぜ宇宙雨を使った異文明の探査を行っているのかも判明した。
蟻由来人種の人達は銀河一つを統一した国家を構築しており、その国家、つまりその銀河にはほぼ完全に蟻由来人種しか人種はいない。
蟻由来人種の人達は昔、同銀河内の他の人種に人種と認められず、繁殖させやすく汎用性の高い道具として扱われていた。
そんな扱いを受けていれば行きつく先は、互いの種族の未来全てを賭けた戦争というのも納得できる話ではある。
現在のあちら側の銀河に「ほぼ蟻由来人種しかいない」というのは「銀河の支配者である蟻由来人種が確認できている範囲では、蟻由来人種しかいない」という意味だという。
俺たちは当事者の一方である蟻由来人種の人達からしか話を聞けていないが、俺たちが知る人種と分類される生物の精神性を鑑みるとそんなこともあるよねくらいには珍しくもない話だ。
銀河丸ごとの規模はともかく、惑星単位や恒星系単位では俺の出身銀河でも人種同士の根絶戦争はありふれている。
逆に人種共通の性質を見出せて互いにシンパシーを抱いたり相互理解のとっかかりになる……かもしれない。
いや、銀河規模でそこまでやるのはすげーわ。
当人である蟻由来人種の人達の言葉の信頼性は脇に置き、過去のことは過去のことだ。
大事なのは今のところ蟻由来人種の人達は俺達に対して友好的であることと、いざ事を構えたとしてその時俺たちが生存するにはどうすべきかである。
「はい、そこの皇女顔の貴女。貴女はどうしたら良いと思いますか?」
俺の胴体くらいある焼き菓子を一緒に囲んでいる帝国皇女リーダーさんに無茶振りしてみる。帝国皇女リーダーさんは突発事態によわよわで俺ですら不安に思うレベルなのでこうやって細やかなビックリ感でその辺りを改善できないかなという俺のやさしさだ。
フォークで焼き菓子をパクっとやって今私は幸せですと大書されていた帝国皇女リーダーさんの顔が、俺の無茶振りによって驚愕に染め上げられている。
この人の顔芸が結構好き。
「え……? 皇女顔……? わ、たし……? え、なにが、なにをどうしたら……?」
なんか俺の想像以上に狼狽えていて、俺はどんな悪逆を働いたのか心配になってきた。
もしかして目の前でふわふわヘアーさんと悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子と俺が話してたの全く聞いてなかったとか……。そんなに焼き菓子美味しかったですか? 場所によって果物とか肉とか野菜とかぷるぷるもちもちのなにかとかが盛りだくさんなあれこれを詰め込んだサクサクパリパリな大きい焼き菓子、確かに俺もすごい美味しいと思うよ。
「あの、なんかごめん……もっとお食べなさって」
視線があっちこっち行ってスゴイ速さで瞬きしておでこに汗だらだら流れ始めたのを見て、さすがの俺も居た堪れなくなった。焼き菓子を切り分けて、帝国皇女リーダーさんのお皿からあふれんばかりにそっと盛ってあげる。
次話を振られたら絶対に上手く答えないといけない……みたいな顔でこっちを警戒しつつ焼き菓子をちょっとだけ食べる帝国皇女リーダーさんを見てとても心が痛くなった。本当にごめん……。
俺に向けてぐっと力強いポーズを見せた悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子が、すすすと帝国皇女リーダーさんの傍に寄っていき、ぽしょぽしょと小声で話しかける。おそらくはケアは任せてくれ的なことなのだろう。
頼もしい悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子に後を任せて、俺はふわふわヘアーさんと共にちょっとだけ離れて様子をうかがうことにした。
インプラントデバイスで俺にだけ声かけてくれればいいのに、なんでよくわからんポーズだけだったんだろう。
「流石に反省しました」
ふわふわヘアーさんのじとっとした視線がツライ。
「タイミングが悪かったわね。金剛経済圏から金剛帝国に変わったらあなたは皇帝でしょう? 接し方を変えるべきか、どう接するのが正しいのか、あの子は最近悩んでるところなのよ」
それにしたってインプラントデバイスのログを確認するとかやりようはあるでしょうに、あの子は錯乱しすぎでしょうとふわふわヘアーさんが溜息を吐く。ふわふわヘアーさんはなんでか溜息が似合う。いろっぽーい。
「金剛帝国の件はどうしようもないのでさて置いて」
「さて置くのね」
「さて置いて。蟻由来人種の人達と事を構えざるを得ない状況になったらどうしよう。相手は銀河を統一してる文明だとか、しかもそれが単一種族によるものだとか、更には長くとも二十数年で銀河間航行できちゃうくらいの技術力があるとか……逃げるしかないのにこれ逃げられなくない? 宇宙の端っこの方にでも引っ越すしかなくない?」
ふわふわヘアーさんがうんうんと聞いてくれるので考えてたことを言ってみた。金剛経済圏まるごと宇宙の端っこに引っ越すのは良い案かもしれない。
「そんな悩み多きご主人様にこの私めが素晴らしいものを用意いたしました」
新しい飲み物をすっと出してくれた悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子が「キャラ立ちしたい」と書かれた布を右肩から左脇に引っかけてそんなことを言った。
言ってることも気になるけどそれよりもその布何?
「ふふふ……神出鬼没な上位存在な方に頂きました。タスキって言うそうです。タスキと一緒に頂いた、こちらの『ドキ☆蟻由来人種と≪金剛城≫のマル秘戦力比データ』をご覧ください」
無機質美人のホログラムは何してんだろう。それに悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子は、二十年? 三十年? にわたってキャラの弱さを気に掛け続けてるのか……自称メイドだったはずだし、裏方ならキャラが弱いのもおかしなことじゃなくない?
「解説役もご用意しております。……ほら、皇女顔の方。失点を取り戻す好機ですよ」
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子が焼き菓子を食べ終えた帝国皇女リーダーさんに声をかける。自分で解説しないんだ。
「はい。しっかり読み込んだので大丈夫です。お任せください」
さっき汗ダバダバダで視線キョロキョロさせてた人とは同一人物に見えないくらい頼もしい。
俺とふわふわヘアーさんと悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子でパチパチと拍手で帝国皇女リーダーさんを迎える。
「こほん……蟻由来人種の方々と≪金剛城≫の戦力を比べると……そうですね、≪金剛城≫を人だとして、蟻由来人種の文明の正規艦隊の宇宙船は……蟻ってわかります?」
俺達に訊ねつつも蟻がどういう生物なのかという資料をホロウィンドウで表示する帝国皇女リーダーさん。
「蟻ってこんなちっちゃいんだ」
ウン十年前に運送業をやってた頃、研究用だかの資料として運んだ際に見た目とかは知った覚えがあるものの、具体的なサイズとかは今の今まで知らなかった。
「蟻一匹だと人を制圧するには毒とか病気とかでもないと基本的には無理ですけれど、一部屋丸ごと埋め尽くすくらいの量が居れば――」
「すみません、想像しちゃったんでこの話は一回中断で」
いや、だめでしょ。なんてものを想像させるんだ。おそろしい。
ふわふわヘアーさんなんて腕に鳥肌立ってるぞ。鳥由来人種って言ってもふわふわヘアーさんの鳥っぽい特徴なんて羽毛っぽい頭髪くらいしかないのに。こんなにわかりやすい鳥肌がっ。
「そういうあなたも鳥肌よ」
俺自身もびっくりするくらい、俺も鳥肌たってた。




